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差し出された手

 燃える氷、雷電を纏う水、光捻じ曲げる土壁、真空の闇


 混合属性とは基本属性である”火、氷、雷、水、土、風、光、闇”の特性を同時に発現するのではなくそれぞれの特性を掛け合わせて新たな理を紡ぎあげる。その特殊な属性は基礎魔法という大賢者が確立した誰もが扱えるようにチューニングされた魔法体系ではなく、古くからある占星術や呪術、幻術、妖術等といった魔法体系に存在してきたユニークな属性で、各魔法体系を継承する魔導士が扱う。

 そう言った魔導士達は今でこそ魔導士としてひとくくりで登録されているが、基礎魔法のみを覚えた魔導士とは一線を画す特殊な魔導士なのだ。


 魔導士ギルドは賢者の塔攻略にかなりの人員を割いているが、実力を知った者、再挑戦を願う者、挑戦を諦める者、ケガをする者、いろんな理由でギルドに帰還しており全員が全員失踪しているわけではない。失踪届も最後にパーティを組んでいた魔導士が届け出る事も多かったと聞く。そんな中で、特殊な魔導士のみが失踪している事になにか意図を感じるクシル。


 と、色々な資料を机の上に広げながら思考の世界に突入していたクシルの耳に遠くから声が聞こえてきた。


「クーーシーールさんーーーーー!」


 エリの使い魔が一直線にクシルに向かって飛んでくる。羽で息をしながらクシルの肩に留まりぜぇはぁと呼吸を整えると飛んできた要件をクシルに伝える。


「そろそろ時間ですよ! 剣聖の講義が終わりそうだからクシルさんを呼んで来いと大賢者様からの言付けです!」


「君ね……誰が居るかもわかんないのに大声で名前を呼ばないでよ……」


「一応探知して確認はしましたよぅ、クシルさん以外反応が無かったもので……それで時間ですよ! 時間!」


 資料を記録し、リストについて考え事をしている間にずいぶんと時間が経って居たらしい。手早く資料を元あった場所に戻し来た道を戻るクシルと使い魔。


「ずいぶんと広い場所なのですねぇ」


「そうだね……まっすぐ目的の場所についてしまったけど他の分岐も探索しておきたかったな。妨害装置の場所にも行けなかった」


「その辺りは剣聖サマにお任せしましょ!」


 階段を上ってマナの歪みが濃い場所を抜けギルドマスターの部屋に戻って来た。「大賢者様とリンクしますね」と使い魔が一言いうと「ギリギリで心配したんですよ!」と先ほどとは全く違う口調で小言を言われてしまう。


「今は丁度剣聖が最後の笑える挨拶をしている所です! 部屋の周辺は誰も居ないので、ちゃちゃっと部屋を出ましょう!」


 どんな挨拶だ……と思いながらも来た時と同様に使い魔をローブに隠し深めに顔を隠したクシルは結界を通って廊下へと出る。土魔法で鍵をかけ隠密魔法で姿を隠すとまずはギルマスの部屋から離れる。


「エリその笑える剣聖サマは今どこに?」


「えっと……講義は終わったみたいで何人かの魔導士ギルドメンバーに質問攻めにされてますね。屋外演習場で大丈夫です」


「わかった、人が多くなるなら適当な所で隠密魔法解除して人に紛れよう」


 ギルドマスターの部屋から屋外演習場までは図書館を挟む、講義終わりという事は図書館にも人が増える。人気の無い部屋を探し魔法を解いて速足で剣聖と合流するために屋外演習場へと向かうクシル達。


「あ…剣聖移動しました。屋外演習場の端の方ですね……風魔法を使う馬を見せたいという事ですが……」


「もうこっちは大丈夫だ、目のリンクはあっちにつないで」


 剣聖の近くに居る精霊の目と耳を借りてリアルタイムで記録を追っているエリ。使い魔との視界共有に通常の”情報収集(データログ)”を行っている状態では精霊の視界まで共有するにはキャパオーバー。剣聖の状況を把握するためにも使い魔の視界よりは剣聖の近くの視界を優先する事にした。


「何人で行動してる?」


「ちょっと待ってくださいね……何があったか教えて風の精霊さん……えーっと歩いているのは剣聖とシェナスだけですが、厩舎の方にもう一人います」


 エリの視界が風の精霊に切り替わったのだろう。だが物証を得た今シェナスは叩かずともほこりが出る程の真っ黒なのだ。失踪事件にも関わっている何が起こるかわからないが嫌な気配を感じるクシル。


