球技大会! 3
紅葉ヶ丘高校の学生たちがその勇姿を見せる、球技大会。それは晴れやかな青春の証明のようにも感じられた。
だが、その裏、ほとんどの学生が知らないところで、様々な大人が動いていた。
教師と臨光監査役を兼ねた者。観戦者を装った政府の者や、景無一門とその配下。子供を見に来たという雰囲気を醸し出し、その実新任のイケメン教師を眺めにきた者。
そして、最近創設された、半日本政府組織の手下たちである。
彼らは、自らを『新日本解放団』と呼び、現在の日本政府を打倒し、新政府を創り上げることを目的としている。リーダーが元日本軍人ということもあり、数か月でかなり勢力を伸ばしつつある。だが、自分たちは他のテロ組織とは違うということを示したいがために、未だに大きな行動は起こせず、目標ばかりが大きくなっていた。どうにか彼らが自分の行動を正当化するために考え出した案が、起源の魔導士の誘拐計画である。リーダーが元軍人であったため、源家の生き残りが臨光一人であることは知れされていた。
彼らの主張はこうである。
かつて起源の魔導士は、カンダル国の前身である組織が、魔法で無抵抗の人々を傷つけることのないように、各国の政府を信用して、魔法の真理を教えた。当時は、国際危機であるからと諸国家が団結し、カンダル国に対抗した。だが、停戦協定が結ばれ数十年が経った。実際には何ら解決していないのだが、表面的には危機を脱したように感じられた。そのため、徐々に政府に有利になるような新法が作られ始め、少しずつ国民の生活が圧迫され始めた。ならば今、起源の魔導士が、国民の危機を避けるために、『新日本解放団』のような組織を信じて力を貸すのは至極当然である。もちろん、起源の魔導士の期待に応えるためにその実力を行使するのは、正当なことである。
つまりは、起源の魔導士が居さえすればいいのだ。連れてくるまでの過程は問わない。誘拐に成功しさえすれば、後はいくらでも事実を隠蔽できる。
そんな経緯があり、紅葉ヶ丘高校球技大会というこの絶好の機会に、臨光誘拐を実行するために選ばれたのが、少々チャラい三人の男である。
ところがこの三人、隠密行動が得意ではない。紅葉ヶ丘高校に侵入するまではうまくいったのだが(誰でもできるのだが)、そのチャラさがかなり目立ち、しかもその目がギラギラと異常だったので、周りの人間がかなり意図的に避けている。しかも、それでうまくいっていると思っているのだから、始末が悪い。
そんな三人が、目標である臨光を見つけたのは、正午を迎えた頃であった。探し疲れて、体育館で少し休もうとした矢先に、ちょうど臨光が体育館から出てきたのだ。
絶好のチャンスっ、とばかりに尾行を開始した訳だが、そのばれやすさと言ったらもう、かくれんぼの時にバケツを頭にかぶって隠れた気でいる子供と変わらないレベルである。日昏がいないことで警戒心が増している臨光と景が、気付かないはずがないのだ。
どうやら、体育館裏の販売機に飲み物を買いに行くらしい臨光を、チャラ男三人衆はこそこそと(逆に目立つ)追いかけていた。臨光が体育館の角を曲がったので、見失わないように、とチャラ男たちは早足になる。
そして、男たちも角を曲がる。すると、臨光がさらに奥へと走っていた。気付かれたっ、と焦った男たちも駆けだす。だが、臨光が向かう先に向かっても、体育館横の、あまり人気のない細い通路の方へ行くしかなかった。むしろこれはチャンスなのではないか、と男たちの顔が綻ぶ。
男たちが再び角を曲がり、体育館横の通路へ入った。そこには、逃げる臨光の姿があるはずだった。
ところが、臨光は逃げもせず、男たちを待ち構えていた。驚いた三人組が、一瞬立ち止まる。そして、思考が元に戻る前に、一人が吹っ飛んだ。吹っ飛んだ男の傍の空間が一瞬揺らぎ、茶髪の女が現れる。もちろん、景である。
想定外の出来事に、パニックを起こしかけた残り二人の男たちは、臨光の目が橙に光ったことに気付かない。とにかく、イレギュラーを抹消しようと、景に二人がかりで襲いかかる。そのタイミングで、臨光がパンッ、と手を叩いた。男たちが殴ろうとして踏み込んだ足に力が入らなくなり、男たちは崩れ落ちる。
「お兄さんたち、起源の魔導士の力を低く見すぎだよ」
と言う臨光の手には、いつの間にか光の刀が握られていた。初めに吹っ飛ばされた男がよろよろと立ちあがる。男が数回頭をふって、走って襲ってきたのを、臨光は容赦なくぶん殴った。光の刀は斬ることはできないが、身体能力を向上させた臨光の攻撃に、男は今度こそ倒れた。
「さ、後はお兄さんたちにいろいろ聞いて警察に突き出せば終わりかな」
「女の子を傷つけようとした罪は重いわよ、おっさん」
臨光と景は、気絶していない二人の方を向く。男たちはひいいっ、と情けない声を上げた。
だがそこで、別の人間の気配を感じ、景は、はっと顔を上げた。いつの間にか、臨光たちが来た角とは別の方向に、黒いパーカーを着た男が立っていた。一般人かどうか判断しかねて、景が声をかけようと口を開く。だが、パーカーの男がにやりと笑ったのを見て、景はすぐに敵と判断した。
「臨光、新手よっ!」
と叫び、身構える景。臨光も男の存在に気付き、剣を構えた。そう言えば、臨光の護衛が任務であるはずの大人たちがなかなか来ない、と景は気付く。
「こっちが本命ってことか・・・」
目の前の男が臨光の護衛を倒してきたのだろう、と判断し、景と臨光は警戒レベルを上げる。
そんな、緊張感の漂う中、男が話し始めた。
「いやあ、部下が随分お世話になりましたあ。自分、直坂言うて、そいつらの上司ですう」
その、随分と間延びした声に景と臨光はポカンとするが、すぐに気を引き締める。
「誰よあんた。何が目的?突然襲ってきて何」
と、不機嫌さを隠そうともしない声で景が言う。臨光も、そーだそーだ、と同調した。
「あなたには用はなかったんですが、事の成り行きってやつですねえ。そっちのおちびさんさえ引き渡してもらえればいいんですが」
「ちびっていうな!」
珍しく臨光が声を荒げるが、男は特に気にする様子もなかった。
「まあ、そこのすっとこどっこい三人組が失敗するのは目に見えていましたし、今のところ計画通りです。ただ、そろそろ気絶させたあなたの護衛も目を覚ますころでしょうから、手際よくいきますね」
そんな男の言葉に、景と臨光はより身構えた。だが、次に出た男の言葉は、、二人には予想できないものだった。
「捕まえなさい」
誰に命令したっ、と焦る二人。だが、その体は後ろから伸びてきた手によって動けなくされた。手は、動けなくしたはずの男二人だった。
「私は回復系の魔法が使えましてね。さ、おとなしくついてきてもらいますよ」
絶体絶命の、ピンチだった。
遅くなりました!




