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歩く賢者の石  作者: 望月二十日
一章
19/56

第18話:リリセラの元気を取り戻そう

 リリセラが旅に加わって、3日が経った。


 心の強さは垣間見えたが、それでも傷心であろうリリセラに必要なのは時間だと思い、放置してきた。


 しかし、家を作って見せたり、風呂を見せたり、狩りを見せたりしてその都度度肝を抜かせるだけの生活はもう終わり。

 そろそろ役割を持たせたい。


「さて、今まで温情を与えて自由にさせてきたリリセラさんですが、そろそろ仕事をしてもらいましょう」


「がんばります」


「ぶっちゃけこういう生活感あふれる仕事が出来ないのは、わかりきっているので、アンコやノイエの手伝いをがんばってもらいます」


 3日もあれば、器用か不器用かはわかる。


「が、がんばります」



 アンコの仕事は魔物の解体でノイエの仕事は調理と御者だ。

 狩りとか洗濯は俺がしている。

 あとは皆でヘルプ。


 ちなみに洗濯は魔法でしている。


 空中に温水を用意して、洗濯機みたいにグルグル回す中に洗濯物をみんなで投げ込むだけだけど。

 洗剤なくても温水って結構汚れ落ちるんだ。


 ただし、主にアンコの服のように泥汚れは手洗いしないと落ちない。

 やめてほしいのは血とか。

 マジで洗剤欲しい。


 見られたくない洗濯物は、普通に見ないようにしてグルグルするので、女性の方々も安心だ。

 俺もパンツにはあまり興味がない。

 パンツっていうか、パンツみたいなものだけど。単に下着。


 というか、アンコはいま先輩風吹かせてリリセラと風呂とか入ってるが、その前までは俺と入っていたし。

 2ヶ月以上女の子と寝食を共にしてたら耐性も付くってもんだ。

 パンツ位でビビる俺じゃない。




 さて――じゃあ頑張ってと、リリセラに仕事を手伝わせた結果。


「ご主人ー、こいつ使えない、どうしよ」


「この子全然ダメね、ダメダメよ。ある意味、教えがいがあるわ」


 やはりダメだしのオンパレードだった。

 ノイエさんちょっとはオブラートに包んで。アンコもか。どっちもじゃねーか。


「あーうー。面目ありませんー」


 リリセラの面子もなくなってきた所でアンコのトドメが入る。


「こいつって何が出来るの?」


 これはキツい。何がキツいってアンコに言われるのがキツい。


 自分の役割を持っている10歳の子供に、お姫様とちやほやされるべき存在がお前の存在意義は? と言われたのだから。

 俺なら不登校も考える。


「で、できます。算術や歴史の勉強もしてましたし。礼儀作法の勉強や社交会なども出ていました!」


「それって役にたつの?」


 アンコが攻める攻める。

 悪意はないが容赦なく攻めたてるので、流石にインターセプトを入れてやる。


「アンコ、そこまで。リリセラが泣いてる」


「トーヤ様ぁ~。泣いてないですぅ~」


 涙は出てないが語尾は泣きそうだぞ。キャラも大分崩れて来た。

 これが素なのかもしれない。


 九死に一生からまだ三日程度なのに、ずいぶん元気だ。

 っていうか俺もそうだったか。


 『エーデルワイス』や賢者の石で苦労なく怪我が治ってると、死にかけた実感が薄くなる。

 喉元過ぎればってやつ。


 まあ、落ち込んでるよりはずっといい。



 ところでちょっと気になる部分があったな。


「算術ってどういうのだ?」


 自慢げに勉強してたって言う位だから、まさか四則演算程度ではないだろうと思い聞いてみた。


「分数の掛け算だって、できますよ」


 そこそこ膨らんだ胸を張って自慢げに言う。聞かなきゃよかった。


「しょぼっ」


 つい、ポロっと出てしまった。


「ええっっ!?」


 多分、自信があったのだろう。分数なんて商人でも知らない人の方が多そうな世界だからな。


 しかし、俺からしてみれば四則演算よりはレベルが高かったが、毛が生えた程度すぎた。


「ノイエさん~」


「私は分数というのは知らないけど、百分率や簡単な確率の計算なら出来るわよ」


 リリセラは、今度はノイエに助けを求める。容赦なく切り捨てるノイエ。

