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ここまでのあらすじ:
コミュ障・内気でぼっちの脇役人生を歩んできたナタリアは、合法的に公爵令嬢マデリン様への推し事をするため帰国。推しと同じ学園へと通い始めたのであった!
だがしかし、世界の中心・マデリン様の婚約者である第一王子エドワード殿下は桃色頭の男爵令嬢と火遊び中!?
推し事に集中したいのに第二王子アルフレッドが絡んでくるし、ナタリアの平穏な推し活ライフはどうなることやら。
今日はやっと(入学してすでに三ヶ月経過している)新しくできた友人(?)侯爵令嬢キンヴァリー様と伯爵令嬢オリビア様とカフェに来たが、第一王子エドワードの浮気現場に居合わせて……!?
あの不自然な外套と、その外套を突き破るほどのロイヤルな立ち居振る舞い。あれはエドワード殿下に違いない。
そして太陽が似合う桃色の髪の女子。時の人である、あの男爵令嬢だ!
きっと、彼らが通り過ぎてしまえば、残された私たちは「さて何か見ましたか」と、とぼけて闇に葬ることもできただろう。
彼等は私たちのいる、人気のスイーツ店のオープンテラス席へと通されたのだった。
緊 急 事 態 発 生 。
何かと話題の人物のデート現場に居合わせた罪で、処刑されたりしないだろうか。
事故である。
ま、まあ席の間には目隠しになるような樹木も置かれている。きっと私達がここにいることは視界に入らないだろう。そうでなければ困る。お願いお願い!
だがしかし運命のいたずらは止まることを知らない。
彼等は私たちの席から観葉植物の植木鉢を一つ挟んで隣になってしまった。
神様、あの、もう少し手心と配慮を……!
「や、やっぱりここのパフェは美味しいわね~、桃も禁断の関係、いえ、禁断の果実の味が絶妙で癖になってしまうのかしら」
「ええ、ほんと、今年の流行色はしばらく高貴な黄金かと思いましたが、下剋上ピンクも流行ったりして」
キンヴァリー様とオリビア様も絵に描いたような動揺っぷり。
会話は噛み合っていない。というか動揺して言い過ぎている。
でもしょうがない。二人の意識は、生け垣を一つ挟んだ向こうの第一王子と桃色の髪の女子生徒と愉快な仲間たちへ集中している。
『──ずっとここに来たかったんですっ。ありがとうございます、エドワードで』
『──こら。ここで名を呼ぶのは控えてくれ』
『──あっ、ふふふ。ごめんなさい。では、あとでゆっくりお礼をさせてくださいね』
と、桃色の髪の女子生徒のコロコロとした可愛らしい声が、私たちの耳に届いた。
あぁ~~~。
しっかりばっちり会話がここまで聞こえてる~~~!
なにが、コ~ラ☆コツーン(蜂蜜ボイス)なのか。
浮気現場を押さえられたら、ゴツゴツの石がゴツンである。そんな劇を見たことがある。
突然供給された蜂蜜ボイスに、キンヴァリー様は口元へ運ぶ紅茶の座標がずれているし、オリビア様は目が血走っている。
きっと二人の脳内では、普通のお礼ではなく、ネットリとしたお礼を受ける第一王子の姿を想像していることだろう。私は想像した。
『──それで、学園ではできない話とはなんだ』
この声は、騎士科の護衛騎士見習いの子息の声だ。
『──あら、まだスイーツが届いていませんよ』
『──申し訳ないが、私たちは遊びに来たわけではないのです。あなたがエドワー……いえ、彼の婚約者様について内密な話があるというから時間をとっているのですよ』
こちらの穏やかな声色も、どちらも音楽室で聞いた覚えのある声だ。
どうやら、エドワード殿下の側近候補たちも同席して脇を固めている。
この布陣であれば、なんらやましい会合ではない──つまりデートではないと証明できる。
逆ハーレム化していたイメージ映像には大きく×をしておいた。
少し興奮が落ち着いた二人は、まるでたった一つの真実を突き止める使命を背負った監察方の騎士かのようなキリッとした顔になっていた。なにそのライティング。濃いわ。
