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志高く剣を取る ~ロロはかっこいい冒険者になると誓った~  作者: 藤乃病


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95.新種の狂騒曲

 山河カンショウの国、ハイドウ村の入り口。ロロ、瑞葉、ハクハクハク、それに共に来た四等星の冒険者二人とハイドウ村の村長の計六人は村を出て行くところだ。ロロ達は行商人であるトキハの護衛としてこの村へと来たところであるが、そこで村長より新種の魔物の出現とその対策に力を借りたいとの旨を伝えられ現場へ向かっている所である。

「村からは遠いんですか?」

「いや、今はそこまで遠くへ狩りには出ていない。近くに罠を仕掛けている所がある。その付近だと言っていた」

「村の近くまで新種が……」

 ハクハクハクは心配そうにうなだれる。ここへ来る前に一週間ほど依頼を受ける事の出来なかった彼らは志吹の宿で様々な新種の話を聞いたものだ。毎日のように増える目撃情報に、新たな特徴を持った魔物達。それらの危険度は元になった魔物や獣の特徴からある程度想像がつくとはいえ今までとは違った対処が必要になるのもまた事実だ。色々とあったとはいえ今はそれなりに良好な関係を築いている故郷が危険に晒されそうになっていては不安になるのは当然の事だろう。

「ハク、とりあえず索敵お願いしていい?」

「あ、うん」

 故に彼女は杖を握り魔力を放つ。今日、ここに来られたのは幸運だった。彼女は故郷が危機に陥る前に手助けする事が出来るのだから。ハクハクハクの魔力が大きく前方へと広げられる。それは周辺の物体の動きを感知して生き物が近くにいるかを探るものだ。

「凄い魔法だねぇ……。本当に四等星なの?」

「魔力量も俺達とは雲泥の差ってやつだな。丙族ってのはみんなこうなのか?」

 一緒に来た冒険者たちは目を丸くしてハクハクハクを見つめる。彼らはあまり丙族に対する差別的意識はないようでただ純粋に感心しているようだ。実際、ハクハクハクがその実力を余すところなく発揮すれば三等星と言われてもおかしくない逸材だ。魔力量、魔法の威力、感知魔法の範囲などの優秀さは論じるまでも無く、魔力制御に難はあるもののそれは購入した杖のおかげで以前に比べて遥かに向上している。

 村長は強くなった彼女の姿に彼女の両親を重ねどこか目頭が熱くなるのを感じていた。




 ハクハクハクの感知魔法を頼りに森の中を進む。そして生物が感知された辺りまで来ると一旦立ち止まり警戒を強めた。

「も、もう一回、感知する」

「頼むぜ」

 彼女の魔力が杖を中心に広がって行く。そしてその魔力はすぐに近くにいる魔物の存在を捉えた。

「向こう、に、三体、いる」

 全員がそれに黙って頷くとハクハクハクの指差した方へと向かった。抱えているのは緊張か不安か、木々に身を隠しながら警戒を密に前へ前へ。

 そして。

「いた……!」

 最初にそれに気が付いたのは瑞葉だった。それは一見すると何者かが枝葉を集めて置いているだけにも見えたかもしれない。しかしよくよく見ればその先から巨大な角が出ているのが見える。

「あれが新種の……、大頭ミノヒツジ?」

 瑞葉のその名付けには誰も納得しなかったのか反応しない。彼女自身も言ってて恥ずかしかったのか少し頬を赤くする。

 ちなみに新種の名前に付いてはどれも公的には付けられていない。というのも研究者の間では明らかに人為的に獣と魔物を混ぜ合わせたような特徴故にそもそも新種と呼ぶべきか議論されているからだ。とある研究者はこれらを合成獣、キメラと呼ぶべきだなどと主張しており彼らが真にどのような扱いをされるかについて決まるにはまだ時間がかかるだろう。

