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背負えぬ重荷5
『エディン、リディアードさん。
申し訳ないけど、少しだけ、オリヴィエと二人きりにしてくれるか。』
ミネが引き上げたあと、シッキムは二人に頼んだ。
『…分かった。じゃあ、俺、リディアードさんを客間に案内してくる。』
『ありがとう。』
シッキムは、二人が部屋からでると、再び空間を閉じた。
そして、オリヴィエの額に触れた。
『オリヴィエ。オリバー。聞こえるかい。』
シッキムは、静かに、歌うように、話しかけた。
『オルハン・ウィルラルド・パンジェンシー。
君の生まれた時の名前だね。』
『オルハン、パーパからのお願いがある。』
『君の記憶を私に預けてくれないか?』
『君に、生きてほしいんだ。』
シッキムの歌が、虹色のリボンとなり、オリバーの体を包み、そうして消えた。
シッキムは、オリバーの体の上に浮いた、暁色の丸い光を抱くと、大切に懐にしまった。
それから三日間、オリヴィエの高熱は続き
四日目にようやく目を覚ましたとき
オリヴィエは、全てを忘れていた。
シッキムのことも、エディンのことも、
自分の名前も、言葉さえも。




