魔刀・蛙丸
そういう事になった。
魔剣、いや、魔刀一本なら安い取引だ。
というか、協力関係を結べた場合、私は伝授する技術に出し惜しみをする気はないので、安いどころではないのだが。
まぁ、それはどうでもいい。
「誰ぞ」
竜介翁が手を叩けば、人の気配が近付いてくる。
入り口に立っていては邪魔かな?
ちょっと脇にずれて待っていると、門下生と思しき男性がやってくる。
「何用でしょうか、竜介様」
「鉄を用意せよ。太刀一振り分じゃ。あと、義景も呼べ」
「はっ」
障子越しの会話で、私が横に避けた意味がなかった。
ま、まぁ、良いさ。そういう事もある。
しばらく黙って待っている。時計の音だけが場を支配する。
じ、地味にきつい。
何がきついって、幻術を維持するのが。
今の私は、前世のほぼ成長期の終わった頃の姿をしている。
交渉事は舐められた時点で不利になる。
その点で言えば、リアルボディである四歳児形態は一目で舐められる姿と言える。
その為に、幻術を使って前世の最後の姿を再現した訳だが、これの維持にじりじりと魔力が持って行かれている訳で。
えと、魔刀、ちょっとばかし手抜きになっちゃうけど、良いよね?
だって、魔力足りなくなっちゃうし。
時間かけて良いなら、総魔鋼製の現状で出来る最高の魔刀を作ってあげられるんだけど、でもすぐにでも成果が欲しそうだし?
ここは我慢してもらいましょ。
それでも、武士が使っている刀よりは優れた物が出来るし。
あっ、こう、術的にね?
私は刀鍛冶ではないから、単純な刃物としての性能は二流程度になると思う。
本気出せば、一流くらいにはなれる……と思う。
業物級は無理だけど。
そんな感じな内心で待っていると、やがて荒い足音が近づいてくる。
そして、仮にも当主の部屋だというのに、伺いすら立てずに堂々と、そして乱暴に開け放たれる。
なんという暴挙、私にはとても出来ないよ。
「こんな夜更けに何の用じゃい、クソガキがッ!」
入ってきたのは老齢の、如何にも頑固職人という風体をした男だった。
傍らには鉄塊を抱えており、どうやらこの男が先程呼び出された〝義景〟とかいう人物っぽい。
「重要な案件じゃ。貴様にも無関係ではない故、呼び出した」
「ああ? 儂に関係あるじゃと?
なんぞ妖刀でも手に入れよったか?
じゃが、何故、鉄まで持ってこさせる?」
「違う。その男が……」
竜介翁が隅っこで気配を消していた私を指し示す。
そこでようやく私の存在に気付いたらしい義景翁が、始めて私へと視線をくれる。
その目は、不審者を見るそれだ。
ここは友好的な事をアピールしてやらねばな。
グッと親指を立ててみる。
警戒度が上がった気がする。何故だ。
「霊刀を作ってみせるというのでな。
どれ程の物か、おぬしにも確認して貰おうと思ったのじゃ」
「はっ、こんな若造がか? 騙されとるんじゃないのかの?」
「そうではないか、確認してくれと言うとるんじゃ」
はい、完全に侮られておりますね。当然だと思います。
「あー、井の中の蛙君、そうケチ臭い事言わずにとっととその鉄を渡したまえよ。
もう夜も更けた。早く帰って寝たいのだよ」
「何じゃと、若造が」
「無駄に年を重ねるだけなら樹木にも出来ると思うと言っているのだが」
「よくぞ言ったな、その暴言! 吐いた唾は飲めんぞ!」
言って、鉄を投げ渡してくる。
ずしりと重いそれ。
あのー、私、今、幻術なの。
物理攻撃とか弱いんだからやめてほしいよね、そういうの。
なんとか受け止めて、状態を確認する。
「……不純物が多少混じっているね?」
「若造の試作には十分じゃろうが」
「これは高く売りつける為のプレゼンなのだ。
あまり粗悪品を差し出す訳にもいかないのだと、何故、老害は分からないのか」
「儂がンな事情など知るか」