「ちょっと急ぐよ…!」


 -------------------------------------------------------



「せっかくなのだ、うちの魔獣を見てもらえんか?」


「……いいでしょう」


 クシルが潜入している今、少しでも時間を稼ぎたいのでシェナスの提案に乗る剣聖。クシルが物証や何か怪しい点を調査している最中だがおそらくシェナスは真っ黒。何が待っているかわからない警戒レベルを最大にしてシェナスについていく。厩舎の前まで行くとローブを目深にかぶり顔の見えない人物が居た。


「紹介しよう、こいつは私が特に目をかけている奴でな。とにかく優秀なのだ。」


 シェナスにそう紹介された人物、何者なのか力量を図ろうと気づかれないように魔法感知を行う。大賢者やクシル程ではないものの確かに優秀と称される程の魔力量を持っている。だがその魔力の色が少し特殊だった濁ったようないろんな色が混ざりあったようなそんな印象を受ける魔力にさらに警戒レベルが上がる。


 そんな中ローブの男が剣聖の前に右手を出す。


「こいつは人見知りなんだがな、剣聖に会えて嬉しいようだ! 是非手を取ってやってくれ」


 シェナスの方を見ると”はやく手をとれ”というのが滲み出ている。如何せん手は取りたくないが、取らなかったら取らなかったで後で会議の場で色々と言われるの癪だ。何かあったらすぐに剣を抜けるように意識を集中し右手を差し出す。




「うぐッ……こいつッ!!!」


 右手を握った瞬間にごっそり魔力が抜ける感覚と魔力以外にも頭の中を覗かれるような感覚に陥った剣聖。右手を離したくても離せず、継続して襲いかかる毒や麻痺等の異常状態ではない、今まで一度も感じた事のない異常に逆手で剣を抜き異常の発生源であるローブの男に剣を振りぬく。


「ガキィーンッ」


 が剣を振りぬく瞬間の最高速が出る箇所で()()()()()に阻まれる。異常状態と壁によって上手く振り抜けず、”斬る”事が出来なかった剣聖の剣は見えない壁を斬った後にローブの男の首を半分斬った所で止まってしまう。


「お前……何者だ……??」


 ローブが剣によって斬られ露わとなった顔には人間の耳と目と鼻と口があった。だがパーツは人間なのだが全てのパーツの位置が歪んでいる。人間と呼ぶには不自然すぎて、今まで出会った事のない不気味な顔に驚く剣聖。首で止まった剣も肉が蠢き押し返されてしまう。

 時間がたつにつれどんどん魔力と力が抜けていきそれと同時に頭の中をかき回され握りつぶされる感覚についには倒れ込む剣聖。


「よくやったぞヴォーダン! さて、それでは賢者の塔への行き方を教えてもらおうか、あぁ食べるのは魔力だけにしとけ。剣聖サマにはまだやってもらう事もあるだろうしな!」


 シェナスがそういうと、ヴォーダンと呼ばれた異形の者は剣聖の頭を掴み、もう片方の手で水鏡を作る。


「グアァァァ」


 剣聖の悲鳴を上げると水鏡には剣聖の記憶が映し出されていた。その映像は巻き戻しされていき丁度クシルと一緒に賢者の塔へ向かった当たりで再生された。


「ほう……そんなものが?」


 賢者の塔の結界を割符で通るシーンを見たシェナスは宙に浮く剣聖のベルトに下げられたポーチから割符を取り眺める。


「これは手っ取り早いではないか! ヴォーダン魔力だけ食べたら地下に落としておけ」


 その言葉通りヴォーダンは足で土魔法を使いもともと地下につながっていたであろう穴を開き、魔力を吸い出され頭をかき回された剣聖を穴に捨て去る。

 開いた穴を再度土魔法で元に戻すヴォーダン、そこに厩舎に向かったシェナスが馬の魔獣にまたがり戻ってくる。


「記憶にも出てきた剣聖の弟子か? あいつが居ないな……ヴォーダンあいつらに捕まえさせておけ」


「グルァアア」


 人のだせる声ではない低い音域で唸り声を上げた後、シェナスの後ろにまたがったヴォーダンは懐から妨害装置を取り出すと自身の周囲に貼り魔獣を操り空へと消えたのだった。

おもしろかったら評価、ブクマよろしくお願いいたします。

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