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それいけ魔法少女(男)  作者: 大金母知
9/23

9魔法少女のお仕事

ここまで見てくださり、ありがとうございます。ブックマーク登録してくださった方も本当にありがとうございます。とても嬉しいです。

ちょっと設定の文が長めになってしまいましたが雑に読んでしまっても支障はありません。

最後までお付き合いいただけるよう頑張ります。

いざ、魔法少女に変身して夜の街へ……って字面にすると変な感じだな。

ボクは例の如く、コスプレ感溢れるストロベリーピンクの髪にヒラヒラの白のドレス。

月乃さんは前に見た通り、月のように淡く輝く金の髪。夜空を切り抜いて造られたような夜色のドレス。

ボクも月乃さんも元の姿からはかなり変化しているんだけど、枢木さんは魔法少女の姿になっても変化が薄い。

髪の色はほとんど変わらない……気持ち、光を増した銀の髪。長さは変わらずショート。服は黒のゴスロリ。ボーダーのニーソックスに、とても動きにくそうな厚底の靴。 何というか、枢木さんの変身した姿は魔法少女感が薄い。街で時々見かけるパンキッシュな人とあまり大差無い気がする。

「……何かしら?」

ボクの視線に気づいた枢木さんが迷惑そうに言ってくる。

「えっと……同じ魔法少女でも格好が色々なんだなって……デザインが決まる基準とかってあるんですか?」

「ちっ……興味無いわ」

「おっとカオリ。早速小さな地雷を踏んでいくね」

「え……?」

地雷?

「ま、あたしは小雪のこの格好好きなんだけどね。可愛いし。ただ小雪のこの格好をメンヘラ呼ばわりしてくる意地悪な同僚がいるんだよ」

あぁ……確かに変わったものに対して心無い言葉をぶつける人が一定数いるのは分かってたけど……近い距離にそういう人がいるのは嫌だろうな。

「別に……あんなヤツらの言うことなんか気にしてないし」

「……と言いつつ、ちゃんと心にダメージを負っている小雪ちゃんなのでした」

「う、うるさいっ!平気だもんっ!」

「………………」

とても平気そうには見えなかった。 ……もしかしたら枢木さん……クールを気取っている割にメンタルが弱いのかもしれない。

「さて、巡回を始めようか。カオリ、ルートはどの程度頭に入ってる?」

さっき外に出る前に月乃さんから端末で見せてもらった。 大学病院を中心にグルリと周辺の住宅街を見て回ることになっている。

「一応全部入ってます」

「お、感心感心。それでこそこっちもルートの作り甲斐もあるってもんさ」

巡回の経路って月乃さんが考えていたのか……よく出来てるからそういう専門の人が担当しているものだと思っていた。

「じゃあ行こうか。あたしはカオリへの説明があるから小雪がちゃんと周りを見ててね」

「……分かったわ」

駅の喧騒とは離れた住宅街をテクテクと進みながら月乃さんが説明してくれる。

「ビーストの出現が確認される場所にはおおまかだけど傾向があるの」

なるほど。ビーストの傾向。

「一番出現しやすいのは病院の周辺。老人ホームが次いで多いかな」

「……弱った人のいる場所ですか?」

「そうだね。ビーストは人の魂を奪うことを生業にしてる。もしかすると弱った人の魂の方が奪い取りやすいのかもね」

「……魂を奪われるとどうなるんですか?」

「生きる力……気力がごっそりと抜け落ちる感じかな。幽体離脱的なイメージとは少し違うよ」

「なるほど……」

てっきり脳死状態みたいな症状を想像していた。

「魂を奪われても回復に向かう人もいれば、そのまま衰弱して死に至る人もいる……かもしれない」

「……かもしれないっていうのは?」

「衰弱した人を見ただけじゃ魂を奪われたかどうかってはっきりと判別することができないんだよ。だから普通に体調が急変して衰弱したっていう可能性も低くないの」

弱った人が標的にされるって話だったからか。

「ビーストが魂を奪っている現場を押さえられるのは稀でね、ほとんどは状況証拠から判断するしかないの。それで、そういった状況証拠からこの巡回ルートが決められていくってわけ」

「それってつまり、犠牲が出てからしか動けないってことですか?」

「たはは……情けないけど、そういうことだね」

「仕方のないことだわ」

これまで沈黙を続けてきた枢木さんが口を挟む。

「未然に防げるものじゃないのよ。ビーストは神出鬼没。数も不明。ただ闇雲に探して見つかるようなやつじゃない。わたし達にできることは犠牲者を無くすことじゃない。犠牲者を減らすことよ」

「……要は後手に回るしかできない状況ってわけですね」

「そういうことね」

「……残念だけど、カオリの言う通りだよ」

とりあえず納得しておこう。本当は未然に防げるのが一番良いのだろうけど、ボクがあれこれ言っても二人を困らせるだけだし。

「それからカオリ。巡回の話に戻ってもいい?」

「すみません。お願いします」

「小雪も言ったことだけど、ビーストを見つけるのはとても難しいの。ビーストが活動するのは暗い夜、加えて姿は全身真っ黒だからね。強化された魔法少女の視力でも見落とすことは十分にあるの」

