黒い布の値段
染物師の弟子シオン・ヴェイルは、閉店後の作業台に黒い布を広げていた。二十歳になったばかりの彼は、昼間に仕立てた葬儀用の外套が気に入らなかった。襟が高すぎる。人が恐れる相手なら、うなじを隠すより、まっすぐ背を見せるべきだ。そんなことを考えて糸をほどいている。
工房主のミラは二階から降りてきて、また自分の服を直しているのかと呆れた。「仕事の分は終わっています」「布代は払えよ」。シオンは銅貨を三枚置いた。黒染めは藍より高い。それを彼はよく知っていた。
町ルーヴェルの人々が恐れるのは、徴税官や野犬や冬の肺病であって、黒衣の若者ではない。シオンはそれが面白くなかった。悪とは、名前を聞くだけで部屋の温度を変えるような存在であるべきだ。家族を奪われたわけでも、王を恨んでいるわけでもない。古い悪王伝を読み、絵師の版画を眺めるうち、ああいう存在になりたいと決めた。ただそれだけだった。
彼は鏡の前で外套を着た。床に引きずる裾は泥を拾い、長い袖は針箱を落とした。拾い集めた針の一本が指に刺さる。シオンは声を殺して顔をしかめた。血の粒が布に落ちそうになり、慌てて手を引く。
ミラの工房では喪服と婚礼衣装を同じ針で縫う。誰かの悲しみのために染めた布が、翌週には祝宴用の飾り紐になることもある。シオンは昔、それを節操がないと思った。けれどミラは注文書を丁寧に綴じ、亡くなった老人の妻が冬に困らぬよう余り布を渡していた。工房には、美しさだけでは払えない家賃と職人の賃金がある。
翌朝、ミラに裾を詰められた。「立派な悪党になるなら、まず自分で歩ける服を作りな」。シオンは反論しかけ、何も言わず針を持った。町では市場の屋根の修理が始まり、人々は雨の前に買い物を済ませようと急いでいた。黒い外套に目を留める者は一人もいなかった。




