第21話:ちょっと大魔法じゃない第二の大魔法
王都を出て、隣の国へと亡命に向かうある日――
ノイエから魔力によるシグナルが届いたので現場に行ってみると、油がたくさん取れる植物を教えてくれた。
前にネバネバする植物があったら教えて欲しいと言ったから、それを教えてくれたようだ。
ほら、オクラとかそういうやつ。
ネバネバは水に溶かすと、なんか泡になる。
そして泡が汚れを浮かして落とすというのは、日本に居た頃、洗剤のcmで散々聞いた。
でも、ネバネバと油のぬるぬるは違うよね。
「この実を潰すと沢山出てくるのよ」
「なるほど、これが油の実か」
なたね油とか、オリーブオイルみたいなもんか。
ゴマ油とか、サラダ油とか……ん? サラダ油……、ってなんだ? サラダ潰すと出てくるのか?
嘘だろ?
ふむ。
「ちょっと、ノイエさん。潰してみてくれませんか? 素手で」
「なんでよ。意味がわからないわ」
「いいからっ、お願いしますっ。この通り、な? ほら、急いで、早くっ」
「わ、わかったわよ。なんでそんなにして欲しいのかわからないけど、ほら潰したわよ。ああ、もう、手がぬるぬるになっちゃったじゃない。もう」
「うむっ」
「本当に意味がわからないわ……」
ノイエの手がぬるぬるになり、しかめっ面になるのを見届けると、俺は深く頷いた。
ここで洗剤が役に立つわけだ。
油汚れには洗剤。
けどまだ洗剤がない。だから、ごめんて。
プリプリするノイエに尻を向け、俺は油の実を根こそぎかき集める。
んで、清潔な布をさらに熱風で殺菌した後、潰しつつ濾した。
すると果汁の上に油がすでに浮いている。
あとは魔法で分離させて、上澄みを掬って。できた。油。
それを砂鉄から作った缶に入れる。
ひとつの実から結構な量が取れたので、思ったよりも集まった。
1リットルは取れたか?
これだけの量の油を見るのはこっちの世界に来て初めてだ。
油は場合によってはネバネバよりも便利な代物だ。
タイヤとかの潤滑油にもなるし、食事にも使える。
この辺は温暖な気候だからか、脂肪を蓄える魔物が少ない。
だから脂身な肉があまりない。
ということで、さっそく揚げ物をつくろう。
よさげな鳥タイプの魔物を探して狩り、アンコと一緒に解体作業。
血を抜いて、羽を毟って、なんやかんや。
ノイエとリリセラには野草の採取をお願いした。
「この鳥、速かったな。流石の俺でも電気系の魔法じゃなきゃ範囲攻撃が必要だったぞ。まあ、嘘だけど」
「ちいさくて速いのはとるのたいへん。ご主人がいない時は大変だった」
「小さいのはそもそも見つけるのが大変だろ。いや、アンコは匂いで追えるのか?」
「見つけるのもたいへん。捕るのもたいへん。おっきいのはもっとたいへん」
「なんの話ですか?」
「内緒」「ねー」
アンコと仲良く解体してると採取組が戻ってきた。いよいよ調理に入る。
のだが俺以外は誰も揚げ物を知らなかったので、俺が担当をすることにした。
みんな何となくで協力してくれてたんだね。ありがとう。
と言ってもパン粉も何もないので、肉も野菜も素揚げだ。
調味料も王都で買い込んだ塩。おわり!
レモンか何かの果汁が欲しかったけど、柑橘系風の酸っぱい果物はみかんっぽいのしかなかった。
しかし、久しぶりに食べた素揚げは最高にうまかった。
「おいしー」
「だろ? 塩と油の相性やばいんだよ」
「こんなに油を贅沢に使う料理は初めてですが、確かに美味しいですね」
「この芋のやつも悪くないわよ」
みんなにも好評で俺も満足だ。
食べ終わった後はまた油を濾して缶に戻す。
多少の劣化はするだろうけど仕方ない。あと数回は使えるだろ。
そのあとはなんかの潤滑油に使おう。
食休みに4人で雑談している時にふと思ったことを聞いてみた。
「そういや狩りの話で思ったんだが」
さっきアンコが言っていた。
大きい魔物は狩るのが大変、というやつ。
「で、ドラゴンって400人で戦って全滅したらしいけど、結局どういう生き物なんだ?」
ジジイに聞いてたのはデカくて、強くて、堅くて、魔法を使うって話なんだが、それで武装した400人が負けるだろうか?
