第37話:新天地
「ついにたどり着いたな、俺たちのユートピアに」
「俺たちの……? ごめんなさい。なんて言ったのかしら」
「ユートピアってなんですか?」
「またご主人がヘンなこと言ってる」
あんまいじめないで。
俺たちは王都から400km位の楽園に、理想郷を作ることにした。
もしかしたら300km位かもしれないし、実は500km位かもしれない。だいたい勘と感覚だ。
「一箇所いい場所あったのにな」
一応もっと近く、王都とここの中間位の所に、湖のいい感じな場所があった。
けどノイエとアンコの2人に揃ってダメ出しされたので断念した。
王都に近い方が、色々便利なんだけどダメならしょうがない。
「あそこは水に金属が混じってて、飲める水じゃないからダメって言ったじゃない」
「あの水はよくないかった」
「いい場所だったんだけどなー。もったいない」
除去するにしても、魔力のこもった物でもないから手当たり次第に探す必要があるし。
除去しきれなくて、再度にじみ出てきたら大変だ。
なんだったかな。
確か日本でも、金属を含んだ水を飲んでヤバい病気になった例があった気がする。授業でやった。
イタイイタイ病だか、水俣病だかだったかな?
名前からして怖い病気だ。
「あの湖面の上でキラキラしていたのは綺麗でしたね。あれってどこにでも居るのでしょうか?」
「あら、あれはフェアリーっていう光る虫よ。あなたの嫌いな、ね」
つまりホタルみたいなもんか。
「まあなんにせよ、湖に落なくてよかったよ。ずいぶん熱心に覗き込んでたから、落ちるだろうなって予想してたんだが」
「いつもなら落ちてた」
「そんなことはないですっ。……とは言い切れないのが哀しいです」
ここも一応、っていうか普通に山があり、水量の多い川もあるから立地的にはいいのだが、魔物が多くて原住民はいなかった。
草食なのに襲いかかってくるタイプの危険な魔物だ。
地球でそういうタイプの動物っていたっけ? 草食で人に襲いかかるタイプ。
カバとかゾウとかか?
まあいい。
ここには住んでなかったけど、もしかしたら下流の方には住んでる人が居るかもしれないし。
川は町を作る上で重要だから。
「さて、みなさん。まず必要なのは衣食住です。まずは農村を作りましょう」
「『いしょくじゅう』ってなんですか?」
「それはノイエに聞いてくれ」
「ノイエさん、なんですか?」
「私も知らないわ。ごめんなさいね」
流れは簡単だ。
まず畑と建物を作れば農村が出来る。そして人を集める。
建物を沢山作れば町が出来る。そして人を集める。
アイデアを形にして開発を進める。完成。
マジかよ、楽勝じゃん。
ということで、最初のステップとして農村を作りましょう。
工業都市にする前に自給率を上げないとね。
輸入や輸出は当分先かな? でも、気候的に作れないものはバンバン輸入したい。
それに、前回の畑は思ったよりトカゲが外敵を狩ってくれなかったから、柵もしっかりしたの作らないと。流石にやる事が多い。
「じゃあ私は畑を作るわ」
「ワタクシも畑を作ります」
「アンコも」
「はい皆ー。落ち着いてくださーい。まだ何も言っていませーん」
どんだけ畑が好きなんだこの娘らは。
野良仕事を率先する元姫とエルフってどうなの? 犬は置いといて。
「まずは家を作ります。今回は今までと違い、かなりの長期間住むことになると思うので、本気の家づくりをする予定です」
「ワタクシたちに手伝えることはありますか?」
「家づくりの方は俺がやるので、ノイエに聞きながら畑を作る場所を決めて、前と同じように石や草を取り除いてください」
当然、前回の畑とは規模が違う。
ここに人を連れてくる予定なので、いくら大きくてもいい。
「つまり畑なのね」
「……そうだね」
そうだよ、勿体ぶったって結局畑だよ。農村だもん。
◇
さて、家づくりに取り掛かるわけですが、今回は石造りにしよう。
いつもの簡易的なドーム型じゃなくて、しっかりと四角い豆腐型。
作った部屋は毎度お馴染み、洋式のトイレ。
2m四方くらいの広さのお風呂。
換気扇がないので、凸の字に飛び出した形状のキッチン。カマド。
リビング兼ダイニング。
あとは個人個人の部屋。っていうか物置。
寝室で集まって寝るから、個人部屋は収納でいい。
外には、あると便利な水タンクも作っておくか。
それをトイレに繋げて、水洗にしよう。
レバーを上げると蓋が開いて、水が流れる仕組み。
レバーを離せば、重力や水圧に負けて蓋がまた閉まる。そういう仕組み。
