6話 俺の彼女の様子がおかしい
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「……そんな感じで、俺が安易にいいんじゃない? って言っちゃったからこうなったんだ」
「それは拓斗が悪い」
「それは拓斗が悪い」
「それは曽野が悪い」
「それは曽野さんが悪い」
「ご、ごもっともです」
夏月姫が”こう”なってしまったきっかけの一部始終を話すと、四人はそれぞれ違う表情をしつつ、同じ言葉を吐いた。内容はもちろん、俺が悪いというものだけだ。当たり前に否定はできない。
「…………やべえ、完全に時計見るの忘れてた。休憩終わってたわ」
非は認めつつ、それでも全員からの口撃に面食らい少ししょんぼりとなっていると、秀はふと手首につけた腕時計を見て、慌てたような口振りでそう言った。
「じゃあ、俺は戻るな。また明日」
そして一人足早に、体育館へと戻って行った。さすが、やっぱり足が速い。
……ん? あいつ、もしかして話に熱中しすぎて水汲むの忘れてないか? 水筒の中身空のままだけど……ま、まあいいか。
「生憎ですが、私もこれから会議がありますので。続けてすみませんが、失礼します」
「え、西野さんも?」
全員で秀が体育館に入るまで見送った直後、西野さんもそう言い、間髪入れずに第二校舎へと歩き出していった。秀ほどではないが十分速く整然とした足取りで、音も立てずに歩いていく。
「ウチはなんもないけど疲れたから帰るわ」
「え〜みんな帰っちゃうの? じゃあ俺も〜」
「え、ちょっ、」
そして疲れたという四ノ宮と便乗したレンも帰ると言い出し、俺が引き止める間もなくスタスタと歩いて校門を出ていってしまった。
「……」
ポツーンという音が鳴りそうなほどに、急に静かになった俺の周囲。じゃあもうやることもないしと思い、少し前に立ち上がっていた夏月姫とともに俺らも帰ろうとした。
だけど、どうしても気になっていたことがあった。夏月姫に聞きたいことがあったのだ。好きなだけ語れたからかルンルンと高揚している夏月姫に、意を決して聞いた。
「夏月姫」
「らんらら〜ん やっぱりヘタレは攻より受なのよ〜」
「夏月姫」
「らんらら……うん? なに?」
「……夏月姫はさ。俺が他の女子と喋ってても、嫌じゃないの」「むしろご褒美ですが!?」
夏月姫はそれまで口ずさんでいた陽気な歌を止め、くわっと目を見開いて堂々と言った。俺はその圧に負けて、おお……そっかあ……と引き気味になる。
(まあ、だよなあ)
わかりきったことではあった。あれだけ熱烈に語れるのだから、嬉しいに決まってる。
それはわかっているのだけれど……俺はどうにも、心がモヤモヤとしていた。
だって、もし夏月姫が他の男と喋っていたら、俺は嫌だからだ。
ましてや、肩を抱き合ったり顔を寄せ合ったりするなんて、きっと耐えられない。夏月姫がどんな妄想をしているのかは知らないけど、もしその妄想にいかがわしい要素が入っていたとするならば、夏月姫は俺にそういうことを望んでいる、ということになる。もし逆の立場だったら、間違いなく俺は発狂しているだろう。
でもそれはあくまで俺の考えだ。俺にとって夏月姫が人生初めての彼女だから、自分で思っている以上に束縛してしまっているのかもしれない。
聞いたことないけれど、夏月姫の初めての彼氏はきっと俺じゃないはずだ。だからあんなに自分のことも大切にして、相手といい距離感を保てている。見習うべきはドラマの男なんかじゃなく、夏月姫だったのだ。
俺もそうならなくちゃいけない。俺だけが思いすぎていても、夏月姫にとっての重圧になる。だから俺も、もう夏月姫を思いすぎないでおく。
「ごめんね変なこと聞いて。帰ろっか」
あらかた自分の気持ちを整理し終わり、さっきよりも冷静になった状態でそう言いかけた。
「あ、あと」
しかし夏月姫が同時に口を開き、
「本物の拓斗くんは、私のものだし……?」
と、顔を赤らめた姿で、言った。
「……かわいい……」
その一言が、俺の口から勝手にこぼれた。
(え、え、は? ちょっと待て、可愛すぎないか?
あ、可愛い。ちょっと照れくさそうにしてるその表情も可愛い……って、そうではなく!
も、もしかして、あのすごい語りも、女子との絡みが好きなのも、そういう理由、ってことか……? 私の彼氏は私のもの! なんていう圧倒的な余裕があったからこそ、ああやって楽しめていた……?)
「スーッ」
俺は額に手を当て、上を向きながら深く息を吸った。
(俺が、守らなくては)
心の中に、その言葉だけが降りてきた。
「……よし! みんな帰ったことだし、俺らも帰ろっか」
ご機嫌になった俺は、いつもより少し高い声を出してそう言い、一瞬の躊躇もせず、夏月姫の手をぎゅっと握りしめた。
「……!」
夏月姫の驚きが手から伝わってきた。小さく、細く、柔らかい夏月姫の手は、握るだけで愛おしさを実感できる。俺が守りたい、俺でなくてはいけない、とより強く思わせてくれた。
「うん……!」
夏月姫は綻ぶような笑顔をして頷いた後、応えるようにして俺の手をきゅっと軽く握り返してきた。愛おしくて、言葉が出なかった。
俺らは夕日でオレンジ色に染まる空を指差しながら、笑い合って歩き出した。家に着くまで、その手が離れることはなかった。




