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異世界チートブレイカー  作者: 九事キチ
エピローグ
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エピローグ

 ――あれから3年経ち、あたしは大学生になっていた。

 神様と喧嘩したなんて嘘の出来事だったように、平凡な毎日を送っている。


「大学生になったら彼氏ができると思ったんだけど、全然できないね」


 大学の食堂で昼飯を食いながら、麻美があたしにぼやく。


「別にあたしはほしくねーよ」


 カレーを食いながらそう返す。

 仮に彼氏がほしかったとしても、こんな馬鹿大学の男なんてまっぴらごめんだ。


「えー! 大学生になったら彼氏つくっていろいろしたくなるじゃん。普通」


 驚嘆の声と共に、箸をこちらに向けてくる。


「そうかい」


 どうでもいい。


「そうだよ! 頭が良くてイケメンでやさしい彼氏がほしいよ! フンガー!」


 鼻息荒くし、立ち上がる。

 こいつは前からアホだったが、大学生になってアホに磨きがかかったような気がする。


「あ! マリリンに紹介してもらおうよ。なんか良い大学行ったじゃん。えっと……と、東証大学だっけ?」


 株でも教えてくれんのかな。その大学は。


「○京大学だろ。国立の」

「それだよ! 頭良いイケメン紹介してもらおうよ」

「お前、あいつに男のダチなんてできると思うのか?」

「……」


 黙ってしまった。こいつはあたしより真理香との付き合いは長いから、あいつの性格はよく知っているはずだ。


「ちょっと電話で聞いてみる」


 鞄からスマホを取り出して、操作を始めた。そしてすぐ耳にあて、


「やっほーマリリン! 麻美だよ。ひさしぶり」


 昨日、3人で飯食ったろ。

 ――2分ほど会話をし、麻美は耳からスマホを離す。通話が終わったようだ。


 スマホを鞄にしまった麻美は、テーブルの上で両手を組み、なにやら難しい顔をしはじめた。

 こんなに難しい顔をするのは、今日の昼飯を塩ラーメンにするか醤油ラーメンにするかを悩んでいた時以来だ。


「どうした?」

「……いやね、マリリンは何のために良い大学に行ったのかなーって」


 真理香と麻美の間でどういう会話が行われたのかは知らないが、だいたい察しはつく。

 しばらく難しい顔をしていたが、やがて考えるのがめんどうになったのか残っている昼飯のラーメンを啜り始めた。


 午後の講義が終わり、家に帰ろうと大学を出たところ、門の近くに高級外車が止まっているのを発見した。


「うわー高そうな車。お金持ちのイケメンが乗ってるのかな」


 こいつは男の事しか頭にないんだろうか。

 例えそうでもあたしは興味ないので、一瞥だけして通り過ぎようとした。しかし……。


「おひさしぶりですわね。神鳥千鳥さん」


 車の後部座席の窓が開き、女が顔を出す。

 その女に名前を呼ばれたような気がするが気のせいだろう。

 そのまま歩き去る。


「ちょ、ちょっとお待ちなさい!」


 無視を続けるが、ずっと車で付いて来る。

 いつまで付いて来るんだしつこいなぁ。


「あなたのライバル最狩命を無視するんじゃありません! さあ、勝負ですわ。神鳥千鳥さん!」


 めんどくさい。

 こいつがあたしの前にふたたび現れたのは、スブルを倒してから2日後くらい。

 直接家に来て、負けたとは思ってないとか再戦を要求するとか喚いてその時は帰っていった。


 死んだかもしれないと不安だったので、最初は生きてて良かったとホッとした。――が、それからこいつは月に一回くらいの頻度で喧嘩を挑んできて今では面倒でしかたない。

 あの時のことを聞くと、スブルのことだけはすっぱり忘れていた。フレディがなにかしたのかもしれない。どうせならあたしのことも忘れさせてほしかったよ。


「うるせえよ」


 後部座席から顔を出す最狩命の額を、デコピンではじきとばした。


「ウカッ!」


 と小さく悲鳴を上げ、後部座席の反対側に軽く吹っ飛ぶ。そのまま静かになり、車は去って行った。


「……いいの?」

「なにが?」


 と返すと、麻美は察したように、


「いや、別に」


 と言った。

 あいつの相手をするのは時間の無駄だ。


 家に帰って居間に行くと、姉貴が煎餅を食いながら一人でテレビゲームをやっていた。

 ヤンキーだった姉貴は高3の頃になぜか猛勉強を始めて、1流の大学に入った。自分の将来に不安でも感じたんだろう。元々勉強は出来た方だったし不思議はない。喧嘩もしなくなり、おとなしくなったと安心していた。