まあでも気になるわね。
一介の男爵令嬢が、殿下たちを呼び出すほどの大事とは、なにか。
殿下の大事、つまりマデリン様への影響も少なからずありそう。
同じく、少し彫りが深くなった顔をキリリと正し、次の言葉を待つ。
マデリン様に関する話なら、聞き逃す選択肢はない。
『──ええ。ご婚約者様の振る舞いに関して、もう見過ごせません。知って欲しいんです』
『──振る舞い、か?』
『──ええ。彼女は浮気してるんです。それも、”宵闇の方”と!』
彼女の言葉に、空気が一変した。
こちらの席も。あちらの席も。
宵闇の方──それは、黒髪のアルフレッド殿下のことを指す言葉だった。
先ほどまで、私達も噂話として共有していた情報。
──前王妃様の御子で、鑑賞用の秘密の恋人。不遇で正当な王子。
『──どんなに危険なことか男爵家の私でも知ってますよ。ご婚約者様が宵闇の方の後ろ盾となれば』
血筋でいえば、国王陛下と先代王妃の第一子。次代の王位に最も近い。──彼に足りないのは後ろ盾だ。
現王妃様のご実家に対抗できる血筋である、マデリン様がアルフレッド殿下に味方したら。
『──あの二人は幼なじみの友人だ。親しく接することはあるだろう。それがなんだ、彼女は私の婚約者であることには変わらない。何があっても、な』
固い声が落ちる。
ほんの少しだけ不愉快そうな、苛立ちを隠したような声色だった。
何があっても変わらない。
少なからず、その言葉を耳にした私達の間にも安堵の空気が流れた。
もう貴族たちはエドワード殿下が立太子するという流れで動いている。
今更ひっくり返されるのは大変なことだ。混乱に陥るのはエドワード殿下だけではないのだから。
エドワード殿下の声に他の男子生徒のあきれた声が重ねられる。
『──そういったくだらない噂で身を崩すことがないよう、気をつけなさい』
『──ほらな、無駄足だっただろう?』
『──え~! なんですか、その反応~! お互い信じ合ってるんですね』
少しだけ空気は軽くなる。
こちらの二人の令嬢も完全同意という風に、しらけたような半目になっていた。
先ほどまで爛々と輝いていた瞳からは熱が消え、惰性で髪の先や爪のチェックをしはじめた。こわい。
はぁ。こんな薄い情報を求めて殿下たちはここまで足を伸ばしたというのか。暇か。
『──じゃあ、あの二人が人目を避けて会っているのも把握されてるんですね』
よかったぁ~と、場違いなほど明るい声が一つだけ。
『──何かお考えがあって泳がせているって知ってホッとしました……どうしました?』
『──あ、いや』
「おまたせしましたぁ! こちらご注文の『愛され白桃ちゃんのフワフワ幸せとろけちゃう究極ごほうびパフェ☆』でぇす!」
戸惑う声は空気を読まない店員にかき消された。
こんな地獄に愛され白桃ちゃんを届けにいけるなんて、ハートの強い店員である。
愛されナントカにはしゃぐ声を聞きながら、私は冷め切って渋くなった紅茶にとりあえず口をつけた。
あんなに目立つ二人が、人目を避けて会う……?
そんな怪しい現場、あっただろうか。私の視界にマデリン様しかおさまっていなかっただけだろうか?
「いつのことだろうねぇ。ナタリアは知ってる?」
「いえ全く。密会するマデリン様なんてぜひ見たいのに──っ!?」
いつもの調子でコソコソと小声で相づちを打って。
そのビロードのような美声は今日、この場所で聞くはずがない人のもので。
途端にキュゥと締まった喉のまま視線だけ前に向ければ、オリビア様とキンヴァリー様が目を見開いて固まっている。私の右後ろを見つめて。
やだ、こわい!
軋んだ幻聴が聞こえそうなほど、ぎこちない動きでちらりと見れば。やっぱりアルフレッド殿下がいつもの顔で覗き込んできた。
「「「────ッッッ」」」
叫ばなかったのは、アルフレッド殿下がシーッと指を立てて指示を出したからだ。まあ、そうでなくても驚きすぎて声は出なかったが。




