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13本目・一方その頃

冒険者ギルドの大扉を押して入ると、すでに朝から賑わう冒険者たちの声が飛び交っていた。

木の床に響く重いブーツの足音、酒場から漂う肉の匂い。

その喧騒の中で、優衣ときいの目にすぐ入ってきたのは――


「あら、いらっしゃい。優衣さんときいちゃん」


カウンターの奥に立つ、受付嬢の美しいエルフ風の女性だった。

長い銀髪が肩に流れ、整った耳のラインがわずかに覗く。

昨夜、瞬たちを出迎えてくれたあの笑顔が、今朝も変わらず柔らかい。


「おはようございます!」

優衣は元気よく挨拶を返し、腰のダガーを軽く触る。

「今日も何かクエストに挑戦したいと思ってきました」


きいはカウンターにぴょんと飛び乗り、胸を張る。

「ぼくもやる気満々にゃ!」


受付嬢はクスリと笑みをこぼした。

「ふふっ、頼もしいですね。では……」

そう言って机の上に数枚の依頼書を並べる。


そこには、薬草の追加採取、街道沿いの害獣討伐、商人護衛の初級依頼などが記されていた。

どれも駆け出し冒険者にとってはちょうど良い難易度に見える。


「昨日の薬草依頼は見事でしたね。報酬の品物も喜ばれていましたし、評判も上々ですよ」

受付嬢は微笑みながら頷く。


優衣は少し誇らしげに笑った。

「ありがとうございます。きいが頑張ってくれたおかげです」


「にゃはは! ぼくは鼻が効くからにゃ!」


受付嬢はそんな二人の様子を楽しそうに眺めたあと、真剣な顔に切り替える。

「ですが……今日は一つだけ注意があります」


「注意?」

優衣が首を傾げる。


受付嬢は声を落とし、依頼書の一つを指で示した。

「ここ最近、街道沿いで“ライトウルフ”以外の魔物の目撃情報が相次いでいます。危険度は低いはずなのですが、念のため慎重に動いてくださいね」


優衣は頷き、依頼書を手に取る。

「大丈夫です。きいもいるし、気を付けます」


きいも真剣に返す。

「優衣を守るのはぼくの役目にゃ!」


受付嬢は安心したように微笑んだ。

「それなら心強いですね。お気をつけて、いってらっしゃい」


二人は依頼書を受け取り、冒険者ギルドを後にする。


優衣ときいは、昨日と同じ薬草採取の依頼を手にして街の外へ出た。

受付嬢からは「あなたたちならもっと上位依頼でも余裕ですよ」と勧められたが、優衣は首を横に振った。


「瞬に、もっとニコチ草を届けてあげたいから」


そう言って、きいと一緒に街道を進んだ。


◇◇◇


昨日と同じように、緑の草地にしゃがみ込み、黙々と薬草を摘み取る優衣。

鼻をひくつかせて、周囲の匂いを辿るきい。

その平和な空気を、突如として乱したのは――


「ガルルルル……」


茂みの影から現れたライトウルフの群れだった。

だが、その様子が昨日とは明らかに違っていた。

牙を剥いているものの、動きはぎこちなく、何より――その瞳には怯えの色があった。


「……どういうこと?」

優衣は剣を抜きながら目を細める。


きいは耳を立て、鼻をひくひくと動かす。

「……怪しい臭がするにゃ。これはただの狼じゃない、もっと強い何かに怯えてる臭いにゃ!」


優衣の背筋に冷たいものが走る。

もし危険な存在が近くにいるなら――それは、やがて街にまで及ぶかもしれない。


「……行こう。今のうちに確かめなきゃ」


優衣はライトウルフの群れをやり過ごし、きいの先導で森の奥へと足を進める。

木々の間を抜け、湿った空気を割るように進むと――視界が一気に開けた。


そこにいたのは、背中に大きなかごを背負い、薬草を山のように積んだドワーフの男。

そして――


赤黒い鱗に覆われた、巨大な影。

翼を広げ、鋭い瞳で睨み下ろすそれは――ワイバーン。

だが、その姿は優衣の知るものとは違っていた。

ただの魔物ではない、禍々しい気配。

まるで血と炎を纏ったかのように、赤黒く染まったワイバーンだった。


「……っ!?」

優衣は息を呑み、剣を構える。

きいは毛を逆立て、低く唸った。


ドワーフの男は必死に叫ぶ。

「誰か! 助けてくれ! こいつ……ただのワイバーンじゃねぇ!」


空気が張り詰め、赤黒い巨影が咆哮を上げた。

大地が震え、森が軋む――


優衣ときいに、初めて“本物の脅威”が迫ろうとしていた。

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