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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
一章
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第20話:深夜の会話

 リリセラが参入してから10日が経った頃。

 夜、眠れないでいると、リリセラが外に出ていく気配がした。


 しばらく待っても戻ってこなかったので、俺も追いかける。


 外に出るとリリセラが座り込みながら空、もしくは星を眺めていた。

 もしかしたら毎晩こうやっていたのかもしれない。


「国の事か、それとも姉のことか」


 表面上は明るく振舞っていたが、こうしている姿を見た以上、思うところがあるんだろう。

 なんだかんだいってもまだ10日だ。


「お姉様のことです」


「そっか」


 追求はしない。

 けど話は聞こうと、隣に座る。少しだけ距離を開けて。

 手を伸ばしても届かない程度の距離。


「こうして見ると、トーヤ様が26歳だという事も納得できますね」


「そうか?」


「大人しいのとは違って、落ち着いた感じがします」


 俺としては高校生――いや、中学生の頃くらいから成長してる実感がないんだが。


 高校生になってすぐこちらに来てしまったし、こちらに来てからはジジイと二人だけで洞穴生活だった。

 魔法以外の研鑚もなく、ただ歳だけ取ったようなものかと思っていたが、それなりに成長もしていたらしい。



「……本当はわかっているんです。お姉様が体調を崩し、民がワタクシを次の王にするべきでは、と声を上げた時に変わってしまったのだと」


「……」


「ワタクシも、お姉様も、お城の中のことしか知りません。どこかに嫁ぐとして、病弱になったお姉様はどうなってしまうのでしょうか。大事に扱われるのでしょうか」


 その考えに囚われた時に、お姉様はワタクシに優しくする余裕が無くなってしまったのでしょう。なんてことを言った。


「俺にはわからないな。知ってのとおり、こっちの世界の世間には疎いんだ」


「そう、でしたね」


 リリセラも馬鹿じゃないので、それなりの事情があるのはわかってる。

 けど、それで許せるかどうかは話が別だ。


「リリセラ」


「はい」


「姉のこと、許しているのか?」


 気になっていたことを聞く。

 どうにも自分を殺した姉のことが憎くてしょうがない、という感じがしなかったからだ。


 というか、擁護ばかりしている。


「……いいえ。怒っていますし、恨んでもいます」


 でも、と続けた。


「嫌いにはなってはいません」


「そうか」


 やはり、この子は強い子のようだ。

 15歳という若さで、お姫様なんて羨まれる立場で、しかし姉に要らないと処刑まで企てられて。

 でも嫌いにはならなくて――


「なら、伝えてもいいかもしれないな」


「あの、何か?」


 一人でずっと考えていたが、どうしたら良いのかの答えは出なかった。


 伝えていいのか、それとも黙ってる方がいいのか。

 伝えた所で丸く収まるわけじゃない。


 けど、リリセラは強い子のようなので、思い切って話してみることにした。


「これから、本当のことを言うけど。お前からしたら都合のいい話を、と怒るかもしれない。それでも聞くか?」


「都合のいい話ですか? そんな言い方されると気になります。聞きたいです」


「そりゃそうか」


 言い方が悪かったか。難しい。



「お前の姉な。お前が処刑された時、広場の近くにいたんだよ。お付っぽい人に取り押さえられてたが」


「本当ですか? あの場には来ないものと思っていましたが」


「本当の話だって言ったろ」


 話を続ける。

 今、俺は間違いなく雰囲気に乗せられている。


「悪魔は私だって。全部打ち明けるからって、泣きながら叫んでいたよ」


 だから悪い人ではないのだろう。

 悪いことをした人だけど。


「……きっと、本当のことなんでしょうね。お姉様は優しい人でしたから」


「俺はな、それを聞いたからお前を助けたんだ。本当は見捨てるつもりだったんだよ」


 だって助ける為とはいえ、観衆の前に飛び出す勇気なんか、普段は持ち合わせていないし。

 あの時は勢いがあったからいけた。


 俺は聖人君子でもなきゃ、割と普通の高校生やってたんだ。


 今はこんなだけど。

 ホント、こんなだけど。


「それも……本当のことなんでしょうね……」


「幻滅したか?」


「いいえ、助けてもらえた理由がわからなかったので、少しだけ納得できました」


 まあ、お姫様を助けておきながら、何かの手札にする様子も見せなかったしな。

 それだけで信用するのはまだ早いが、腹の内とか特にないし、見られて困るものもない。


 んで、本題はこれからだ。


「それで、どうする?」


「……どうする? とは?」


「あれから考えたんだけど。俺なら、色々解決出来ると思う。城に戻る気はあるか?」


「そんなこと出来ませんよ」


 たしかに連れ出した時は思いつかなかったが、今ならなんとか出来る方法も浮かんだ。

 それでも色々と問題は残るが。


「出来るさ。俺が悪魔を演出して、あの日処刑されたのは偽物で、本物は今まで捉えられていました。みたいなことをすればいいんだ」


「それは……」


 リリセラと姉姫の仲がどうなるかはわからないし、政治的なものもわからない。


 リリセラは戻れるかもしれないと知って葛藤していた。

 それでも答えが出なかったのか――


「ワタクシはここにいない方がよろしいですか? 確かに何の役にも立っていませんし。邪魔かもしれませんね」


 優しい言葉を求めているんだろうなってのはわかった。だから、こう答える。


「確かに役にはたってないな」


「……ですよね」


 求めた言葉と違い、落胆を隠しきれていない様子だった。


 けど、求められて与える優しさはどうやったって胡散臭くなる。

 なので本音で話した方がいい。


「リリセラをここに置いている理由はな。リリセラが可愛くて、愉快で、一緒にいて楽しい奴だと思ったからだ。それに可哀相ってのもある。もし仲良くなれなかったら、前にノイエが言ってたように、次の国にでもついたらお別れしたさ」


 こんな口説くような言葉が俺の口から出るようになるとは。

 日本にいた頃には想像もつかなかったな。


 雰囲気って恐ろしい。夜って恐ろしい。


「それに、少しずつ上達してきてるし、アンコ達にも邪魔扱いされなくなっただろ」


「はい。少しずつですが、出来るようになってきました」


「じゃあいいじゃないか。俺は結構リリセラのこと気に入ってるんだよ。……いや、まあ、普段の態度じゃわからないかもしれないが」


「実は知ってました。ひどいこともよく言われますが、気にかけてもらっていることも伝わってましたから」


 そう言ってリリセラは少し笑った。

 星の照り返し程度の光では影も深いが、その笑い方が普段とは違い、少し大人っぽく見える。



「……トーヤ様が皆様に頼られる理由がわかりました」


 みんなって言っても、アンコとノイエの二人だけだろうが。

 二人をみんなって言うな。


「色々な事が出来て、すごい人だからじゃないですよ?」


「じゃあなんだよ」


「頼りになるからです」


「……言葉遊びじゃねーか。ご機嫌取りならいらん」


 ニュアンスの違いがあるのは何となくわかるが。


 こうやって素直に褒められると恥ずかしくなる。

 こういう時、女性は素直に褒めるから困る。


「なんか恥ずかしくなってきたから寝るわ。じゃあの」


 言いたい事も言ったし。

 このままだと俺のキャラが崩壊しそうだ。

 そういうのはいらん。


 手をあげ、踵を返すと後ろから声を掛けられた。


「ワタクシもトーヤ様達と一緒にいるのは楽しいので、このまま旅を続けさせていただきたいと思います」


 そうか。

 あんな日常でも楽しいって言ってくれるなら、まあよかった。

これで1章は終わりです。

1章はヒロインが出揃うまでのお話でした。

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