あ
「これは一筋縄ではいかないな」
「こんなに歓迎されていないものとは……」
キサとハルトが、焚き火の前で小さな声で話していく。
あれから、カルマが山の方へ姿を消したあと、島の民たちがエリシアたちを追い払ったのだ。
辺りはもう夜で、エリシアたちは最初に島に着陸したところで、焚き火を起こし、身体を寄せ合っていた。
「これからどうしようか……」
エリシアが深くフードを被ってポツリと言えば……
「シア様は何も心配しないでください!カルマも同じ龍なのですから、必ずついてきます!」
ハルトが頼もしく断言した。
エリシアがありがとうと言えば、ハルトは顔を真っ赤にして、はい!と返事をした。
「まあ、カルマのことはまた明日考えよう。今は休もう」
キサが優しく言い、エリシアも「うん」と言って、ライたちにもたれながら目を閉じる。
中々寝付けないエリシアは、大胆なことを考え始める。
カルマの様子を見に行こうと…――――
しかし、会うのではなく、こっそりと盗み見るだけだった。
キサたちを置いて、エリシアは足音もたてずに山の中へと駆け抜けていった。
だが、人よりも敏感なキサは、エリシアの行動に気付き後を追うのだった。
昼間に連れられた建物の側に寄ると、所々明かりが着いていた。
カルマの居場所は分からなかったが、最上階が一際明るい。
じっと見ていると…―――――
「何してんだ?こんな夜更けに」
背後から男性の声が響き、エリシアはびくっと身体を震わせて、ばっと後ろを見た。
カルマがラフな格好で、気だるそうに木にもたれて、こちらを見ている。
気配がなかった……
エリシアは全く気づかず、驚きに目を見開いていると、カルマが近づいてくる。
「まさか、お嬢ちゃんの方から来てくれるとはな。どうした?俺が気になるのか?」
「何故私がここに来たことが分かったのですか?」
「おいおい。俺がこの島の結界を張っているんだぜ。誰が何をしているかなんて、すぐに分かる」
そういうことか…―――――
エリシアは無意識に近づいてくるカルマから、距離を置こうとじりじりと後ずさっていたが、不意にトンと背中に木の幹が当たる。
すかさずカルマがエリシアと距離を縮め、片手をエリシアの横に置く。
何だか楽しそうに見えるのは気のせいじゃないかもしれない。
「そんな警戒すんなよ。取って食おうっていうわけじゃない」
と言いながらも、エリシアの被っているフードを取り、顎に人差し指を添えて上向かせられる。
至近距離でじろじろ見られ、エリシアは居たたまれなくなる。
「……」
無言でエリシアの顔を見るカルマは、何を考えているのか分からなかった。
赤い瞳がエリシアの目を覗き込む様に見ると、つい反らしてしまった。
「……離して」
エリシアが小さく言うと、無骨な指がつうっと顎をなぞる。
ビクッと反応してしまい、カルマがにやっと笑った気がした。
「敏感だな」
顎から耳に移り、耳たぶをさすさすと触られる。
「や、やめて…」
エリシアはカルマの胸板を両手で押し返し、抵抗する。
しかし、止めてくれずもう片方の手はエリシアの顔に添えられた。
再び上向かせられ、カルマの燃えるような赤い瞳が迫ってきた時、何か感じたのか動きを止める。
「お嬢さんから離れろ」
カルマの背後にキサが立っており、カルマの背中に刃を立てていた。
「…おいおい。俺は何もしていない。ただ顔を見ていただけだ」
「いいから離すんだ」
キサの剣幕に、カルマがエリシアから離れると、すかさずキサがエリシアを背後に隠す。
「ふ…ナイト気取りか?」
「…黙れ」
カルマがからかうと、キサは冷たく言い放つ。
「ったく…。お嬢ちゃんがここに自ら来たんだ。それを出迎えただけだろ?何をそんなに怒っている?」
「…それだけじゃないだろう」
キサが何を言いたいのか、エリシアには分からなかった。
カルマは意図を理解しているみたいで、にやにや笑っている。
「まだまだ青いな、雷龍。もっと大人になれ。そんなんじゃ支えられないぞ」
「っ……!」
ははは……と高笑いしながら、カルマは家に戻っていった。
残されたキサとエリシアは、静寂な闇に溶け込みその沈黙を破ったのはキサだった。
「……あんまり夜に出歩かないで。お嬢さんは世間知らずなんだから」
「な…!そんなことない!」
エリシアはムッとして、反論する。
キサは冷たい目でエリシアを見下ろし、ふいと視線を反らす。
「ほら。戻るよ」
そっけない態度に、怒っているの?とエリシアが尋ねれば、ああと返事が返ってきた。
「……ごめんなさい」
「もういいよ。気を付けてくれれば」
キサは口ではそう言うが、目はそう言っていなかった。
冷たい視線の中に射抜くように見られ、エリシアは怖くなる。
本気で怒っているのだと分かり、エリシアは半泣きになった。
「ごめんなさい……」
もう一度謝ると、キサが近付いてきてエリシアの目元に触れようとしたが、寸前で止まり代わりに手首を掴まれ歩かされた。
「…もう怒っていない。そんなに怯えないで」
静かに地を踏んで足を進めると、二人の影が闇の中でゆらゆらと揺らめく。
互いに言葉を発しなかったが、繋いだ手からは安心感があった。
大きくて温かい…―――――
さっきまでは怖かったのに、もう安心しているなんて…。
広い背中は何も言わなかったが、エリシアは心地が良いと感じていた。
野営に戻ると、エリシアが眠れなかった事に気づいていたのか、キサが側に近寄ってきた。
「お嬢さんが眠るまでここにいるから」
「…ありがとう」