そして今回は窓にガラスを使おう。
アンコあたりが割って怪我したら嫌なのでサイズは小さめで。
はめ込み型の丸窓。
ガラス自体はペンダントの時に作ってるから作れるけど、この気泡なんとかなんねーかな。
魔法でなんとかするか。
面が歪むのは嫌だから、平らな場所に置いて、慎重に消そう。
ちなみに完全な丸形のものは作れない。魔法でも。
紙の上に正確な丸を書け、って言われてもコンパスないと無理よね。って感じで。
じゃあ、コンパス使えばいいじゃん。そーだね。
棒と糸で糸を半径にしてグルっと一周。はい丸が書けた。
で書いた丸に合わせてガラスを調整。
「窓はこんな感じかな?」
出来上がったガラスに金属の枠をつけて家にはめる。
当然のように隙間ができるけど、それは家の方の形を変えて隙間を無くす。
これでもう前みたいに木製の窓だったり、窓なしの常時開放の部屋に、虫の嫌がる草を焚かなくて済む。
「やっぱり換気用に、一応、木製窓も用意しておこう」
俺が居れば魔法で換気し放題だけど、俺が居なくても換気できるようにしたいし。
カーテンはカーテンレールの構造がよくわからなかったから、窓の上にバーを用意して、でかい布を干すようにかける。
リビングは天井にもガラスをはめ込んで、光を多く取り入れるようにした。
「どうよ?」
誰もいない。みんな畑。
とりあえずこれで家は一旦完成。
いつか床を木製にして、靴を履かなくて良いようにしたいけど、それはまた今度にしよう。
流石に時間が掛かったな。これだけで一日が潰れた。
「おーい。家が出来たぞーみんなー」
「これはまたすごいですね」
「気になってたから、皆で見てたんだけどね。もちろん畑の方をしながらよ」
「ノイエさん、それは言っちゃ駄目ですよ」
「ご主人ご主人、これがご主人の言ってたガラス?」
「ペンダントにも使われてるやつな。いいだろ?」
「へやの中なのに明るーい」
予想よりも好評だった。
もうすぐ日も暮れるから明るさは控えめなんだが、それでも明るい。
特に天井のガラス化が効いてる。
「今日の作業はこれくらいにして、残りは明日にしようか。明日から俺はダムづくりに入るから。多分昼も帰ってこないから、もし魔物がでたらこの家に避難してくれ」
「あーい」
「わかりました」
「トーヤ待って。できたら畑のすぐそばに避難できる場所を作って欲しいの。小屋でいいから」
「ん、わかった。明日の朝にでも作るよ」
「うん、お願い」
ノイエは前にも増して慎重になってるな。ヒールも覚えて大丈夫だと思うんだけど。
いや、ヒール覚えたって『エーデルワイス』があったって怪我したら痛いんだから、慎重になるのは当然か。この辺、魔物も多いし。
これもなんか考えておこう。
俺もいつか人集める時とかに出張するから。
「今日はもう終わりでいいのね? リリ、夕食を作るから手伝ってくれる?」
「はい、今日はなにを作るんですか?」
「じゃあ俺は、その間トカゲと遊んでるわ。アンコも来るか?」
「いくー」
◇
次の日は早朝から避難所を作り、ダムに着手した。
まずは水が溜まる場所を掘る。深さは20m以上。
何人住む予定か考えて、畑に使う水の事も考えて、元々の地形も利用して。
もう、それだけでやばい。まるで一日じゃ終わらない。やばい。
これだけサクサク掘れる俺でも数日掛かかりそう。
その間、3人には木材の調達や、畑の方をやってもらうか。
掘るのが終わったら、20mは超えているだろう高さの、水圧に負けない超分厚い堤防を作って。川に流れる水量を調節する仕組みを作って。決壊した時に町の方にいかないようにして。
今回は雲を使ってもまるで足りないから、水は雨の日を待とう。
えーっと、その後は……川を下って、魚を集めて、ダムに入れて。
ああ、ダム周辺の地形も整えないと。
仮に倒れてもダムに入らないよう木の手入れをして。けどダムの魚の餌になるように、虫が寄ってくるような植物を植えて。
「あーしんどい」
前回と違って規模が多いから大変すぎる。
ダムの場合、後から調整するのも大変だし。できなくは無いけど。
それにしてもダムの堤防みたいな形の場合、高さって言うのであってるのだろうか。それとも深さって言うのがあっているのだろうか。
衣食住は三大欲求にとても密接な関係にあると思う。
食べる物がなければ、お腹が空いて困るし。
住む場所がなければ、寝る場所に困る。
衣服がなければ、えっちな気分になってしまう。
っていうネタを入れようかと思ったんですが、断念。