 

 だが、人間そんな簡単には変われないらしく、2年のとき大学の先輩にしつこく言い寄られたとかでぶん殴って気絶させ、その後、その先輩のファンとかいう女達に嫌がらせを受けてキレた姉貴は全員の顔を形が変わるほど殴って退学処分にされた。これでよく警察沙汰にならなかったものだ。


 まあそんなこんなで今は家事手伝いという名目のニートになった。毎日このように居間でゲームをやり、やっていない時は寝ている。

 喧嘩されるよりはましだからいいけど。


「あっ! それあたしがネットで注文してたゲームじゃん。なに勝手にやってんだよ」


 姉貴がやっていたのはあたしがネットで予約して、今日届く予定のゲームだった。


「いーだろ別に。暇なんだよ」

「暇ならバイトでもしろニート」

「あ? ニートじゃねーよ。家事手伝いだ」

「手伝ってねーだろ」

「手伝ってるだろ。ほら……なんだ、朝トースト焼いたし」

「それてめえが食うトーストをてめえで焼いただけだろうが!」

「うるせえな。煎餅やるから向こう行け」


 こっちに袋入りの煎餅を投げ渡してくる。


「ってこれあたしが買った煎餅じゃねーか!」

「あたしが見つけたんだからあたしの物だ」


 海賊かこいつは。

 もう面倒なので部屋に行こうと居間を出る。すると……。


「あ、そういや万鷹から手紙来てたぞ」


 と姉貴が言い、あたしは高速で居間へと戻る。戻った瞬間、手紙が手裏剣のように飛んできた。それをパッと右手で受け取る。

 

「投げんな。ニート」

「だからニートじゃねーって、家事手伝い……」


 居間を出て部屋に向かう。

 エアメールの封筒には、兄貴の字が書いてあった。それを見てちょっとにやける。


 部屋に入り、ベッドで寝転がりながら封筒を開けて中の手紙を読む。

 このご時勢にわざわざ手紙を送ってくれるなんて、本当にやさしい兄貴だ。


 兄貴は海外の大学卒業後、物理学を研究するために研究所に入った。

 手紙には兄貴の近況が書いてあり、ソリューシとかゲンシとかをなにやらいろいろ研究しているらしい。

 そんなのどうでもいいから家に帰ってくればいいのになぁ。


 なんとなく手紙の匂いを嗅ぐ。兄貴の匂いがする。

 ……なにをやっているんだあたしは。


 読み終わった手紙を机の引き出しへと大事にしまい、ふたたびベッドに倒れる。


「はぁ……」


 天井を見ながらため息。

 実に平凡で素晴らしく、つまらない毎日だ。このまま普通に歳を取って、普通に死ぬのかなぁって思うと空しくなる。

 なにかおもしろいことないかな……。


 なんだか眠くなり、自然と瞼が落ちてきた。


    ・

    ・

    ・


『……さん』


 なにか聞こえる。


『千……ーん』


 うるさいな。


『起きませんねぇ。あっ、机の上にお煎餅がありますよ。いただきましょう』


 ……静かになったか。


 バリボリバリボリ


 うるせえ。


『ちょっと下でお茶もらってきますか』


 また静かになった。


『安い茶しかありませんでしたが、まあいいでしょう』


 ……ズズズ


 うるせーなぁもう。


 バリボリズズズ


 うるさい。


 バリボリバリボリズズズズズズ


「うるせえ! 静かにしろ!」


 あまりのうるささに我慢できず飛び起きる。どうせ姉貴が嫌がらせにでも来たんだろうと思って、音がする机の方を見ると、白いワンピースを着た金髪のガキ女が机の椅子に座って煎餅を食いながら茶を飲んでいた。


