刀の評価
幻影が消え、世界に常識が戻ってくる。
後には、元の子猫が残されているだけ。
「ふぅ……」
知らず知らず、胸に溜まっていた息を深くゆっくりと吐き出す。
先日、感知したほどではないが、強力な霊力を放っていた存在が消えた事で、緊張の糸が切れたのだ。
子猫は呑気に欠伸をして、前足で顔を洗っている。
演技ではなさそうだ。
どうやら、完全に去ったらしい。
「して、どうじゃ?」
今この場で造られた霊刀を見ている義景に、竜介は訊ねる。
膨大な霊力を使用していた事は分かるが、見ただけで術式を理解できるほど、彼は博識ではない。
加えて言えば、一切の道具類を使わず、術のみに頼って霊刀を作成するなど、見た事どころか聞いた事すらない。
それ故に、現時点ではどの程度の物が出来たか分からない。
分からない事は、素直に訊ねるに限る。
そうと考え、問いかけたのだが、義景は反応しない。
じっと刀を見つめ、固まっている。
「おい」
再度の呼びかけ。
しかし、やはり何も答えない。
「おい、義景!」
「んお!? な、なんじゃい、クソガキ!」
「何だ、ではないわ! どうなのか、と訊いておる!」
「ああ、これか……」
霊刀を持ち上げ、一瞥する。
「刀としての出来は、まぁまぁ程度じゃの。
業物とは呼べんが、数打ち品としてなら合格という所じゃろう」
「それで? 霊刀として、術具としてはどうなのじゃ?」
「…………」
義景は無言になる。
そして、周囲を見回し、部屋に飾られていた一本の刀を見つける。
それは、見栄えが良いばかりで大した力はないが、それでも業物と呼べる程度の代物である。
「おい」
無言で近付いてそれを取り上げる義景。
それを宙に放ると、柄も何も付いていない、剥き出しの刃を一閃させる。
義景は、刀鍛冶であって剣士ではない。
刃を扱う者として、多少の心得はあるものの、達人には程遠い。
であれば。
結果は適当に弾き飛ばして、それで終わりの筈だ。
筈だった。
響いたのは、カツッ、という軽い音。
放られた刀は、鞘ごと真っ二つになって落ちてしまった。
「と、まぁ、こんな具合じゃ」
「テメェ、何してやがる!」
一応は値打品である。
あまり裕福な訳ではない草薙家にとって、使い捨てるには勿体無さ過ぎる価値がある。
それを真っ二つにしてくれた義景に激昂する竜介だ。
「ええい、やかましいわ!
これに比べれば、そんなもん、ゴミみたいなもんじゃ!」
義景は叫び返し、霊刀を掲げて見せる。
「良いか、小僧!
これは二流品じゃ! 刃として優れているとは言い難い!
にもかかわらず、これじゃぞ!?
何らかの加護が施されておる!
人の身で! しかも、あの一瞬でそれを付与したのじゃ!
術具としては一級品どころではないわ!
神器と呼んでも何の違和もないぞ!」
「そ、それほどなのか?」
「ああ、そうじゃ。はっきり言うぞ。
小僧、おぬしの腰にある物よりも上じゃぞ」
竜介の腰にあるそれは、草薙の家に古くから伝わる一振りだ。
天照大御神の加護を受けて作成されたとされる品であり、末席とはいえ、神器として認められている。
火の術式と相性が良く、熟練者ならば鋼鉄の塊さえ、易々と溶かし切る事が出来る物である。
それを超える品だという。
しかも、それは出来の悪い適当な鉄を使って、僅か一時間程度で作成された物である。
尋常ならざる事である。
「小僧。
あれが何者か知らぬ。
何の為に力を見せたのかも知らぬ。
だが、悪い事は言わぬ。
絶対に敵対するような事をするでないぞ。
さもなくば、神器で身を固めた神話の軍勢を相手にする事となるぞ」
「……ああ、分かった。もう下がって良いぞ」
疲れたように腰を下ろしながら、許可を出すとさっさと出ていこうとする義景。
その手には、霊刀が握られたままだった。
「待て。それは置いていけ」
「…………」
一瞬だけ停止する義景。
しかし、直後、霊刀を持ったまま走って逃げだした。
「テメェ、待ちやがれ、この爺!」




