球技大会! 2
「選手、整列!」
審判の掛け声で、螢たちはコート中央に並んだ。螢たちの一試合目の相手は、同学年のチームである。そこそこ身体能力の高い五人が選ばれており、そのためそこそこ強敵と言えた。
「礼!」
の掛け声で、螢たちは軽く礼をしてコートに散らばる。指揮官を任され、不安しかない螢は、半ばやけくそで、日昏の後ろに立った。
コートの中央で、審判がボールを投げる。
ボールを獲得したのは、異常な跳躍を見せた日昏だった。ボールは、すぐに螢の方に飛ぶ。螢は、マークのついていなかったチームメイトにボールを投げた。受け取ったのを見て、螢はがむしゃらに叫ぶ。
「ゴールに向かって投げて!」
相手チームは一瞬顔にクエスチョンマークを浮かべたが、味方は一切戸惑うことなく、ボールはすぐにゴールの方へ飛んで行った。だが、その軌道は当然ゴールを狙えるものではない。
そんなことは気にも留めず、螢は日昏の背中を叩いた、それだけで日昏は螢の意図を理解した。
日昏の目が少し青くなる。日昏の姿が一瞬消えたかと思うと、ボールの落下するであろう地点に現れた。まだ誰も近くにいない状態で、日昏は跳躍し、空中でボールを受け取ってそのままシュートした。ボールはあっさりとリングをくぐる。
螢チームの得点板に、二点が入る。かなり大雑把だが、的確といえば的確な螢の判断と、大胆な日昏のプレーに、会場中が沸いた。相手チームはただただ呆気にとられるしかなかった。
螢たちのチームは何の問題もなく予選を通過し、本戦まで他の試合を見ることとなった。
…日昏たちが予選最後の試合を迎える少し前。
臨光は、喉が渇いて、日昏の出番でない間に、運営本部を離れて体育館横の自動販売機に向かっていた。
「いやあ、やっぱり日昏がいると圧倒的だねー」
臨光は呟く。独り言のように見えるが、臨光は誰かが答えるのを待っているようだった。
しばらくして、臨光は不安そうに言った。
「あの…景ちゃん、いるよね?」
それでも、しばらく静寂が辺りを漂っていたが、やがて、ぷっ、と笑い声が聞こえた。聞こえたのは、臨光の横の、誰もいないはずの空間だった。
「いやあ、やっぱり臨光の不安にしてる顔は可愛いわね」
「性格悪いよ、景ちゃん」
臨光は口を尖らせて言った。
こんな状況に至っているのには、訳がある。
一週間前、日昏と臨光が校内で襲撃されたため、球技大会中、日昏が臨光の傍にいることのできない間は、誰かが臨光の傍にいることにしたのだ。襲撃されたのが校内のため、教師も信用できなかった
。
そもそも、臨光が襲撃されるのは、その血筋に由来する。
臨光の属する源一族は、由緒正しき起源の魔導士であり、本家の者は必ず、代々なされてきた研究の内容を、生まれたときから知っている。そのため、一族の者一人が兵器になると言われていおり、一族の者がいなくなるのは、魔導国家連盟にとってかなりの痛手である。
なので、起源の魔導士を一人も有していないカンダルや、政府に不満のある組織は、こぞって臨光を手に入れるか、殺そうとしているのだ。さらには、あまり知られていないが、臨光の親は臨光が幼い時に暗殺されており、臨光が源一族最後の生き残りであることも事態を後押ししている。
そんな理由から、誰かが臨光の護衛をすることになった。そして選ばれたのが、景だった。
魔導士ランキングに登録された者は二つ名をもらうことができ、臨光は「不死姫」という名をもらっている。その理由は、日昏の護衛により絶対に殺せないからだ、とされているが、もし日昏がいない場合、次に適任なのは景だろう。
現在、魔導国家連盟調べでは世界中で約五万の魔法が確認されている。そんな多種の魔法の中でも、かなり個性的なのが、景の使う魔法である。発光したり、光の量を変えたりできるのだが、景はさらに応用して、自分にあたる光の屈折を変えて姿を見せなくすることができるのだ。隠れて行動するには、もってこいなのである。
「早くしないと、日昏の試合始まっちゃうね」
「別に心配しなくても、あの調子じゃ次も勝つわよ」
景の答えに、臨光はぷくっ、と頬を膨らませた。
「見ないと意味ないの、見ないと!」
そんな臨光の様子に、景はまた笑った。
そして、声のトーンを低くして、景は呟いた。
「気づいてる?臨光」
「うん。もちろん」
臨光も顔を暗くして答えた。
二人の後ろをつけている人間がいた。