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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
三章
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第47話:頂点の生き物

「アシュクロフト様、グロリア様から伝書が4通も来てます」


「4通も?」


 ――ある日、グロリアさんから伝書鳥を使った伝書が4通も来た。


 確実に届けるために出せるだけ出したのだろう。多分、手持ちのを全部使ったっぽい。

 これは間違いなく緊急事態だな。しかも世紀末レベルの。


 封を開いて中を見る。内容は全部同じ。


「どうでした?」


 こんな緊急の伝書は初めてなので、オットーさんも気になるようだ。


 ここは役所の中。今日は客も居ない。身内だけ。

 例え身内だけでも秘匿した方がいいかもしれないが、内容的にも数日で決着がつくものだから別にいいか。


「アトレイアの王都が滅亡しそうだって書いてある」


「ええっ!? 一大事じゃないですか!?」


 あるいは生涯を終えるまで無いかと思っていたのに、思わぬ所でチャンスが来た。







「ドラゴン……ですか。お姉さまの方はそんな事になっているのですね」


 そう、ドラゴン。

 伝書にはドラゴンの出現と、それに対する救援要請が書いてあった。


「ルート的に王都の方へ向かっているらしくて、助けて欲しいんだってさ」


 まだ距離もあるけど、方向としては王都の方らしくて何とか撃退か、最低限方向転換させたいらしい。


「というわけで行ってくる」


「私も行くわ。私なら負担にはならないでしょ?」


 確かにノイエは魔力も上がって、人と比べるのもおこがましい程に強くなった。

 間違いなく足手まといになることない。


「いや、邪魔ってことはないけど、これは俺がやるよ。ノイエは町の方を任せたい」


 伝書は印もあったし本物だったけど、グロリアさんの方に届いた情報が偽物で、ドラゴン自体が嘘の可能性もある。

 俺もノイエも出ている間に町が襲われたら、被害も大きくなるので、それは避けたい。


 それに、今回は"俺だけ"にやらせて欲しい。


「……そう、わかったわ。絶対帰ってきてね」


「もちろん。いざとなったら逃げるから」


 ジジイは何を血迷ったのか、徹底抗戦を選んだけど、俺は逃げる。


 俺だけなら何かあっても余裕で逃げ切れるし、そもそも近づかなくたって攻撃できるんだから安心だ。

 射程距離こそ全てだよ、1対1の戦闘は。

 ブレスだのなんだの言ってるうちは勝負にすらならん。その予定。


「トーヤ様……お姉さまをお願いします」


「どうしてもダメな時は、王都に先回りして、グロリアさんだけでも連れて帰るから」


「……できましたら、お父さまとお母さまも」


「わかったわかった」


 例によって2人は鬱ってるらしいけど、リリセラにとっては大事な両親だ。

 王都のひと全員は無理だが、3人くらいなら大丈夫だろう。


 リリセラの背中をポンポンと叩く。


 俺がどれだけ強いかわかっていても不安はあるだろう。ドラゴンの凶悪な噂だっていくらでもあるし。


「ご主人ご主人、いけどり? おみやげ?」


「無茶言うな」


 流石に生け捕りは難しい。っていうか無理寄りの無理。


「生け捕りは無理だけど、死体で良いならドラゴンを持って帰ってきてやるよ」


「ほんと? いいの?」


「アトレイアの人と相談になるけどな」


 ただ一人呑気なアンコ。

 俺も相当呑気だけど、アンコは俺以上に俺を信頼してるのか、一切心配していない気がする。


 アンコの尻尾をにぎにぎする。お? って返ってくる。いつも通り。


「それでトーヤ、どれくらいで帰って来れそう?」


「いつ出現するかもわからんし、なんとも言えないけど。伝書の感じからしたら今日か明日には帰って来れると思う」


 ドラゴンと遭遇さえすれば、すぐ終わるはずだ。

 ドラゴンが噂通りの巨体なら、探すのも難しくはない。