 それはそれとして他の二体も探し当てた彼らはどうやって戦うかを考え始める。

「あのミノの部分は鎧であり擬態でもあるのだろうな」

「それと知らずにこの辺りに来てたら危ないですね」

「矢が弾かれたんだったな? 生半可な攻撃じゃ効かないかもな」

「とりあえず初撃はお嬢ちゃんに任せたら?」

「だな、ハクハクハクなら一発で倒せるだろ」

 皆に掛けられた期待に思わず緊張を顕わにするハクハクハクだったが、ここにいる皆の裏表のないその瞳に背を押されるように呼吸を整え杖をぎゅっ、と握った。

「う、うん、大丈夫」

 作戦は単純だ。まず地上組をロロと一緒に来た冒険者の男として残りが樹上へ身を隠す。そしてハクハクハクが遠距離から一体を仕留めればすぐに残りの二体は狙われている事に気付くだろう。そこで新種、大頭ミノヒツジがどう動くかを見て地上組がその動きを誘導、射程距離に入ったら樹上から総攻撃だ。

「ハクハクハクのタイミングで始めていいぜ」

「わ、わかった」

「じゃ、お嬢ちゃん任せたよ」

 樹上の組はそれぞれ少し離れた位置に隠れ、地上組はハクハクハクのいる木の根元で待機する。ハクハクハクは呼吸を整え三体の大頭ミノヒツジの姿をその目に捉えた。どれを狙うかは特に指定されていなかったがやるなら確実に三体とも仕留めたい。故に狙うべきは取り逃がす可能性の比較的高い遠い距離にいるそれだ。

 彼女は手に持った木片に魔力を通わせる。

「疾風よ」

 慣れ親しんだ呪文が彼女の口から謳われると共に木片が宙に浮き杖の傍へ。魔力はその木片の硬度を増しその先端に下手な剣以上の鋭さをもたらすだろう。彼女の目は大頭ミノヒツジの内の一体へと向けられ木片の先端がそちらを向いた。

「我が剣を仇の元へ放て」

 放たれた木片は風を切り一直線に狙いの大頭ミノヒツジの元へ。そして身に付けたミノの鎧を貫通し断末魔の悲鳴が僅かに上がる。それと同時に魔力によって繋ぎ止められていたミノの鎧がばらばらと崩れ落ち僅かに本体の姿を顕わにしながらゆっくりと倒れて行った。

 その様子を見た他の二体が即座に逃走を選んでいたならば逃げ切る事も可能だったかもしれない。しかしあまりに突然の出来事に何が起こったのか理解できず混乱する数秒、その時間の間に迫る二つの影。

「喰らえ!」

 ロロがそう声を上げると同時に手に持った剣を振り下ろす。彼はその一撃で倒し切るつもりだったようだがミノは想像よりも硬く剣が本体に届いた感触はない。このミノはその大部分が木枝で出来ていて本来なら剣で軽く切断する事も出来たはずだが、魔力によって強化されたそれを突破するにはロロの技量ではまだ足りないらしい。

 もう一人の冒険者の男はロロの様子を見てミノを突破するのは難しいと判断したのか剣を納め鎚での打撃を試みる。が、ミノは幾重にも枝を重ねている為に衝撃吸収性も高いのかあまり効いた様子はない。

「ロロ君!」

「ああ!」

 攻撃が通らないのを見るや二人は一旦退いて距離を取る。その頃には大頭ミノヒツジも二人の敵の存在を認識していた。先程仲間が殺されたのも忘れ巨大な角の為に小さくなった脳味噌は今はもうその敵を倒す事でいっぱいだ。

 敵の位置を確認し、狙いを定め、突撃する。大頭獣がミノヒツジの特徴を得ようが最大の武器は変わらない。ただただ真っ直ぐ最高速度で相手をぶち抜くのみだ。

「来た!」

 その突進の速度はロロ達の想定よりも速かった。おそらくは魔力によって身体強化をしているのだろう、本来の大頭獣よりも少し速くなっている。だが想像を絶するほどのものではなく、ただ直進して来るだけの突進は分かっていれば躱すのはそう難しくない。

 ロロと冒険者の男は大頭ミノヒツジをぎりぎりまで惹き付けると横に跳んでその一撃を回避した。彼らは軌道を途中で変えるような器用な事は出来やしない。外したとなればその足を止めて再び敵の位置の確認からやり直しだ。

「止まったな」

「ですね」

 樹上から声が響く。

 彼らは向きを変える時間を与える程お優しくはない。樹上で待機していた遠距離攻撃組が動きを止めた大頭ミノヒツジに向けて一気に魔法を放つ。一つ一つの攻撃はミノを突破できるようなものではなかったかもしれない。しかし無数の攻撃は徐々にそれを剥がして行き、とうとう本体をも傷付ける。