「あ、起きましたか?」


 煎餅を咥えながらそのガキ女がこちらを向く。見覚えのあるマヌケ顔。

 こいつは……。


「フレディ……か?」

「どひらかふぉふぃえふぁ……」


 机の上の湯飲みを指差す。


「ズズズ……ング、あー……。どちらかと言えばフレンティーユです」


 湯飲みを口から離し、そう自己紹介する。

 あたしは両手で目を擦り、もう一度見た。……居る。どうやら夢ではないようだ。


「な、なんで居るんだ?」

「おっ、それ聞いちゃいます?」


 と言ってなぜかニンマリ笑う。暇だから遊びに来たとかだろうか。


「いやーわたしですね、この度世界を追放されることになりまして、行くところがなくなってここに来たんですよ」

「は? なんだそれ? 意味わからん。お前神様なのになんで追放されるんだよ?」

「まあ、なんと言いますか、転生者に危険な能力を与えたり、それを隠遁しようと異世界人に協力させたりなどの不祥事が明るみにでましてね。部下に神の資格無しと言われて追放されたんですよ。まったく腹立ちますよね」


 腹が立つと言いながら、なぜかフレディは笑っている。


「いや、笑ってる場合か?」

「笑いたくもなりますよ。これから親友の千鳥さんと共にその部下達をぶちのめせるんですから。見ていなさいあのクソ部下共。世界を取り戻したあかつきには、休み無しでボロ雑巾のよう使って潰してやりますからね。わたしを怒らせたことを後悔させてやりますよ。ヒーッヒッヒッヒッ!」


 椅子の上に立って両手を広げ、天井を見上げながらフレディは邪悪に笑う。それを聞いたあたしは右手で額を押さえ、ため息をついた。

 まったく、相変わらずひどい神様だ。


「断る」

「えっ?」


 格好そのままにフレディ驚きの声と共に目線だけをこちらに向けた。


「そろそろ晩飯だなー。下行こ」


 ベッドから出て部屋の扉に向かう。

 フレディは固まり、目線だけであたしを追ってくる。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよー! なんでですか!? わたし達、大親友じゃないですか!」


 椅子から跳び下りて後ろから服を引っ張ってくる。


「うるさい。だいたいなんでここに来れるんだよ。神は生きている人間にほとんど干渉できないんじゃないのか?」


 振り返り、必死であたしの服を引っ張っている神様を見る。


「あっ、わたしもう神はクビになったんで」


 おもしろいことを言ったと思ったのか、ドヤ顔をしている。うざい


「そうかい。じゃあ職安にでも行くんだな」


 扉を開けて廊下に出る。


「そんな殺生な! 協力してくれないとわたし帰れませんよ!」

「知るか」

「協力してくれるまでここに居座りますからね!」

「勝手にしろ」

「お願いしますよー。このお煎餅とお茶あげますから」


 歩くあたしの前に出てきて、食べかけの煎餅と飲みかけの茶を差し出してくる。


「それはあたしの煎餅だ!」

「そうでした(ボリボリ)」

「食ってんじゃねーよ!」


 ハァ、とため息をつき、あたしは居間に行くため階段を下りた。その後をボリボリ煎餅を食いながらフレディは付いて来る。


「今日の晩御飯はなんですか? わたしお腹すいちゃいましたよ」

「食う気かよ」

「もちろんです。言ったでしょう。居座るって。たくさん食べるんで覚悟してくださいね。今更泣いて協力しますって言っても遅いですからね」


 そう言ってフレディは笑顔で自らの唇をペロリと舐めた。


「本当、悪い神様だよ。お前は」

「えーなんでですか?」


 首を傾げるフレディ。

 それを見て肩をすくめるあたし。

 やがてなんだかおもしろくなってきて、笑った。


「なんですか急に?」

「ハハハッ、いや、なんかおもしろいなって」


 フレディは首を反対側に傾げた。

 おもしろくて笑ったのはひさしぶりだ。


「いや、ま、よろしくな。フレディ」

「? 協力してくれるんですか?」

「そのうち気が向いたらな」


 フレディの頭を一度だけ撫でると、ふたたび居間に向かって歩みだす。


「……気が向いたらって、いつですか? いつ気が向くんですかー」


 うるさく声を上げながら、トコトコと後を付いて来る。

 

 おもしろいことってのは案外あるものだ。

 口元に笑みを浮かべながら、あたしは居間へと入った。

異世界チートブレイカー完結です。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

いずれ次回作も投稿したいと思います。

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