「そう。ならいつもより早いくらいね」


「多分そうなると思う。そうなるように頑張る」


 今日か明日にでもに帰って来れるなら、いつもの遠出よりも短い位だ。


「じゃあ、ちゃちゃっと行って終わらせてくるから」


 それで帰ってこよう。ジジイの二の轍を踏むことなんてない。

 いや、ほんと。マジだから。

 もしヤバいのが出てきたら、みんな見殺しにしてでも逃げてくるから。







 小さな雲。青い空。山。木々。アトレイアへ向かって空を飛ぶ俺。

 今日は湿気が少しあるが、中々にいい天気だ。


「お、魔物の群れだ」


 なんの魔物かは知らないが草原に群れがいた。

 昔にテレビで見たヌーだかの群れみたいだ。


 数は多くないけど、走っている。

 やっぱり自然が多いな。こっちの世界は。

 あれ? そうか? 今思ったけど、日本地図見るとほとんど緑色だった気がする。

 まあいいか。日本じゃ動物の群れとか見ないから、おおむね間違ってないでしょ。



 しばらく飛んでいると、例の湖が見えた。

 一度ここで住もうと思ったが、金属が混じっていたので諦めた場所だ。


 ここまで来ると、大体アトレイヤの王都まで半分の距離を来たことになる。


「いや、そうじゃなくて」


 今日は王都に行くんじゃなくて、待ち合わせ場所があるんだった。


 えーっと、今ここが湖で、あっちが王都で、あっちがナーミンの町だから……。

 あっちか、方角的に。約束の地は。


 指定の場所と言っても、住所なんて曖昧なこの世界じゃ、大体どの山の近くとか、どの町の近くとか大雑把なものなので、空を飛びながら探さないといけない。


「あ、あれだ。多分。間違いなく」


 それからまたしばらく飛ぶと、1000人以上は居る集団を見つけた。

 というか、先頭にグロリアさんが居た。


「なんでグロリアさんがいるの?」


 空から現れた俺に周囲の兵は動揺していたが、グロリアさんは露骨に安堵していた。

 わかる。俺がいると安心するよね。超強いし。


「ご機嫌よう、アラキ様。伝書は届いたようで何よりです」


 はい、こんにちは。


「アラキ様はやっぱりお変わりないのですね」


 直接会うのはそこそこ久しぶりだから、やはり成長していない俺は気になるようだ。

 というか、羨ましいようだ。

 こちらの価値観でも若さは武器らしい。

 ノイエも外見の変化少ないので、よく言われてる。リリセラとかに。


「すみません。なんか人間離れしちゃってて」


「いえいえ、頼もしい限りですよ」


 異質なことに目を瞑れば、化け物じみてるのはむしろメリットという事か。

 安心できるからね。


「グロリア様。失礼ですが、そちらの方が応援のアラキ様と言う方ですか?」


 横から兵の中でも偉そうな人が話しかけて来た。

 話によると、いくら俺が強くても一人で来るっていうのはどうなの? みたいな内容だった。


「失礼ですよ、下がりなさい。アラキ様は私が最も信用している方の一人です。兵100人よりもよっぽど頼りになるお方です」


「はっ、失礼致しました」


 グロリアさんの前では、攻撃的な魔法は見せたことないのに強気な発言だ。

 リリセラ――っていうかローレル経由で得た信用は絶大だ。こっちが心配になる。

 ただし、兵100人とは軽く見積もられたもんだ。


「二人共あっちを見てて」


 そう言って空を指差し、雲を作る。

 晴れていた空がみるみる雲が作られていく。


「どうよ」


 元々いくつか別に雲もあったし、湿度的にも問題なかった。


 俺が魔法を魅せると、周囲で話の聞こえてた人は俺に驚き、話の聞こえてなかった人は空に驚いていた。

 どよどよ。ざわつく兵士達。ちょっと優越感。


 あんまり持ち上げられるのは好きじゃないけど、最近の町の人達は俺が何かしても反応軽いからね。少々寂しい気持ちもある。


 文句つけて来た人も納得したのか、下がっていった。




「それで、もう一回聞くけど、なんでグロリアさんまで居るの?」


 あなた姫でしょ? 現場に居るのはおかしくないですか?


