プロローグ
スーパー見切り発車です。
内容もまるで推敲していません。
そんな作品です。
大きく、半球状に抉れた大地。
その中心に、一人の青年が大の字で転がっていた。
中肉中背ほどの体格。
濃紺の衣装を身に着け、その上から鮮血の様な深紅のマントを纏っている。
髪は病的な白さをしており、先天的な白髪ではなく、苦労などの結果、後天的に白くなったものだと分かる。
顔には目元を隠す銀色の仮面を装着し、首には紐に繋がれた首飾りが下げられている。
しかし、首飾りは粉々に砕けており、原形を留めていない。
この広大に抉られた大地は、青年が引き起こした事だ。
壮大な自然破壊、ではない。
結果として見ればその通りだが、それを目的とした行動ではない。
ここは、魔の大地。
つい数分前までは、血と怨嗟に満ちた、魔王城がここにはあった。
禍々しくも雄大なそこは、その名の通り、人類の宿敵たる魔王の居城であり、億千万の絶望と呼ばれた魔王軍の本拠地だった。
そんな場所に、人類は総力を結集して攻め込んだのだ。
異世界から召喚せし大いなる希望達を旗頭に、世界中から軍団を集め、人魔の最後の戦いをしたのだ。
青年は、そんな軍団の旗頭、異世界より来たりし大いなる希望の一人だった。
人類軍のバックアップを受け、魔王城へと攻め入り、彼は単身にて魔王と向かい合った。
何故か。
魔王があまりに強大であり、それと向かい合えるのが彼一人しかいなかったからだ。
盾にする事も出来ず、足手まといにしかなり得ない他の者たちでは、魔王と青年の戦いに踏み入る事は出来なかったのだ。
そして、始まるは神話の戦争。
拮抗する魔王と青年の力。
しかし、拮抗していたのは二人だけ。
人類の軍勢は、終わりの見えない魔の軍勢に押され、刻一刻と削られていった。
やがて、それは共に異世界に来た者たちにも牙を剥いた。
一人、また一人と死んでいく仲間たち。
そして、最後の一人が死んだ時。
青年は、我慢する事を止めた。
元より、彼の本来の戦闘法は、広域殲滅である。
人類軍への被害を抑える為にそれを選択肢から外していたが、ここまで状況が悪化すればそうも言っていられない。
彼は、僅かに残っていた人類軍をも巻き込む形で、この魔の地を単身で破壊し尽くした。
そして、最後に残った魔王を、全魔力を込めた一撃を以て葬ったのだ。
この大地ごと。
その結果が、周囲の光景である。
精根尽き果てた青年は、ただ茫然と空を見上げている。
不吉と絶望を象徴するような暗雲は、戦の終焉と同時に少しずつ晴れ始めている。
大地に、天の梯子が幾つも降りる。
その一つが、青年へと降り注ぐ。
光を浴びた青年は、全身が光の粒へと変換される。
やがて、完全に形を失い、その後には誰もいなくなっていた。
~~~~~~~~~~
真白の空間。
そこに、一組の男女が浮かんでいた。
『ご苦労様でした、選ばれし者よ』
「…………ああ」
神々しさを纏った女性は、女神と名乗る存在。青年たちを異世界へと召喚した張本人だ。
言いたい事はある。
元々の話、召喚された時にされた話では、何の危険もない泡沫の夢であり、娯楽の様な気分でやっていればよい、という事だった。
だが、実際には違う。
世界はあまりにリアルであり、傷付けば痛みがあり、傷付ければ生々しい感触が手に残り、そして殺されれば死ぬ。
そんな当たり前の世界だった。
騙されたのだ、と憤慨した事もある。
神を僭称する悪魔だ、と罵った事もある。
だが、今となってはどうでもいい。
死んだ者たちは戻らない。戻さない。
起きた事は覆らない。覆さない。
そうと決め、覚悟したのだ。
だから、今更、どうこう言う気もなく、ましてや復讐してやろうとも思わない。
『生き残った貴方には、報酬を授けましょう』
「…………」
どうせ禄でもない事なのだろうな、と冷めた目で見る。
だが、続く言葉で首を傾げた。
『貴方には、全てを持ったまま元の世界へと帰る権利を授けます』
「…………うん?」
待て、と思考が言う。帰る? 元の世界に?
