58本目・命名!ぷるりん!
トリスタン郊外。聖竜の光で生まれ変わった農場は、今日もまったりとした空気に包まれていた。
空は晴れ渡り、風は心地よく、ニコチ草の葉がゆらりと揺れる。
その畑の中央で、ぷるぷると震える青い塊。
「ぷるり~ん♪」
そう、あの時、森で出会ったフロストスライム――今では“ぷるりん”と名付けられ、農場の新しい仲間として正式に迎えられたのだ。
「うむ、いい名前だな!」と胸を張るきい。
「……本気で言ってる?」と瞬が片眉を上げる。
「だって可愛いじゃないにゃ!」
「まぁ……可愛いけどさぁ……」
「ぷるり~ん♪」と本人(?)も嬉しそうに返事している。
その愛嬌に、さすがの瞬も笑ってしまった。
しばらくして、ぷるりんは畑仕事にも慣れてきた。
彼(彼女?)の得意技はなんと、害虫駆除。
体内から放たれる微弱な冷気で虫を凍らせ、ぷるん、と跳ねて回収する。
「うわぁ……きれいに凍ってる……!」
「ぷるり~ん♪」
そして、ぷるりんが害虫を処理したあとには、ほんのりと甘く、スッと鼻を抜けるような香りの結晶が残っていた。
「これ……もしかして……」
瞬が結晶を指先で砕くと、スッとした爽快な香りが立ちのぼる。
「ああっ、この香り……まるでメンソールじゃねぇか!」
興奮した瞬は思わず畑で小躍りした。
優衣は笑って、
「メンソール……現世で吸ってたあのスースーするやつ?」
「おう……あれがないと、なんか物足りねぇんだよなぁ……!」
「ぷるり~ん♪(ドヤッ)」
その夜、瞬はランタンの灯の下で実験を始めた。
ニコチ草を乾燥させ、ぷるりんの結晶を細かく砕いて混ぜる。
香りのバランスを何度も確かめながら、ガイエンに頼んで火加減を調整してもらう。
「こいつを……こうして……よし!」
巻き上がった一本を火口にくわえ、静かに吸い込む瞬。
スッとした清涼感が口いっぱいに広がり、喉の奥を通り抜けて肺を撫でる。
「……っはぁ~~~~! これだ……! 俺が求めてたのはコレだぁぁぁ!!!」
「ぷるりん♪(ドヤ顔)」
「お前……マジで天才スライムだな……!」
優衣が苦笑しながら、
「ふふっ、ぷるりんがいなかったらメンソールの再現なんて無理だったかもね」
「ぷるぷるっ♪」
「もう完全に農場の守護スライムだにゃ!」ときいが頭を撫でると、ぷるりんの体が気持ちよさそうに波打った。
夜の農場。
ランタンの灯りに照らされて、ぷるりんがちょこんと並んで座っている。
瞬が煙草をくわえ、ゆっくりと空を見上げた。
「……まさか異世界で、またメンソール吸えるとはな」
「よかったね、瞬」
「おう……ぷるりんのおかげだ」
ぷるりんは得意げにぷるんと揺れ、青く輝く体が月光を反射してきらめいた。
こうして、フロストスライム改め“ぷるりん”は、トリスタン農場の正式な仲間として迎えられた。
害虫駆除に、冷却保存に、香料生成に――そしてなにより、癒し担当として。
今日も農場には、笑いと煙と、ぷるりんの「ぷるり~ん♪」が響いていた。




