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オリバーと風の精霊  作者: 問真
第一章 ローズガーデン
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第十一話 東海岸四日目

広い空を、幾重にも層になった、灰色の雲が流れていく。

朝から小雨が降り続け、道はぬかるみ始めていた。

シッキムとオリバーに貸し与えられた荷馬車には、簡単な覆いが付いていたが、完全には雨を防いではくれない。

シッキムは覆いの中に小さなテントをはると、そこにオリバーと猫のウィンディーを押し込んだ。

中はお得意の空間魔術で、柔らかな魔法照明に照らされており、

上等な絨毯とベットとソファー、そして暖かいミルクティーの入ったポットや焼き菓子の置かれた小さなテーブルも置いてある。

その空間は、荷馬車とは切り離してあったから、振動も雨音も伝わらない。

中ではオリバーが、昨日モリー村で手に入れた絵本を読んでいた。

とてもポピュラーな物語で、彼の母が繰り返し読んでくれた物語なのだという。

字を覚える練習にもるだろうと、シッキムはそれと合わせて数冊の絵本を買い与えた。

印刷技術はまだ希少で、本は高価であったが、シッキムはオリバーを綺麗なものに触れさせてやりたかったのだ。


シッキムは本心ではオリバーとともにテントの中でくつろいでいたかったが

多少はっ水加工してある布をかぶって、覆いの出口から外の様子をうかがっていた。

けぶるような小雨は視界を奪う。

経験上、こんな日にはろくなことがない。

だから、油断してはいけないのだ。

トラブルとは、必ずこちらの隙を狙って近づいてくるのだから。


○○○


ぱっかぱっかぱっか


エディンが、またしても速度を下げて、隊商最後尾のシッキムの荷馬車までやってきた。

エディンもまた、ずぶぬれである。


『ご苦労なことだな。』


シッキムは上着の前を合わせて空を見上げた。

夏至の前、初夏とはいえ、このあたりの温度は低い。

太陽がさえぎられれば、すぐに気温は下がった。

雨に濡れた人の体温なんて、なおさらだ。


『エディン、もうちょっとこっちに寄れるか?』


シッキムは、エディンを呼び寄せると一陣の風を起こした。

温かい空気で、一気にエディンを乾かす。

あまりいいことではないが、一時的にエディンと彼の馬の周りにだけ、障壁を張ってやった。

ずっとではないが、少しの間は、雨にぬれずに済むだろう。


『お。さんきゅ!!あったかいな。』


エディンは嬉しそうに笑った。

その笑顔は、まるで青空のようにきらきらしい。


『あのな。今日は予定変更だそうだ。

この先にバルブリー村があるから、そこでいったん休憩をはさむそうだ。

で、オーナー殿に、天候の司に天気の見立てをきいて来いって言われたんだが、どうだ?』


『んー。ちょうどいいんじゃないか。昼過ぎには上がるよ。

太陽もでるから、夕方には道も乾くだろう。

いったん休んで、夕方から出発すれば、暗くなる前にはつくんじゃないか?

王の交差路はむりでも、ストルド村くらいまでならいけるだろう。

また誰か、馬の早いものでもやって、宿をとってくればいいさ。』


『それって、俺のこと?』


『そうそう、あの、ついたらすぐにちょうど暖かいものが出てくるってのは、いいサービスだったな。』


シッキムは笑った。


『ほんと、シッキムは丸くなったな。』


『中年だからな。いったんついた脂肪はおちないんだよ。』


『そうじゃないって。』


エディンは笑った。

まあ、そういう意味もないではなかったが。


『俺の知ってるシッキムは、もっと乾いたかんじだったから。』


『・・・・・中年てのは湿っぽい生き物なんだよ。』


シッキムが拗ねたように口をとがらせた。

とはいっても、モコモコした口髭で、あまりよくわからないが。


『俺も中年になったら、丸くなるかな。』


シッキムはエディンのガチムチのやたら嫌えてあるいい体をちらっとみた。


『・・・・・・喧嘩を売っているのか・・・・・・』


『そうじゃないって。いや、なんていうかさ。最初あった時、俺、まだ、ガキだっただろ。

シッキムの自由な感じにあこがれてたんだよ。だから、冒険者になったんだ。』


『ああ、そういやお前も大店のお坊ちゃんだもんな。』


『まあ、次男坊だから、予備みたいなもんだけどさ。

それでも、まあ予備は予備なりに使い道もあるみたいでさ。

結構最近、縁談とかがくるんだよ。』


『へえ。いいじゃないか。もてるだろう。かっこいいもんな、エディンは。』


シッキムはまだちょっと拗ねているようだ。


『でも、そんなことで結婚とかいやだなって思ってたんだけど・・・・・・。

子供といるシッキムみて、ちょっと、心が揺らいだ。』


『まあ、オリバーは天使だからな。』


ふふん、とシッキムは得意げに笑った。


『だから、俺、あんたたち親子を応援してるから、なんかあったら言ってくれよ。』


『ああ、あてにしているよ。とっても心強いよ。

ドラゴンスレイヤーのエディンが味方してくれたら、百人力だ。』


『うわっ。恥ずかしい。どっからきいたんだそれ。』


『くすぶってた時に、吟遊詩人の歌できいたんだよ。

ま、ただ、ドラゴンってやつは、ただのトカゲみたいなのから、知恵がついた奴までいろいろいるから

あんまり手を出さないほうが無難だと、俺は思うがね。』


『ああ、まったくその通りだよ。二度とドラゴンなんて相手にしたくないね。』


『そろそろ、魔法の効果が切れる。さ、またずぶぬれになって、オーナー殿のところに報告にいっておいで。』


シッキムはキヒヒと笑った。

エディンは苦笑して片手をあげると、馬の速度を上げて、オーナー殿のいる最前列まで駆けて行った。


『さあて、休憩がてら、オリバーに絵本でもよんであげようかな。』


シッキムは、探知の魔法を周囲にかけると、覆いの中に入っていった。


雨は今だ、強からず弱からず、降り続いていた。





















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