「ハク!」

「風よ、螺旋を描き貫け!」

 ハクハクハクがとどめの一撃を繰り出す。




 転がっている三つの死体を見分する冒険者一行と村長。多少の傷はついているもののそれは綺麗な物で元の状態がよくわかるというものだ。

「ちゃんと毛が生えてたんですね」

「だな。外からじゃみえなかったもんな」

 ミノを形作っていた木の枝などをどけて見ればミノヒツジに特有の大量の毛が新種の身体を覆っていたのが見えてくる。ただそれは全身ではなくまるで首周りや足の先の一部分のみであるが。

「身体は普通の大頭獣とそう変わらないな」

「角は相変わらず硬いしね」

 最大の特徴である大きな角を叩けば中がしっかり詰まっている鈍い音が響く。その後もしばらくは死体やそれが身に付けていた木の枝などについて詳細を調べると一行はその場を後にする。

 なにせこの三頭だけで終わりと決まったわけではないのだから。ハクハクハクの感知魔法を頼りにもう少しこの辺りの事を調べておかねばならない。

「この三頭で終わりだと良いんですけどね」

「そう上手く行くと良いが……」

 ハクハクハクが生物の気配を感知しその方向を指し示す。それからそれぞれ最初の一歩までにかかった時間は大きく異なった。この先に起こる事を悪く想像している者ほどその一歩が重たく中々足を踏み出すに至らなかったらしい。

 そして結論から言えば最も遅く歩き出した者の考えが一番当たりに近かったと言える。




 数時間後、疲労の色を見せながら一行は村へと戻って来た。その背には何体かの魔物の死体を乗せている。魔物の肉はものによっては美味しく食べられるもので、貴重な食料が大量に手に入ったこと喜んでも良いのだが彼らの表情は皆険しい。

「村長どうでした……、って聞くまでも無さそうですね」

 村の入り口にいた者は思わずどこかきまずそうに声を掛ける。彼の表情は今回のそれが村の未来に暗雲をもたらすものであったと指し示しているのだ。

「そんなに大猟なのに暗い顔して、何があったんです?」

「大猟だからこそ、だ」

 村長は疲れた様子で溜息を吐き、皆が背負っている獲物を見るように促す。

「……え?」

 それを見て困惑の様子を浮かべる村人。それも仕方ないだろう、彼らが背負っているのはそれぞれ違う種類の新種の魔物だったのだから。




 村長の家、数人の村の狩人を交えて食事がてら会議が行われる。議題は言うまでも無く突如現れた新種の魔物についてだ。

「さっきトキハさんから都の方じゃ色んな新種が現れて話題になってるとは聞いたが、この辺にもそんなにたくさんいたのか……」

 狩人の一人が思わずそんな言葉を零す。ただ驚いているのは狩人ばかりではない。ロロ達冒険者一行もまたそれに驚く側の人間だ。彼らは新種が関わる可能性がある依頼を受けたのは初めてだったし、まさか一度に何種類もの新種に出会う事になるなど全く予想だにしていなかったのだ。

「どうやら我々の想像よりも新種の脅威と言うのは凄まじい速度で広がっているのでしょうね」

 トキハは憂鬱そうに目を細めながらそんなことを言う。実際行商人としては折角戦争が終わりこれからという時に新たな問題が起こるのは頭の痛い出来事だ。特に彼女はハイドウ村のような小さな村を回って商売をしているが、当然そういった場所は冒険者や国から見て優先順位が低くより危険な地となる事だろう。

「都の方では何か原因は掴んでいないのか? 急に現れたと言うならその原因があるはずだろう」

「調査中とは新聞で見ましたけど……」

「私たちもそれ以上は聞いてないかなぁ」

 新種の魔物が現れた原因、それを探る調査は都どころか国家規模で進められているがまだよくわからないというのが実情だ。そもそも確認されてまだ日は浅く大規模な組織を動かすには時間が足りない、そして小規模な調査隊だけでは調べ切れていないというわけだ。

「とりあえずしばらくは現れた魔物を間引く事しか出来そうもないな」

「ああ、今まで通りだ」

 彼らは現れた新種の魔物や、これから現れる可能性のある魔物の姿形や特徴について語り合う。新種と言っても既存の獣と魔物の組み合わせたようなものばかり、元の獣や魔物の特徴的な部分が継がれる為ある程度は事前に想定できるというものだ。