魔法使いもいるのに。
「全滅してないですよ。トーヤ様のおじい様のおかげで何人も助かりました」
まあ、似たようなもんだろ。
問題はそこじゃない。
「私も実は詳しくは知らないわ。とても大きくて、力強くて、火を吐いて、魔法も効かないってことくらいね」
「魔法が効かないってなんだ? そんなのあるのか?」
「ごめんなさい。わからないの」
見たのは子供の頃だったし、と付け加える。アンコも似たようなことしか知らなかった。
てか魔法効かないならジジイはどうやって時間稼いだんだろ? 俺なら余裕だけど、ジジイがどうやったのかわからん。
そこで本命のリリセラが満を持して語ってくれた。先に言え。
「ドラゴンはノイエさんの言うとおりものすごく大きな魔物です。討伐から帰ってきた兵の話ですが、火や魔法をかき消す何かを吐き、矢すらほとんど刺さらなかったとか」
「空は飛ぶのか?」
「飛びませんよ。お屋敷のような大きな巨体で飛ぶなんて無理です」
ふーん。
つまり魔法は効かないんじゃなくてかき消されるだけか。空も飛ばないと……。勝てるなこれは。楽勝だ。
ゲームでもあるまいし、魔法が効かないだけで本物の魔法使いは攻略出来ないってことを教えてやるぜ。逢えたらな。
「今度見かけたら狩っていい? 神聖な生き物だからダメ、とかはないよな?」
「無理ね」
「無理ですよ」
「おーがんばれご主人。ご主人ならヤレル」
2人にはダメ出しを食らったが、アンコは賛成派だった。
こいつの俺に対する異常な信用はどこから来てるんだろう。
「トーヤ聞いてなかったの? 魔法がかき消されるならあなたには余計に無理じゃない。無謀なことはしないでよ」
「まあ待って、魔法が効かないだけならどうとでもなるんだよ」
はい説明。
土でドラゴンの人形を作ります。
そしてその前に水で壁を作る。この水の壁がドラゴンの魔法無効にするやつね。
まずは、パターンA。
魔法で炎をぶつける。
当然、火は水の壁に阻まれ、ドラゴン人形には届かない。これが普通の魔法の場合。
んで、パターンB
魔法で石を持ち上げて、投げつける。
すると石は水の壁を突破して、ドラゴン人形を破壊する。これが魔法を使っての物理攻撃。
こうすれば魔法自体は効果がなくても、魔法で退治することが出来るってわけだ。
魔法による物理攻撃も無効なら、いよいよ事象に干渉してることになる。
「なるほど、確かにこれなら魔法で戦うこともできるわね。けど、やっぱり無理だと思うわよ。矢でもダメなんだから。魔法で石をぶつけたくらいじゃダメよ」
それはノイエがまだ知らないだけだ。
今まで見せた魔法はまだまだ序の口。
そこまでの魔法を使う相手がいなかったから、あえてぬるい攻撃魔法しか使わなかったのだと。
「じゃあちょっとこれを見て欲しい、これが2つ目の大魔法。いや、”準”大魔法かな。なんでもいいや」
大魔法の基準はレベルを下げても俺以外には使えない。
そして大魔法中は他の魔法を使えない。の二つだけど実はこれ二つとも満たしてない。
けど普通の魔法よりは大魔法に近いので大魔法ってことにしてる。俺の定義なんてそんなもんさ。
さあ準備を始めよう。
本日二回目の砂鉄集め。
集めた砂鉄から重心を先端に寄せた投げナイフを作り、さらにねじれを入れる。つまりドリル状のナイフだ。
研ぎは面倒だから今回は抜き。あれ? ちょっと大きく作りすぎたかも。まあいいや。
その後、全員から離れて身体強化の魔法を使う。
ノイエからこの魔法を覚えたおかげで、威力と精度が跳ね上がったはずだ。
しかしこれが他の魔法を使えない、っていう大魔法二つ目の基準を満たしてない事にもなる。
ドリル型のナイフを作り、強化を行い、水を纏って腕をガードし、前方に風で筒を作る。
準備完了。
「今からあの木を狙うから。多分見えないだろうけど、見てて」
前方300mほどのところにある、電柱位の太さの木を指差す。
3人は固唾を飲んで見守っていた。
俺もドキドキしてきた。外したらどうしよう。笑ってごまかそう。
ナイフを大きく振りかぶり、投げる。
と同時に手元を爆発させた。
「遮る事すら許さない音速の鳥『ラプタースロー』」
手から離れたナイフは風の筒を通り軌道を安定させ、更に風の援護を受け回転数を跳ね上げた。
投げられたナイフは音を軽く置き去りにしつつ、0.5秒にも満たない時間で木に到達し、貫通し、半分以上を削られた木はそのまま倒れる。
木に当たった瞬間、ボズッって音がした。ような気がした。
流石に強化を行ってても目で追うことすら出来なかった。
「こんなもんよ」
少し怪我をしたのでヒールをする。
水でガードして、肉体の強化を使っていてもこれだ。火力をもうちょっと下げればよかった。痛い。
威力は申し分ないんだけど、爆発はいらないかもしれない。安定感下がるし、手、痛いし。
けど、爆発がないとただの強化使った投げなんだよね。
「…………」
「…………」
「…………」
みんな声すら出ないようだった。唖然とした態度がちょっと面白い。口、半開き。女の子なのに。
最初に復活したのはアンコだった。
「ほえー、見えなかったけど木が倒れた」
「た、確かにこれならドラゴンでもなんとかなりそうですね……。お恥ずかしながら開いた口が塞がりませんでした」
「これは……凄まじいわね。凄すぎてなんか怖いわ。こっち寄らないでくれる?」
ノイエさん、冗談にしてもひどくない?
俺だって傷つくんだよ?
「冗談だからそんな顔しないで」
どんな顔だったか自分ではわからないけど、情けない顔してたんだろうな。
「すごい魔法に怖がるなら、そもそも最初に見せてもらったあの森で怖がってるわよ」
「ご主人ご主人、アンコも今のやりたい」
「アンコさんには無理ですよ」
それにしても皆の声が妙に明るい。なんていうか興奮している。
俺の強さの片鱗を見たから安心したのかも。ドラゴンでもなんでもかかってこいや。




