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オリバーと風の精霊  作者: 問真
第一章 ローズガーデン
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第十二話 東海岸五日目

その日は朝からなんか嫌な予感がした。

シッキムはテーブルの上の、豆の割合と芋の割合と肉の量が異様に多い現地料理をつつきながらため息を付いた。


ことの始まりはエディンが、朝食の席ですさまじい発言をしたことにある。


『シッキム、結婚しよう』


ぶーッ


シッキムは口に含んでいたイチゴバナナスムージーを吹いた。


そして、はっと気が付くと、ちらっとオリバーを見た。


もしかしたら、アレをやってくれるのではないかと思ったのだ。


最初はムカついたが

目線を変えれば非常に可愛いアレ


父上を侮辱するな!


といってくれるんじゃないかと。

しかし、なんだかナイフとフォークに苦戦しているオリバーは顔すら上げなかった。

そして、それにちょっと失望しつつもシッキムは違和感を覚えた。


『あれ、オリバー…左利きだっけ?』


オリバーは眉間に皺を寄せてフルフルと首を振った。


『ううん。ちがーう。』


そしてとうとうオリバーはナイフをあきらめ、フォークだけで食べ始めた。



『ちょっと無視しないでよ。シッキム、俺と結婚してってば。』


エディンはもう一度繰り返した。

どこから持ってきたのか赤い薔薇まで持っていた。


『パーパ。口拭かないと、ミルクは臭くなるよ。』


『あああ、ごめん』


『だーかーらー』


『エディンしゃま、うるさい。頭から、みし、でもわいてんじゃないの』


『虫、な』


オリバーは、そちらのせりふは覚えていたようだ。

というか、オリバー、何気にきついことをいうんだな…

と無責任にシッキムが思ったとき、オリバーがフォークを置いて、ぎっとエディンを睨んだ。


久しぶりの悪い顔である。

シッキムはすぐさま認識阻害魔法を使い、自分たちのテーブルを異常に気づきにくくした。

音声も遮断し、周りには漏らさない。

オリバーがどんな啖呵をきるかわからないが、なんとなく怖いような気がしたのだ。


さすがウィルが才能があるというだけあって、オリバーは魔法の気配に敏感だ。

一瞬、可愛い顔に戻ると、こてんと首を傾げて、シッキムにお伺いをたてた。


シッキムもこめかみを押さえながら重々しく頷いてみせる。


どうぞ、すきにやってくれ。


オリバーはこくんと頷くと


もう一度エディンをぎりぎり睨んだ後、非常に憎たらしい顔で嘲り笑った。


そしてすべらかにいい放った。


『…エドワード殿下におかれましては、いつもそのようなお戯れを?』


『なっ!?』


その発言に驚いたのはむしろシッキムだった。


『戯れではないよ、僕は本気だ!』


『なっ!?』


エディンの変貌ぶりにも、シッキムはもう顎がはずれる寸前だ。


『しかし、僕の正体をよく見抜いたね。』


『アクセントとテーブルマナーである程度のクラスは分かります。あなただって、それで気が付いたんでしょう。』


『気が付い…?!』


シッキムは顎どころか目もこぼれ落ちそうだ。


『確信を持っていたわけではないよ。ただいくつかの情報からそうかもしれないとは思っていたけどね。いいのかい。自分からばらして。』


シッキムはもはや目で両者を追うのみだったが、エディンの顔からも普段の純朴さが抜けており、大変いやなきもちになった。


『ばらす?いったいなにをでしょうか。

ところで殿下はその姿でよくあちらこちらにおいでになっていますが、ばれておりますよ。』


『えっ』


今度はエディンが動揺した。


『…王族のお忍びの話はよく聞きますが、あなたはうかつすぎます。前の村では本国の諜報の方と村のど真ん中の噴水で待ち合わせなさっていましたね。』


『うそっ見てたの?!』


『あなたのストーカーをしている村のお姉さんたちも、建物の隅からみていましたよ』


『えええっ』


『…オリバーのホテルはその真ん前だったから窓から見えたんだもーん。』


『うわっ。おまえずるいな。』


『…オリバー、ちなみに俺はそのときなにをしていたんだい…。』


『ん?パーパはウィンディーにカリカリあげてたの。いちお、よんだけど、パーパは、ちょっとまってねっていって来なかった。』


『ああ…あのときか…って、あんな真っ昼間?!』


シッキムの開いた口はふさがる暇がない。


『くうう…』


エディン…プリンス・エドワードは非常に悔しそううめいた。


『そういうわけで、あまりながいあいだ、あなたが視界から消えると、見守り爺や隊の人たちが騒ぐから、パーパ、もうそろそろ』


『ちょ、なにそれ。見守りじいや隊って』


『四つ向こうのテーブルできょろきょろしてる人と、その二つ左のテーブルでリンゴかじってる人と、その両隣の人。毎回あなたの後ついて歩いて必ず同じ物頼んで、あなたより先に食べてた。毒味だね。』


『わ、ほんとだ。変装してるけどみたことある…』


エディンはさらに動揺していた。


そんなエディンに目を合わせるでもなく


『本国への報告を握りつぶして下さってありがとうございました。』


と、オリバーはさらっと言った。


『そのお礼に申し上げますが、あの見守り隊の方々、一部がリチャード殿下の親衛隊と重複しているように思いますよ。お気をつけあれ。』


そこまでいうと、オリバーは再び、フォークを持った。

そしてぐっさりとソーセージにさす。


それを合図に

シッキムは結界をといた。

オリバーの指摘した見守り爺の一人が、明らかにエディンをみつけてほっとした顔をした。

『……シッキム』


『……なんだ』


シッキムはもう、なにがなんだかわからなくなっていた。


とりあえず好きでもないグリンピースをぐさぐさとフォークに刺していく。


『……結婚して下さい』


『あ!?』


シッキムははっきりいって不機嫌だった。


しかしバカ王子…いや、エディンは止められなかった。


『僕の愛を受け止めて下さいッ』


朗々としたよく通る声でそう叫ぶと

エディンは薔薇の花を口にくわえてシッキムに両手を広げて覆い被さろうとした。


シッキムがエディン越しに食堂を見れば、

ことの異常さに気が付いた全員が固唾をのんで見守っていた。


とくに見守り爺は手を胸の前で組んで祈りすら捧げていた。


ちなみにオリバーは完全に無視している。

オリバーはこのマッシュポテトだの甘い豆だのが好きみたいで、フォークでもりもりと口につっこんでる。


シッキムは大きくため息をつくと、

迫り来るエディンの襟首を両手で掴み、


がすっ!!


と、勢いよく頭突きした。


『……黙って、飯を食え。』



そして、エディンの襟首を掴んだまま元の席に座らせると自分も席に着き

やたらと多くもりつけられたグリーンピースをひたすら口にはこんだ。

バカ王子はメソメソ泣きながら、それは綺麗にナイフとフォークでバナナをさばいた。


〇〇〇


遙か北の海辺の城塞都市ミラから、東海岸を五日も南に走れば

もうそこはイルガントだ。


イルガントの首都ロンドニウムは、たくさんの民族が集まる交易都市。


シッキムは、荷を降ろし、隊商と分かれると、オリバーの手を引いて雑踏に消えた。

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