22本目・家具襲来
ニコチ草を蒔いてから数日。
畑の土は黒焔・クワの力もあってふかふかに保たれ、芽が出るのも時間の問題だった。
瞬は毎朝のように畑を眺め、まるで子供のようにそわそわしている。
一方で優衣は、頼んでいた家具が少しずつ家に届き始め、部屋がどんどん賑やかになっていくのを嬉しそうに見守っていた。
テーブル、椅子、ベッド、タンス……そして台所の道具まで。
そんな中で、ふときいが窓辺にちょこんと座り、尻尾をしゅんと垂らしていた。
「にゃぁ……なんか、私の場所がない気がするにゃ……」
寂しそうに呟くきいを見て、優衣と瞬は顔を見合わせた。
「……そうか。きいの部屋、用意してなかったな」
「やっぱり家族なんだから、きいちゃんにもちゃんと部屋作ってあげないとね」
◇
次の日。
瞬と優衣は、家具職人ガイモンの紹介で小部屋を改装し、きい専用のスペースを作った。
ふかふかのクッションや小さなベッド、窓辺のキャットウォークまで。
「どうだ、きい。お前の部屋だぞ」
胸を張る瞬。
しかしきいは部屋を一周したあと、
「にゃぁ……いいけど、やっぱりママのいる場所が一番落ち着くにゃ」
と、当然のように優衣の膝に丸まった。
「えぇぇ!? せっかく作ったのに!?」
「ふふっ……まあ、これもきいちゃんらしいよね」
肩をすくめる瞬に、優衣は笑みを浮かべた。
◇
さらに庭では、瞬が畑に“きい用の爪とぎ兼トレーニング用カカシ”を設置した。
頑丈な丸太に藁を詰め込み、布で覆った人形のようなもの。
「これで戦闘の練習もできるし、爪とぎも思う存分だ」
さっそくきいは飛びかかり、
「にゃにゃにゃにゃ!」
と爪を振り回し、最後は後ろ足で蹴りを入れる。
その姿は完全に戦闘訓練であり、瞬も優衣も思わず吹き出した。
「カカシっていうより……きいの専属スパーリング相手だな」
「ほんと、猫なんだか戦士なんだか分からないね」
笑い声が響く庭。
新しい家、新しい畑、そしてきいの“部屋(?)”。
こうして少しずつ、三人の生活の形が整っていったのだった。