 どんどん打ちのめされるリリセラ。

 もうこの子はこのパーティでの地位向上は期待できないだろう。お姫様だったのに。


「俺はいまどれくらいできるかなー。大分やってないしな」


 高校入ってすぐこっちに来たし、ぶっちゃけ義務教育の範囲しか勉強してないと同じ。

 それだって10年以上やってないから、かなり曖昧だ。 


 けど、お前が期待するほど程度低くないぞ、リリセラ。

 仲間を見つけたみたいな顔すんな。


「まあ連立三元一次方程式位なら今でもできるぞ」


「……れんりつさんげんいちじほうていしき?」


「私を見られても、私だってわからないわよ」


「アンコも」


 まるで呪文のように繰り返すリリセラ。

 分数で喜んでいるレベルじゃあ聞いたこともないだろう。


「本当にそのような物があるんですか?」


 こいつ俺を疑ってるのか? メンタル強すぎだろ。

 いいよ解説してやるよ。


「仮として、ここに変数x、y、zがあるだろ?」


「? 変数ってなんですか?」


 ちなみにアンコとノイエはさっと逃げた。

 俺が地球の話をしようとすると、たまに逃げるんだ。あいつら。


 まあいい。リリセラ、お前は聞いてけよ。

 最後までな。








「ところでそれ、何をやっているんですか?」


「ん?」


 高等数学の話(高等数学じゃない)で懲りたと思ったのに、俺が作業をしていると、またもやリリセラが食いついてきた。

 思ったより知的好奇心が強い子のようだ。


「簡単に言うと物を綺麗にするものを作ってるんだよ」


「?」


「んー、説明するのがむずかしいな」


 石鹸や洗剤って言葉があれば簡単なんだが……。


 俺が今やっているのは、殺菌力のある植物探し。


 まず適当な葉っぱを集めて、それらを容器に入れ、肉の欠片も入れる。

 そして放置すると、肉は腐りカビが生えてくる。


 そのカビの発生の速度を見ているのだ。

 発生が遅い奴は殺菌や抗菌作用があるという事。


 実際に効果があるかはわからないが、こういうのはトライ&エラーだから。


「トーヤ様は学者の方なのですね」


「学者? 俺が?」


「違うのですか?」


 俺って頭脳派なの?

 自分では脳みそ筋肉の行動派だと思ってたけど。


「アシュクロフト様のお弟子様なのですよね?」


「あー、そういう考え方もあるのか」


 たしかにジジイはバリバリの研究者だったし、俺もジジイに魔法を教わったような所もあるし、そう称してもおかしくないだろう。


 なるほど、ジジイを親だとは思えないけど、弟子と師匠というのは結構しっくりくるかもしれない。


 だとすると俺も研究者になるのかな? 魔法の開発とかいっぱいしてるし。

 それなら開発者か。


「そうだ、リリセラこれやってみるか?」


「この、ワタクシに出来るでしょうか?」


 つっても、カビの発生速度見るだけだしな。

 視覚的にもわかりやすいし。

 しかも一日一回見れば十分なやつ。


「大丈夫大丈夫、この程度の観察なら誰にでもできるから」


「あ、はい、そうですね……。誰にでも……ワタクシにお似合いですね。ははっ……」


 これでダメなのかよ。

 もうどれが地雷だかわかんねーよ。


「あー、ご主人が泣かしたー」


「泣かしてませんー」


「私たちには色々言うのに、ひどい人ね」


「泣かしてませんー」


 ははっ、って笑ってるじゃん。ははっ、って。

 くそっ、こんな時だけ戻ってきやがって。


「ほら、リリセラはお姫様やってたから、こういうことに無縁だっただけだろう? な? 大丈夫、すぐに慣れるさ。慣れなかったら別の仕事用意するから」


「それはそれでひどくないかしら?」


 慌てて慰めようと頑張るが、もう遅い。

 こういう時、気の利いた言葉なんて出てこない。


「まあ、……がんばれ」


「…………はい」


 ごめんて。

中学生数学の範囲で、なんとなく文字数があって、ブランクあってもできそうで、なんか難しそうに聞こえるもの。

ってことで連立三元一次方程式。

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