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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
二章
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第34話:生存確認

 割と長い帰路を経て、王都についた俺たちは早々に宿を取った。

 そして宿の中で忍ぶ。リリセラがバレたらやばいし。


「すんなりと潜り込めたわね」


「ご主人のおかげ?」


「違う。なんていうか意外と騒ぎになってないな」


 妹姫が処刑されて、姉姫も衰弱しまくってるのに表面上は平穏な町に違和感を覚える。

 波乱寸前、大混乱一歩手間な状況じゃないのか?


「実感がなければ、民というのは意外とそんなものですよ」


 黒っ。今日のリリセラさん黒いな。普段はあんななのに。


 でも俺の方も地球にいた時に経験したかも。

 でかい事件や事故があっても、次のニュースがあればすぐ流れて、一部の人だけが騒ぎ続けるあの感じ。

 前に王都を去ってからもう随分時間もたってるし、そういうもんなのかな。


「平和なのはいいことじゃない」


「そうですね。もしかしたら、大臣とかがお姉様の現状を秘匿しているのかもしれません。だから噂程度で済んでいて。実権はまだお父様が持っているはずですし――云々」


「なんかリリセラがまともな事言うと、違和感すごいな」


「どういう意味ですかっ」


 そうそう。これだよこれ。


「とにかく、お姉さんが無事でよかったわね」


「はい。間に合って良かったです」


 姉姫は既に死んでいて、影武者って可能性も0じゃないけど、これを言ったら嫌われるので言わない。


 魔力で探れれば直ぐ分かるんだけど、姉姫の魔力とか覚えてない。

 直接会ったわけでもないし。盗み聞きの際、一瞬近くに寄っただけだし。


「夜になったら、姉姫の所に侵入して、そこでリリセラと対面させれば良いんだろ?」


「そんなので上手くいくかしら?」


「まあ、段取りも考えておかないとな」


 死んだはずのリリセラと姉姫をいきなり会わせて、はい、仲直り。とはいかないだろうし。


「ご主人へーき?」


「わからん」


「あの……そこは自信を持っていただかないと不安なのですが」


「まあ、なんとかするよ」


 つってもどうするかなー。







「ぼけー……」


 っとしてるのも暇だったので宿を出た。

 城に忍び込むのは夜として、夜まで待つにしてもやることないし。


 アンコはついて来たがったが、ノイエが町は今危険だからダメってしてお流れになった。


 だが宿を出て町を歩いてみたがやっぱり平和だ。平和な気がする。

 といっても、こういうのは長く滞在しないとわからない場合もありそうだし。

 前に滞在したのは2ヶ月程度だったから、この辺の治安については詳しくないからな。


 それはそれとして、目的の場所に行きたいんだけど……。


「どこだっけ?」


 よく思い出せないままにウロウロと町を練り歩く。ウロウロ。マジでどこだっけ。

 前に一回だけ行った場所だから全然思い出せない。

 人に聞こうにも名前も覚えてないし、どうすればいいの??



「ここだ」


 そしてようやくたどり着いた1軒の家。

 それはかつて俺が治した患者の家。コカトリスの呪いで身体が石になる病気になった人。

 あれ? バジリスクの呪いだっけ? まあいいや。


 とにかく前に来た時に、ここの家の人がその病気の所為で家財を売り払いまくってて、生活できてるのか心配だっただけ。


 もちろん訪ねるつもりはない。

 まだ生きてればいいや位の感覚で来てみた。死んでたら後味悪いから。


「で、だ」


 中を覗くなんてことはしないけどそれならどうやって確認しよう……。

 魔力で探ってみるか?


「居ない」


 居ないじゃん。

 っていうか外出してたらわかんないじゃん。


 じゃあどうすんの? 知らない。待つ? それはない。

 近隣住民にでも聞くか?


「あ! あなたは!」


「やべっ、見つかった」


 咄嗟に逃げようとする俺。


 近隣住民に訪ねることもできずに、ウロウロしていたら、なんとかさん夫妻――名前思い出せない――が帰ってきてしまい見つかってしまった。







「どうぞ、よく来てくださいました! あれからずっとお礼をしたいって思ってたんですよ!」


「はぁ……」


 中にまで案内されてしまった。この人強引だ。

 そしてすごいテンションだ。俺との温度差がすごい。


「その節は、本当にありがとうございました。どうぞ、何もないところですがゆっくりしていってください」


 奥さん、それ洒落になってないです。マジでなんもないです。

 そもそもゆっくりしていけ、って言葉よく聞くけど、遊びもしないのに他人の家でゆっくりってどうやるの?

