14本目・聖剣舞・流星二十華
「グオオオオオッ!!」
赤黒いワイバーンが咆哮を上げ、口から灼熱のブレスを吐き出した。
大地が一瞬で焦げ付き、草花は灰となって舞い散る。
だが、その炎の中に立つ優衣の姿は――びくともしていなかった。
彼女の全身を包む“全属性魔法耐性”が、灼熱を完全に弾き返していたのだ。
「……私には効かないよ」
優衣の瞳が冷たく光る。
次の瞬間、ワイバーンの尻尾が唸りを上げて振り下ろされる。
だが“物理攻撃完全無効”の加護によって、その一撃もまるで紙を打つように弾かれる。
「ぐ、ぐお……!?」
ワイバーンが動揺する。
その隙に、きいが前へ躍り出た。
「こっちを見るにゃ! おまえの相手はぼくだにゃ!」
きいの声が広がり、不可思議な波動がワイバーンに突き刺さる。
挑発スキルが発動し、巨体の視線が猫へと向いた。
「グルルル……!」
赤黒い瞳がきいを捉えた瞬間――
「今だ!」と優衣はドワーフの男を抱え、近くの岩陰へと駆け込む。
「ここなら安全だから!」
「す、すまねぇお嬢さん……!」
震えるドワーフを残し、優衣は再び戦場へと戻る。
そこでは――
「ぎにゃあああっ!!」
きいが必死に跳ね回り、尻尾と爪の連撃を紙一重で避け続けていた。
「この……! きいちゃんをイジメるなぁぁぁぁ!!!」
優衣の怒声が森に轟く。
その瞬間、彼女の身体が淡い光に包まれ、剣が星のように輝いた。
「――剣神スキル、聖剣舞・流星二十華!」
銀の刃が宙を舞い、二十の閃光となって降り注ぐ。
星々が夜空を駆けるがごとく、剣閃が流星群のようにワイバーンを斬り裂く。
「ギャアアアアアアッ!!」
赤黒い巨体は悲鳴を上げ、無数の斬撃が爆ぜるように閃光を散らした。
最後の一撃――心臓を貫く鋭い突きが走り、ワイバーンは天を仰ぎながら崩れ落ちた。
「……終わった」
優衣は刃を収め、肩で息をつきながらきいを抱き上げる。
「お、お前……すごすぎるにゃ……」
きいは毛を逆立てながらも、ホッとしたように目を細めた。
岩陰からドワーフの男が駆け寄る。
「命の恩人だ……まさか、ワイバーンを一人と一匹で倒すなんて……!」
優衣は苦笑して首を振った。
「一人じゃないよ。きいちゃんがいなきゃ、きっと守れなかった」
こうして、赤黒いワイバーンとの死闘は幕を閉じた。
だがその異常な個体の出現は、ただの偶然ではない――
二人と一匹は、まだ知る由もなかった。