「便利な魔法でサーチとかできないんですか?」

「できたらいいんだけどね。魔法ってあんまり万能にできてないんだ。用途は基本的にただビーストを滅ぼすことだけ」

「そうなんですか……」

「ただ、ちゃんとビーストを見つけるための手がかりはちゃんとあるんだ。さっき小雪が犠牲者ありきの話をしたのはこの手がかりが関係してるの」

闇雲に探せば、なんて言葉が出ていたからそんな気はしていた。

「ビーストは奪った魂を喰らう時に儀式を行うの。その時、上空に赤い魔法陣が浮かび上がる」

上空に魔法陣……それは確かに分かりやすい手がかりだけど……

「……どうしていちいち儀式をするんですか?」

わざわざ派手な儀式をして魔法少女に見つかる危険を犯さずとも、そのままパクリと食べてしまえばいいのに。

「これは推測なんだけど、魂を取り込むのに、魂を取り込みやすいように魂を変質させてるんじゃないかって話があるの」

「えっと……?」

「ん……例えるなら、豚肉って生じゃ食べられないけど焼けば食べれる……みたいな感じかな」

「なるほど」

分かりやすい例えだ。それならば儀式の必要性も納得がいく。

「そこで巡回の話に戻るね。巡回の時はその儀式が行われそうな場所に目を向けるの」

おぉ、巡回の話に戻ってきた。

「儀式を行うためには条件があって、まずは屋外であること。それと、開けた場所であること。詳しく言うと、開けた場所っていうのは上空の儀式の魔法陣と地上の影獣の間に遮るものが無いってことね」