「待ってほしい。帰れるのか?」
『当然です。むしろ、帰ってもらわねばなりません。
異界の存在は、世界に負荷をかけ続けます。
今回は、イレギュラーユニット討伐の為の緊急措置でした。
なので、貴方方の存在を保護した上で異界へと送り出したのです』
「……保護されていた記憶はないのだが」
『そうでしょうか? 死後、全ての魂を元の世界へと帰還させていたのですが』
「待て待て。あれ? 皆は生きているのか?」
『当然です。異界の事情に巻き込むのです。
その存在、その命の保証は管理者の義務です。
貴方を除く全ての魂は、元の形に復元した上で送還してあります。
残すは、貴方のみです』
「…………ハハッ。そうか。そういう事か。成程。私たちの勝手な思い込みか」
確かに、夢みたいな物だったのだ。確かに、娯楽だったのだ。
なにせ、死んだら復活できないだけで、死んでも失う物は何もなかったのだ。
神を呪ったのが馬鹿みたいだ。
言葉が足りなかっただけで、こちらが勝手に邪悪だと言っていたのだから。
『生き残りし者よ。では、どうしますか?』
「……ああ、報酬の話だったな。
Yes、だ。
私はこの世界で様々な物を得た。これを失いたくない」
『分かりました』
女神が両手を掲げると、青年の輪郭がぼやける。
色を失い、単なる光の塊へと変換された後、何処かへと消えていった。
『偉大なる者よ、新たな生に幸多からん事を』
元の世界――地球の管理者ではない女神には、彼のこれからの運命は分からない。
故に、自らの世界を救ってくれた救世主に幸福な人生を歩んでほしい、と心から願うしかなかった。
~~~~~~~~~~
地球。極東の島国、日本。某県、某所。
そこにあるとある病院にて、一人の男児が生まれた。
彼の名前は、古賀天満。
本来であれば、どうという事のない、平凡な人生を来るはずの子供。
しかし、その中に異界の英雄の魂が眠る事は、今はまだ、天上から眺める神々しか知らない。
~~~~~~~~~~
私は、古賀天満。
地球ではあまり見られないであろう4歳児である。
というのも、私には前世の記憶という物がある。
いや、前世という言葉は正確ではないな。
前世でも、私は古賀天満だったのだから。
正確には、己がこれから辿る未来の記憶(途中まで)がある、という表現が正解だ。
つまり、逆行転生という奴だな。タイムリープでも良いぞ。
私は、中学三年、15歳となる年齢までは、特にどうという事のない生を送っていた。
勉学や運動をほどほどに頑張り、将来について深く考える事もなく、日々、友人と遊ぶ、そんな日常だ。
それが崩れ去ったのは、中学三年のGW直前だ。
私の所属するクラスと、ついでにその時間に授業をしていた現国教師が、異世界へと召喚されたのだ。
救世の英雄として。
まさかそんな、と驚くべき事態である。
そんな二次元にしか存在しないであろう事態が現実に起こるなど、一体、誰が想像していたというのか。
少なくとも、私は想像した事しかなかった。
すまんな、私も男の子だったのだ。
異世界の勇者として無双だぜウハハ、みたいな事くらい、一度は考えた事があるのだ。
現実に起きてほしくはなかったが。
それからの英雄としての日々は、団結の一言だった。
王道な物語では、仲違いをしたり、調子こいた馬鹿が暴走したり、と色々とあるのだろうが、現実的に考えてそんな事をしている余裕はない。
魔王軍が当地人類のプロパガンダ的な敵ではなく、ガチの天敵であり、人間とあらば問答無用で殺してやる、という殺人種なのだ。
異世界人だろうと関係ない。
なので、私たちは一致団結して立ち向かったのだ。
テンプレ的に私に才能はなかったが、それで虐めが起きるほど、私たちは子供ではなく。
特別な力を得た事で調子に乗った輩もいたが、全員で袋叩きにして取り囲んでド説教かまして更生させた。
私も皆の協力あって、遂に戦う術を身に付け、今までを取り戻す様に最前線へと立つようになった。
だが、敵も強大だ。
一人、また一人と戦乱の中で命を落としていく。
最終決戦に至ったのは、結局、クラスメイトの三分の一程度だったろう。
残っていた者も、決戦の最中に死んでしまった。
結局、生き残ったのは私一人だったという訳だ。
そして、魔王を討伐し、生き残った私は、達成報酬として異世界にて得た物をそのままに、地球へと帰還する事が出来た。
うむ。そう、私だけだ。
かつての記憶があるのは私だけ。
向こうで習得した《ゲート》の魔法を使って、未来のクラスメイトへとこっそりと会いに行ってみたりしたが、記憶が残っている者は一人もいなかった。
世界に一人取り残された気分である。
なんて、悲劇の主人公を気取ってみたり。
確かに、悲劇なのだろう。
死んで、記憶を失った仲間たちの中には、私と恋仲だった女性もいる。
そんな彼女との甘酸っぱいあれこれが、何もかも無くなってしまったとあれば、悲劇とも思える。
しかし、私は正直、それを悲しいとは思わなかった。
冷酷とも思われるかもしれないが、彼女が死んだ時に私はもう受け入れたのだ。
私が愛した女性は死に、世界のどこにもいないのだと。
だから、彼女と同じ姿をし、同じ名を持ち、同じ魂を持っていようと、それは別人であり、私が愛する事はおそらくない。
いや、今度の人生でどれだけ関わるかにもよるが。
よって、個人的にはあまり悲劇と思えないのだ。
さて、話は変わって、そんな私は、現在、神童の様に思われている。
まぁ、当然だ。
肉体的には4歳児だが、中身はもう二十歳を過ぎる人間である。
なるべく見た目相応を心がけてはいるが、演劇の造詣を持たない私では、あまりに拙い演技にしかならず、行動の端々に成熟した大人の雰囲気が見え隠れするのだ。
すまない、期待してくれている両親よ。
私は早熟なだけで天才ではない。
二十歳過ぎたらただの人、の言葉通りな偽物なのだ。
なるべくは頑張ってみますが、あまり過剰な期待はしないでいただきたい。
剣と魔法なファンタジーでなら無双できない事もないけれど、現代社会で魔法の知識や技術などどれだけ役に立つというのか。
技術革命でも起こしてみようか。
魔法文明創始者。
それなら、歴史に名を刻める気もするが、いまいち気分が乗らない。
いざとなったら、程度に考えておこう。
そんな事を考えつつ、平穏で平和な日々を満喫している私であった。




