20本目・祝賀会
購入を決めた翌日。
瞬・優衣・きいは早速、郊外のボロ家へと向かった。
荒れ果てた庭、穴だらけの屋根、傾いた柱。
「……うーん、やっぱりボロい」
優衣は腰に手を当て、ため息をつく。
だが、瞬の顔は明るい。
「いや、ここからだ! ここを俺たちの拠点にするんだ!」
そう言って《黒焔・クワ》を肩に担ぐ姿に、きいが呆れ顔でつぶやいた。
「すっかり農民の顔になってるにゃ」
◇
修繕を始めようとしたそのとき――
「おーい!」
低い声とともに姿を現したのは、ドワーフ兄弟のガイモンとガイエンだった。
背中には木材や工具をどっさり背負っている。
「聞いたぜ! 鍬神が家を建て直すってな!」
「お前らだけじゃ無理だろ。手伝ってやるよ!」
さらに――
「ほっほ、面白いことをしておるではないか」
ギルドマスター・ハインズが白髪の髭を揺らしながら現れ、
「仕事の合間に来てみました」
受付嬢のエルフ女性も微笑みながら顔を出した。
気づけば、近所の冒険者や街の人々までもが集まっていた。
「鍬神が本気で農家をやるらしいぞ!」
「それは一目見に行かねぇとな!」
◇
そこからは、まるで祭りのような修繕作業が始まった。
ドワーフ兄弟は鍛冶と木工の技術を駆使し、
ハインズは魔法で補強を施す。
受付嬢は器用に布を織り、窓辺に新しいカーテンを飾る。
冒険者たちは屋根を直し、子供たちは草むしりを手伝った。
「おーい、鍬神! そこ持ち上げろ!」
「はいよ!」
瞬が《黒焔・クワ》で地面を耕せば、硬い土が嘘のようにほぐれ、皆の口から歓声があがる。
夕方には、崩れかけていたボロ家は見違えるほど立派に生まれ変わっていた。
庭も整地され、小さな畑の準備まで整っている。
◇
そして夜――
修繕を手伝ってくれた人々を庭に招き、大宴会が始まった。
焚き火を囲み、ドワーフ兄弟が酒樽を持ち込み、冒険者たちが肉を焼き、街の人々がパンや果物を並べる。
ギルドマスターも珍しく上機嫌で杯を掲げ、受付嬢は子供たちと笑い合っている。
「はーっ、幸せそうね」
優衣はステーキにかぶりつきながら、周りを見渡して微笑む。
瞬は焚き火の端でタバコをふかし、にやりと笑った。
「俺はタバコが吸えたら良いのさ……でも、こういうのも悪くないな」
そのとき、膝の上で丸くなっていたきいが顔を上げて言った。
「……なんか最近、ワイバーンとか鍬とか……私の出番が少ない気がするにゃ」
「「あははははっ!」」
優衣と瞬が同時に笑い出し、宴の輪がさらに広がった。
こうして――
《農民の鍬神》の拠点は完成し、街の人々からさらに愛される存在となったのだった。