「それは、今回2000人の兵を集めましたが、前回ドラゴンの討伐で生き残った120名、全員が今回の参加を拒否されてしまいまして。強制させましたけど」


 2000人も居るのか、この人たち。

 前回が400人だったらしいから、前回の5倍か。

 それにしても全員断るとか、よっぽどドラゴンが怖かったのね。


 っていうかそれって、経験者は2000人でも足りないと思われてるんじゃないの?


「それで士気向上の為という名目で、私が駆り出されました」


 弱小も弱小だった頃の俺の町との提携を強引に組んだりしたせいで、結構睨まれてるらしいからね、この人。


 で、あわよくば死んでほしい、と。

 下克上の渦中ってやつなのかな。

 お城も大変ですね。


「じゃあ俺が頑張らないとですね」


「2000人とアラキ様がいらっしゃれば、いかなドラゴンでも怖くありません」


 なるほど。最初から俺込みの計算だったわけね。

 じゃなきゃ来ないと。



「そういえば、ここで待ってていいんですか?」


「ええ、ここを通るのは間違い無いでしょうから」


 別の町が襲われた後、こちらへ向かったという内容の伝書が届いたらしい。

 地形を考えたらここ以外は考えづらいか、森とか山とか邪魔だし。この荒野を通るわな。


 だが、いつ、どのタイミングでドラゴンが出るのかわからないので待機することになった。


 待っている間は暇なので、雑談でもして時間を潰す。

 これからドラゴンと殺し合いをするっていうのに、それまで暇を潰すというのも不思議な感覚だ。


 けど、準備するような事ももう無いし。


「俺、普通にグロリアさんと話をしてるけど、他の人的に問題ないの?」


 もう何年もの付き合いだし、前みたいな敬語も無くなっちゃって、馴れ馴れしい感じになってるし。なにこいつ……なに姫と軽々しく話しちゃってんの? みたいな。


 闇討ちとかされたりしたらどうしよう。返り討ちかな。


「大丈夫ですよ、アラキ様のことは周りにちゃんと言ってありますから」


 その割にはさっき絡まれたけどね。



「ところでローレルはどうですか?」


 はい、妨害電波。というか、壁。

 何となくそういう気配がしていたので、すぐさま防音の壁を作った。


 周りの人に聞かれたらどうするんですか。

 あなたの妹は死んだことになってるんだから、自重してくださいよ。

 これだから妹キチは。

 二言目にはローレルだよこの人。いつもの事だけど。


「リリセラなら毎日賑やかに、たまに泣いたり楽しくやってますよ」


 リリセラとローレルは同一人物だけど、俺とこの人とで話すとお互い呼び名で譲らないから周囲の人にはわかりにくい。


 二人だけの会話だから気にする事でもないけど。


「泣いて、ですか?」


「そうです。わかりますよね?」


 あの子はいじって、泣かせて、笑わせてこそ輝く存在だと。

 くるくると変わる表情が楽しいんだ。あの子は。


「わかります。あの子はそういう子です」


 やっぱりわかりますか、流石はお姉様です。


「最近で言えばですね、こういう事がありましたよ。リリセラが町で――」







 いつ来るかもわからないので、注意しながらも雑談を続けていると、遥か遠方に巨大な魔力を感じた。

 意識もしていないのに、背中の産毛がもぞもぞする。


 視界にも届かないこの距離で、これだけの魔力。

 賢者の石で何個分かもわからない魔力量。

 垂れ流しの暴力。これがドラゴンか。


「ああ……、これは無理だ」

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