月乃さんは記憶を思い起こすように続ける。

「後は人の寄り付かない場所かな。これは絶対でもないんだけど……まぁ統計的に見ると比較的って感じかな」

「なるほど。そうなると建物の屋上とか見つかりそうですね」

「うん。そのパターンも多いね。後は学校の校庭とか……公園なんかもあるね」

確かに、これだけの手がかりが無いとビーストは探せないか。 そしてこれらの手がかりは魂を奪われることで初めて得られるものなわけで……

「ほら、ちょうど公園についたよ」

「かなり広いですね……」

子どもの頃にお父さんに連れてきてもらった記憶のある場所だった。

この時間帯となると子どもの姿は無く、池の周りをジョギングしてる人や犬を連れて散歩している人がいた。

「じゃあ、せっかくだから二手に分かれて回ろうか。小雪とカオリはあっちの方から回って。あたしは逆側行くから。終わったらまたここで合流で」

「え?」

「ちょ!なんでそうなるのよ!?」

「ん〜?だって小雪ったらカオリと全然打ち解けようとしないんだもん」

「くっ……!」

「じゃ、よろしく」

月乃さんは文句など受け付けないと言わんばかりに早々に立ち去る。

「………………」

「………………」

取り残されたボクと枢木さん。

「……行きます?」

「……仕切らないで」

枢木さんはボクに視線をくれることなく、巡回を始める。 今のところ上空に魔法陣は見当たらない。

「………………」

「………………」

月乃さんから打ち解けるように言われたけど、楽しい会話が繰り広げられる気配は皆無である。

「ん……?」

「……?どうしたの?」

どう会話を切り出そうかと思っていたところで、ふと妙な気配を感じ取る。

中央の広場から外れ、草木の茂る細い道を進んだ先。夜の散歩コースにしては暗く、不気味で人の寄り付かないような場所である。

壊れた照明の頼りない明かりで照らされている公衆トイレの付近に、長丈のトレンチコートに身を包んだ中年男性を発見した。

ボク達から遠い距離にいるため、詳しい様子は分からないが、口元が小さくブツブツ動いており、独り言を呟いていることが分かる。

隣の枢木さんを見れば、わずかに息を呑んでいた。

「……ビーストじゃなくて不審者発見しちゃいましたけど……どうします?」

「…………放っておくわけにはいかないわ」

「マジですか!?」

てっきりスルーするかと思ってたんだけど……

「……魔法小女の役目とは違うかもしれない。だけど、それ以前に私は人として正しくありたい。あなたはすっこんでなさい」

「いやいやいや!無茶ですって!通報しましょ?それで解決ですよ」

「……っ!舐めないで。私はビーストを相手にしているの。たかだか不審者如きを恐れてなんかいられないわ」

「……でもビビってますよね?」

気の乱れが尋常じゃない。というか普通に身体が強張ってる。

「っ!ビビってないもん!」

「あっ!」

しまった。売り言葉に買い言葉。枢木さんはあろうことか変身を解いて不審者に接触を始めてしまう。

「ちょっとあなた」

「ん……え?」

不審者が枢木さんの存在に気がつくと目を見開いて驚きを見せる。そして、すぐにニタニタとヤバい笑みを浮かべて枢木さんを舐め回すように不躾な視線を向ける。

「こんな所で何をしているのかしら?はっきり言って不審極まりないのだけど。変な誤解をされる前にここから立ち去りなさい」

「くふふっ……可愛いお嬢ちゃん……お譲ちゃんこそ、こんな所に一人で来ちゃいけないよ?」

「な、なによ……?」

ツカツカとゆっくりと枢木さんとの距離を詰めてくる不審者。

「お譲ちゃんは本当に可愛いね……そんな可愛いお嬢ちゃんにおじさんがいいものを見せてあげようね……」

そう言ってなぜかコートのボタンをプチプチと外していく。

「ひっ……」

これには枢木さんも恐怖を感じて後ずさる。

……助けた方が良いだろうか?しかし、まだ限りなく怪しいというだけで本物の危険人物という確証は得ていない。 と思っていたら、

「そぅらぁあ!」

「ひっ!?」

あ、これダメだ。不審者がコートをめくり上げるその刹那、

「させるかぁあ!」

「きゃっ!?」

「!?」

ボクは変身を解き、枢木さんの目を『だーれだ?』の要領で隠す。

「な、何!?なんなの!?」

「大丈夫です!枢木さんは何も見てないです!セーフです!」

「は、離しなさいよ!」

「枢木さんは見ちゃダメです!」

案の定、コートの下は全裸だった。 ボクは男なのでセーフだ。

「だ、誰だね君は!?」

「それしまってから喋ってくれませんか!?」

「む……君は……?」

不審者がボクの顔をマジマジと見てくる。まさかとは思うけど……知り合いとか?

「……(ムクムクムク)」

「なんで元気になってるんですか!?」

「ふふふっ……今夜はラッキーだ。これほどの美少女が二人も……ふふふっ」

これ以上この人を喋らせてはいけない。

「ごめんっ!」

「ひゃっ!?」

枢木さんとポジションチェンジ。前後を入れ替え、不審者と正面から対峙する。

そして一気に懐に飛び込み、不審者のコートの裾を掴み、

「とりゃああ!」

「うわぁあああ!?」

茂みに向かって投げ飛ばす。

「がはっ!」

不審者は木に激突し、そして地に倒れた。上手く気絶してくれて良かった。

「ふぅ……」

これまで多くの戦いを経験してきたボクだけど、変態の相手は初めてだった。

「…………お、終わったの……?」

枢木さんの受けた衝撃は強いらしく、未だ動転した気が治まらない。

「あの変態は成敗しました。もう大丈夫ですよ。枢木さん」

「う、うん……」

……なんか気の利いたことでも言って枢木さんを安心させてあげたいけど……無理か。

「……とりあえずこの公園の巡回はこれくらいにしておきましょうか。月乃さんと合流しましょう」

「……分かったわ」

テクテクと枢木さんと歩きながら、携帯でポチポチと警察に通報する。警察はすぐに現場に向かってくれるとのことで一安心だ。

ふと、枢木さんがポツリと呟く。

「……笑えば?」

「……?エヴァンゲリオンですか?」

「違う!」

突然どうしたんだろう?笑うとこなんてあったっけ?

「滑稽でしょう?あれだけ大きな口を叩いてあのザマよ。ビーストどころか不審者一人もどうすることもできない無力な私を笑いなさいよ」

「もしかして……魔法少女の仕事、上手くいってないんですか?」

「くっ……!」

「ああ!すみません!変なこと聞いてしまって……」

「笑えとは言ったけど煽れとは言ってないわ……!」

「煽る……?」

何か変なこと言ったっけ……? 『魔法少女のお仕事、上手くいってないんですか』 『ああ!すみません!変なこと聞いてしまって……』

「!ちがっ!そんなつもりじゃなくて!」

「……分かってる。ただの八つ当たりよ」

「……?な、ならいいんですけど……」

怒ってないのは本当かもしれないけど、何やら複雑な心境らしい。 やがて、

「お待たせー!」

「月乃さん」

月乃さんと合流を果たした。

「こっちは異常なし。そっちは?」

「ビーストの気配は無かったんですけど……」

「露出狂が出たわ」

「はぁ!?」

「えっと……一応無力化して警察の通報も済ませておいたので……」

「ま、マジか……二人とも大丈夫?」

「ええ……こいつのおかげでね」

「……枢木さん?」

枢木さんは言いにくそうにモジモジし、しかし目を逸らさずにボクに言う。

「……礼がまだだったわ。その……助けてくれてありがとう……」

ドキッ……

「ぐはっ!?」

か、可愛い……! 月乃さんも相当な美少女だけど、枢木さんも大概だ。 こんな風にいじらしくお礼を言われたら……どんなことだってしてあげたくなってしまう。

「ぼ、ボクの取り柄って腕っ節くらいのものですから。いつでも頼ってください」

「……分かった。変態の相手は今後あなたに一任することにするわ」

「はい…………え?あ、いや……えっと……分かりました。任せてください」

……何か思った頼られ方と違うような……まあいいや。

「露出狂には感謝だね。こうしてカオリと小雪の打ち解けるきっかけを作ってくれて」

「「感謝しなくていい(です)!」」


前書きで最後までお付き合いいただけるよう頑張りますと書いたものの、これからお仕事が忙しくなるので更新の頻度が下がったり、最悪止まるかもしれません。

読んでくださった方の反応があるともう少し頑張れるかと思うのですが……(チラッ……チラッ……)

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