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侵入

 隠密魔法(ステルス)で姿を隠し魔導士ギルド内を探索するクシルと使い魔の目と耳と口を借りたエリ。魔導士ギルドは剣闘士ギルド程広くはないが、それなりの広さがありその大部分は古今東西の魔法を扱った書物や魔法以外の御伽噺や歴史書、工業書や哲学書まで数多くの書物を扱う図書館だ。


 クシルたちは屋外演習場から図書館を挟んで反対側のギルドマスターの部屋へと向かう。剣聖の講義は珍しいのだろうほとんどの人間が屋外演習場側に行っており探索し放題だった。


「この奥だわ」


 エリの案内に導かれギルドマスターの部屋の前につく。案の定豪華な錠前と共に、賢者の塔の割符と同じような、事前に登録してある魔力にのみ反応する結界が張られていた。


「さっさとすませよう」


 錠前に手をかけ土魔法を唱えると鍵穴に溶けた金属が流れ込むかのように魔法で作られた鍵が生成される。何度かクイクイと鍵を回し内部の構造に合わせて微調整をし、最終的にはガチャリと音を立てて錠前が開いた。

 扉を開けると目の前には目視では視認できない魔術による結界。その結界を見てクシルは、仮に誰かに見られようとも姿を見る事は出来ない程の隠密魔法をかけているにも関わらず魔導士のローブを目深にかぶりエリの使い魔をローブの袖の中に隠す。

 その状態でクシルは結界に接触する部分に気をつけながら内への侵入を試みる。


 本来であれば結界内を走っている魔力の走査線が結界を通った魔力に反応して魔力を登録してあるか、ないかを確認。登録のない魔力の場合は一つ内側の結界が起動して侵入を拒む構造となっている。

 だがクシルは拒まれる事なく部屋への侵入に成功したのだ。


「このローブのおかげですか?」


「そうだよ。魔力を流す糸を紡いでる時に考えたんだけど、魔力を薄く延ばして対象からの反射や反応を見る魔法や結界に対して、魔力を受け流せないかと思って、作ってみたんだ」


「へぇ……ローブを魔力が通った際に減衰して反応が残っちゃうのでは?」


「そこは着ている者の魔力で増幅して調整してるんだよ」


「あぁなるほど……」


 とエリに原理を説明しているうちに、ギルドマスタの部屋を再度施錠し隠密魔法を解くクシル。


「それにしても……」


「趣味の悪い部屋ですね……」


 図書館の次に大きいであろう絢爛豪華なつくりの部屋、そして部屋の主が座る椅子の後ろには自画像が飾ってある。趣味の悪さにへきへきしながらもとにかく怪しい物が無いか探すクシルと使い魔、エリには講義の状況と周囲の索敵をお願いしていた。


 探す為に部屋を、家具を、棚を見るがどれもが一級品、個別に見れば細やかな技術で細工師として技術の参考になるのだがこの部屋には一級品しかない。

 結果、一級品の同士の良さがぶつかり合い干渉し趣味の悪さが良さを塗りつぶしているのだ。少しづつ審美眼を磨けてきたクシルもつい目をそらしたくなる部屋での探索はなかなか成果が得られない。


「部屋に何もないとなると隠し部屋か隠し倉庫でもあるか……?」


 部屋の探索を使い魔に任せ、入り口を除く3面に向かって探知魔法を放つクシル。シャズの獣戦では、動体感知や魔力感知を使用していたが今回感知するのは風。探知魔法と同時に風魔法を使い室内に空気の流れを作るクシル。


 すると椅子の後ろにかかっていた自画像の近くの壁で空気の流れを見つける。その周辺をくまなく探していくと自画像の額縁の下の方にスライドする箇所を見つける事が出来た。スライドさせ露出したスイッチを押すと先ほど空気の流れの有った壁が動き地下に降りていく階段が出てきた。


「そこから先、マナが乱れてます。この奥で妨害装置をつかって秘密の会談をしていたのかもしれないですね……入り口が一つとは思えませんので会談の参加メンバーは別の場所から、シェナスはここから会談場所に移動していたのでしょう」


 その隠し通路を境にマナの層が波立っており、今は直接使い魔を通して見る事が出来ているが情報収集(データログ)だけだと行動も音声も拾う事が出来ないだろうとエリは予測していた。


「とりあえず先を見てくるよ。どうせこの先ではエリの情報収集(データログ)も使い魔とのリンクも繋がらないでしょう? エリ達はここでもうしばらく探索と講義の状況確認を続けててほしい。やばそうなら使い魔だけ僕の方に飛ばしてくれればいいから」


「何度もいいますが無理は禁物ですよ?」


「子供じゃないんだから」


「大人だろうと自分から無理難題に近づくような生き方を今までみてましたからね!」


 精神年齢的には人生を一周する程の年齢ではあるのだが、知識欲(しりたがり)が前面に出ている時の大賢者はエリでも手に負えないほど無理や無茶をするのだ。人生一周した所でそこは変わらないだろうとクシルに釘をさすエリ。

 流石一番弟子、自分の事を一番わかってると感心をするクシル。だが知りたいときは知りたいのだ。「善処します」と口を濁し誰かに会う可能性もあるので隠密魔法を再度かけ階段を下りていくクシル。


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 階段にはいくつかの分岐があったがまずは大通りをとギルマスの部屋からまっすぐ下に降りていくクシル。すると少し大きめの空間に出る。そこには大きな長机と椅子、そして資料用の棚が置いてあった。


「ここが秘密の会談場所か?」


 ざっと部屋の中を見渡す、一番怪しいのは棚にファイリングされている資料だ。背表紙には何も書かれていないそのファイルを取り出し中を読んでいくとほこりが出る出る。基礎魔法が使えるからと息子を魔導士ギルドの幹部候補に仕立て上げる、そこから得た違法な献金や金の流れ。監査時に隠す必要のあった依頼(クエスト)の途中で起きた事故や事件をもみ消したであろう書類などなど。


「さっさと処分すればいい物を……だけどこれを無断で持って行っても”捏造だ”なんて言われて証拠不十分扱いになるんだろうしな」


 クシルはその裏帳簿の内容をざっと目を通し、今現在見ている内容を魔石に書き写す。行動記録や音声記録と違って視覚記録は短時間のものしか魔石に書き込む事が出来ない、精確なものとなると見ながら書き起こす必要がある。


 最後のファイルに手をやりファイルを開くとそこには魔導士ギルドのメンバーがリストアップされていた。そのリストには名前と基礎訓練時や所属後に行ったであろう訓練で判別した使用可能な魔法の属性とレベルが記されていた。

 いくつかの名前の横には印があり、その名前を自らの記憶から引っ張り出すと事前に剣聖から教えてもらっていた賢者の塔探索後に失踪したメンバーと一致する。


 それを見たクシル、絡まった糸を解く為にここに来たのにさらに絡まってしまった。


「なぜ……?」


 クシルはリストを見た事でもう一つ共通点がある事に気が付いたのだ。

 リストに印がしてある名前を目で追っていくと今回失踪しているメンバーは全員、属性を組み合わせて使う混合属性を扱える魔導士ギルドの中でも数少ない特殊な魔法を扱う魔導士達だったのだ。



木曜日になってしまった……

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