 雑談か? そうか。ついでにアレを聞こう。


「この町の治安、ですか?」


「実はしばらく町を出てまして。お姫様の処刑もあって、今のこの町の治安はどうなのかな、と」


「なるほど。悪ければ、また町を出るのですね。できれば、貴方には居てほしいのですが」


 イヤです。

 感謝はありがたいですが、あまり俺に入れ込まないでください。気持ちが重たいです。

 奥さんもうんうん頷かないでください。


「それで、治安ですね。ええ、はっきり言ってしまえば、あまり良くないです」


「そうなんです? 町を歩いた感じではあまり気になりませんでしたけど」


「表面上はあまり変わっていないと思います。ですが、買い物の際の小競り合いやギルドに所属する人が増えましたね」


 ギルドの所属が増えると治安が悪いのか?

 まあ、あそこって治安が良いとは言いづらい荒くれ者の集まりって感じだけど。


「もしもの為に貯蓄を増やす時期、とでも言うのでしょうか? そんな感じです」


 なるほど。

 今はまだ大丈夫かもしれないから大きく動いてないけど、もし何かあった時の為に準備をしていると。

 それってかなり瀬戸際じゃない? この国。

 あ、そうだ。だったら。



「避難の依頼?」


 そう、避難。


 このオットーさん夫妻にお仕事の話を切り出した。


 仕事内容はノイエ達が宿泊している宿に泊まっての護衛。護衛っていうか用心棒。

 夜の間、何か騒ぎが起こったら、いざこざが宿の客に被害がいかないようにすること。

 別にいざこざを止めろというわけではなく、避難を促すようにする仕事。


 ノイエやアンコの情報を伝えるか迷ったけど、伝えなかった。

 礼と称して会いに来られたら厄介だし。ノイエ達に面識があるわけでもないし。

 そもそも問題なんて何も発生しないし、ただの過保護だけど。保険として。ね。


 それに、上から目線の恩着せがましい行為だとは自分でも思うけど、やっぱ自分が関わった人が極貧してるのって気になるし。


 偽善ってやつか。

 そうなのかな?

 どっちかっていうと自己満足の方か?


 まあなんでもいいじゃん。

 ノイエ達の用心棒を頼むことで、こっちは安心感を得て、夫妻はお金を手に入れる。

 仕事ってそういうもんじゃん。


「ということでお願いします」


「こんなに受け取れませんって」


「まあまあ。何かと入用ですし」


「あなた様にはお世話になりっぱなしで」


「いえいえ、そんな事ないですし。あの、様呼びはやめてください。ほんとに。じゃあ、これ。そういうことで。お願いします。さいならっ」


 お金が多すぎるって散々断られたけど、強引に渡してとっととおさらばした。


 ほら、魔法の授業でお金そこそこもらったから。

 ノイエ達は無駄遣いするなって怒るかな? 怒らないな。けど呆れるかも。まーたやってる、って。

 まあいいだろ。これは俺の分の金だし。悪い使い方でもないし。


 これで夜の――俺とリリセラが城に忍び込んでる間の安全はさらに増した。


 2人を連れてくことも考えたけど、リリセラと姉姫の再会に人がたくさんいたら絵面と雰囲気的にどうかと思ったので却下。

 特にアンコは素っ頓狂なツッコミで雰囲気壊れたら台無しなので。

 それで仲直り失敗したら、悲惨すぎる。




 夫妻宅を出た俺は、適当に買い物をし、宿に戻り、みんなで雑談をしながら夜を待ち、夜の帳と共にリリセラと宿を抜け出して城へ向かった。




「……トーヤ様、ワタクシ達は本当に仲直りできますでしょうか?」


 城へ向かう途中、リリセラが不安そうに声をかけてきた。


「大丈夫大丈夫、出来る。お互いに好き合ってるんなら余裕だ。ただ……」


「ただ?」


「無条件で許すのは止めておいた方がいいと思う」


「なぜでしょうか? 条件を突きつけての仲直りなんて、仲直りじゃないです」


「今回のは相手が一方的に悪いだろ? お互いにそれを分かってる。だから無条件で許すと相手に負い目が残ることになる。と思う」


 だからぶん殴って、けちょんけちょんにする位はした方がいいと思うんだけど。……わからん。

 こういうのって成功はあっても正解はないって言うし。


 まあ、今回はどうやったって姉姫の負い目を消すことはできないだろうな。

 そういうのは時間をかけてなんとかする方針で、今回はとりあえずの仲直りに注力するか。


「ほら、行くぞ。大丈夫。なんとかなる。俺がなんとかするから」


「は、はい……お願いします」

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