御尤もである。
何も知らずにいきなり呼び出されたんでしたね、あーた。
ごめんなー。
悪いのは竜介翁の方だよなー。
「まっ、どちらにしても素材の加工から必要だな。
時間もあまりない。手早く済ませていこう」
魔法陣を展開する。
《空間隔離》《解析》《選別》《分離》。
まずは空間隔離をして、不純物を排した加工場を創り出す。
そして、鉄の構成物質を解析し、不純物を選び出し、取り除く。
これをほぼ一瞬で済ませてしまう。
「な、なんじゃと……!?」
何をしたのかよく分かっていないっぽい竜介翁の表情は変わらないが、私が鉄の純度を一瞬で上げた事を悟った義景翁は目を見開いて驚いている。
ふふふっ、本当に凄いのはここからだぞー。
もっと驚くが良い。
続けて、更に魔法陣を展開。
《神殿形成》。
まずは隔離空間の掃除だ。
物質的に不純物を排した空間から、更に霊的な意味での不純物を取り除く。
「さて……」
ここからが匠の技である。
単純に鉄と言うが、そこには当然、様々な物が混ざっている。
それは物質的な意味だけでなく、霊的な意味でも、だ。
鉄鉱石が埋まっていた土地、掘り出した人間や道具、加工した人間や施設、取引した商売人など、色んな要素が混じり合っており、ぶっちゃけ物凄い汚れているのだ。
それを抜いて、完全な中性素材へと生まれ変わらせる。
これをして、始めて霊的に優れた素材と言える物となるのだ。
ちなみに、これを99.999%以上の純度にまで持って行ける人材は、所謂、人間国宝的な扱いをされて、国家というか、人類全体で保護されていた。
更にちなみに、私は出来る。
出来る様になっちゃった。
おかげで、向こうでは戦闘状況以外ではずっと素材の色抜きをさせられていた。
これがブラック……!
《浄化》《浄化》《浄化》《浄化》《浄化》《浄化》《浄化》《浄化》《浄化》《浄化》――――。
もうね。連打である。
浄化で不純物を抜いても、今度はその浄化によって私自身の属性が付着しちゃう訳で。
それを繰り返す事で少しずつ色を薄めていくのである。
最終的な収支がマイナスなら良いんだよ。
そうして繰り返す事、百回以上。
もうこれだけで私の魔力は大分削られたんだけど、おかげでなんとか納得のいく純度まで持ってきた。
あとは、刀の形にするだけだ。
《鍛造》。
複数の魔法を織り込んだ、複合魔法だ。
中身はその名の通り、鍛造の工程を一通り網羅している。
機械的に加工するだけの魔法だから、完成する作品の出来はまぁお察しである。
仕方ないじゃん!
だって、私、刀鍛冶じゃないもん!
魔法使いで付与術師! マジシャンでエンチャンターなの!
そんなもん求められても出来ないに決まってんじゃん!
変数部分に完成品の形状情報だけ打ち込んで、後は自動進行。
しばらくお待ちくださーい。
完成品は、うん、まぁ、やっぱり二流品。
魔力の奔り方は色抜きのおかげでかなりの優秀さなんだけど、刃物としての性能が悪いから、差し引きで最終評価はトントンというくらいの出来だろう。
魔鋼製ならもっと段違いに出来たんだけど、まぁ出来ないから諦めるっきゃないわな。
仕方なし。ちょっと追加でエンチャントしておこう。
うーむ、内容はどうしようか。まぁ、奇を衒わず、普通な感じで良いかな?
って訳で新しく魔法陣を展開ー。
《付与:切れ味増大》《付与:硬化》。
これで良し。
切れ味と頑丈さがパワーアップで刃物としての評価がプラスされる感じ。
完成ー。てれりらったらー。
かかった時間は、大体一時間強。まぁまぁな記録だな。
銘は……どうしようかな?
そうさな、〝蛙丸〟にしようか。井の中の蛙にあっと言わせる為の一振りですからね!
「ほら、鑑定よろしく頼むよ」
完成した剥き出しの刀を、私は義景翁に差し出した。