 故に彼らに重要なのは先入観による思い込みで行動をしない事である。怪我をした狩人も遠目でミノヒツジと誤解し突進への警戒を怠ったのが怪我の原因だ。相手の細部まで観察しそれが既存の種か或いは新種なのか、新種であればどの獣や魔物を元としているのか理解すれば対処は難しくない。

「負担は増えるがやってやれないことはない。時が経てば都での調査も進み対策も進むだろう。その際はよろしく頼むぞ」

「ええ。何か分かり次第お知らせに上がりますよ」

 村長とトキハが盃を鳴らす。そこからは普通の宴会だ。彼らが獲って来た獲物は正に大猟でしばらくは食料に困る事もない。幾らか贅沢をしたところで困る事は無いのだから。

「ハクハクハクも遠慮をするな。お前がよく食べる事は知っている」

「う、うん、ありがとう、ございます」

 村長はハクハクハクに食事を次々に勧めまるで孫の相手をしているかのようだ。一緒に来た冒険者たちは狩人たちと話をして武勇伝を語り合っているらしい。トキハは村で困り事が無いか聞いているようでおそらくは新たな商売でも考えているのだろう。

 そんな中でロロは珍しく一人で香ばしく焼き上げられた骨付き肉をゆっくり齧っている。

「向こうに行かないの?」

 そう言いながら瑞葉が隣に座る。彼女は皿から骨付き肉を手に取りながら手に付いた油に少し顔を顰めた。ロロはしばらく無言で肉を齧る。それが骨だけになるまでしばらくそうしていて、その様子は何を言うべきか迷っているようにも見えた。

「最近はちょっと考える事が多くて……」

 ようやく発した言葉もどこか要領を得ないそれだ。瑞葉はその先を、何に悩んでいるのかを聞きたいのにそこまで辿り着かない。彼女は核心を突くべきか否か悩み、ロロの顔を見た。真剣に悩む彼の表情を。 

 瑞葉は溜息をつく。

「ロロ」

「ん?」

「何に悩んでいるのかは知らないけど、助けが欲しかったらいつでも言ってね」

 彼女は結局、聞き出すのを止めてそう言うに留めた。ロロがこんな風に悩むのは珍しい事だ。その助けにはなりたいと思う。ならばその内容を聞き出して何かしら指針を出してあげるのもきっと一つの優しさなのだろう。

 しかしこうも思うのだ。

「でもね、きっとそれはロロがこの先を歩いて行くのに必要な悩みだと思う」

「……なんか内容が分かってるみたいだな」

「さあね」

 瑞葉にはロロの悩みなど想像が付いている。ずっと彼の事を見て来たのだ、それぐらいは分かる。だからこの悩みを勝手に解決するような事はしてはいけないと確信していた。どんな結果が出るにせよ、この悩みとはロロ自身が向き合うべきなのだ。

 故に彼女が心配するのはただ一つ。

「……頑張ってね」

「何をだよ」

 その答え次第でロロは冒険者を辞するかもしれない。道を違えたその時に自分は笑って見送る事が出来るだろうか、と。




 ロロ達がハイドウ村への依頼で空けた数日の間に志吹の宿では次々と新たな情報が上がっていた。四等星達は様々な新種に相対し互いに情報交換を欠かさず、それより上の者達は大規模な群れや巣を破壊した成果を誇りつつ前触れ無く現れたそれらに違和感を覚える。この国は新たな危機に直面している、そんな気配が濃厚に漂っている中で一つだけ明るい報せもあった。

 その日、志吹の宿の戸を開いたのは五人の冒険者だった。

「ようやく戻って来れた」

「ここも久しぶりだな」

「よう、俺が開けてる間寂しかったか?」

「やめてくださいよ、恥ずかしい」

 彼らはしばらくショウリュウの都を離れ山河カンショウの都や町、更には虎狼ホンソウの国にまで出掛け戦争終結の祝祭に顔を出していた英雄だ。

「ただいま戻りました」

「おかえりミザロちゃん。それに竜神さん、ザガ、ツバサ君にゴウゴウ君も」

 大きな戦力を取り戻したショウリュウの都はこれより大規模な作戦に取り掛かる事になる。

 



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