月季の誘い
がらん、とした、掃除道具と手荷物だけの部屋。
つい数時間前まで見慣れていた「俺の部屋」だった何か。
小さな、小さな、だけど「俺の城」はあっさり解体された。2年半という月日にはそぐわないほど、酷くあっさりとした、解体作業だった。
何もない。
本当に終わったんだと告げる、わかりやすい景色。
な、くだらないだろ?そんなもんだ。初めに言ったように、これは単なる会社員のぼやきでしかないんだって。
「な、何が起こったのか、本当に、俺にも、全くわからないんだ」としか、言いようがない。
朝起きた時はまだ俺の部屋だった。
夢は覚えていない。酷く喉が渇いて目が覚めた。
使った布団とか毛布を袋に詰めながら、なんか、何も考えられなかった。ただ無機質に必要なことを、ただ実行した。
すでに昨日から冷蔵庫の電源は切ってある。なんか冷たいものが飲みたくて、何も考えずに鍵と財布持って外へ出る。ジーパンのまま寝てしまったから、着の身着のまま。
1番近かった住宅展示場の自販機がなくなってしまったので、イオンの自販機かコンビニか、路地裏の自販機か。
少し迷ったけど路地裏の自販機に向かう。人に会いたくなかった。ドアから出て4分ぐらい。もう完全に夏に近い。ダイヤモンドみたいな太陽光が自販機から反射している。
自販機から甘くて薄いアロエ入りなジュースを取り出す。
そのまま開けて飲めば、大変冷たく、目が覚めた。
久しぶりに飲んだが、別に美味しいとかは相変わらずない。喉にベタついた味にしくじったなと思っている。
そのまま飲み切って、空き缶を捨てる。
ジメジメして、身体の中に「何か」閉じ込められそう。
帰り道にアパートの扉の前で振り返ってみれば、更地。
現実なのか、わからないままここまで来た。
別になんてことのない、引っ越し日が始まった。




