10調理実習
ストックが切れた……だと……!?
だが……先日私は☆をもらった……!
この☆の力で……投稿してやるんだ……!
というわけで10です。
今回は薫のヒロイン(?)回です。
魔法小女としての生活が始まっても、これまでの日常は変わらずに続いていく。
魔法小女の初勤務を終えた翌日も学校である。
なんだか、カオリではなく薫として振る舞う時間が久々な気がする。
男子用の制服の何と着心地の良いことか。 もうすぐ学校に辿り着こうかという時に、
「お、薫。おはようさん」
「明久」
別に示し合わせたわけじゃないけど明久と合流することになった。
「……何か疲れてないか?」
「……まぁ……気疲れ……みたいな?」
「?……あぁ、なるほど……」
察してくれたようだ。
「バレずに上手くやれてんのか?」
「……今の所はね」
月乃さんも枢木さんもボクが男だという疑いは皆無だ。 バレる可能性があるとすれば、局長の如月さんくらいだろう。要注意だ。どう注意すればいいのか分からないけど。
「気をつけることだな。おまえ抜けてるとこあるし」
「……自覚はしてるよ」
「ならいい」
明久はそれ以上の追及をすることなく、新しく話題を切り出してくる。
「そういや、今日は調理実習だったな。ハンバーグだっけ?」
「うん。ちょっと楽しみ」
ハンバーグ好き。おいしい。
✳︎
そんなわけで調理実習。 家庭科室には薫の所属するクラスが集まっていた。
女子生徒は互いのエプロン姿を褒め合い、時にはイジり、姦しく談笑を楽しんでいる。
男子生徒は調理実習などおかまいなしの談笑に興じているフリをしつつ、その視線の先はとある一点にチラチラと吸い寄せられていた。
相川航もその一人。男子生徒達が見つめる先は、
「ねぇ、明久。班分けってどうなってるの?」
「クジ引きとか聞いた気がする」
「うっ……明久と一緒になれますように……」
隅っこで不安そうにしている一人の少女……いや、少年だった。
小さな身体に不釣り合いな大きめのエプロン。まるで子供が背伸びをしているような愛らしさがある。
(((((…………いい))))
大きな瞳は不安そうに揺れ、男達の庇護欲を掻き立てる。
(立花さん……)
相川は平静を装いつつも薫のエプロン姿に意識が釘付けだった。
(もしも立花さんの手料理が食べられたら……)
✳︎
『ねぇ、相川君。お腹……空いてないかな?』
時刻は下校時刻。教室の窓から射す夕日に照らされ、はにかむように声をかけてきたのは立花薫。 『立花さん……うん。空いてる』
『そっか。その……良かったらさ、これ……食べてみてくれないかな?』
『これ……クッキーか?』
『うん。いつも部活を頑張ってる相川君に何かできないかなって……ちょっと頑張って作ってみたの。甘い物、苦手じゃない?』
『大丈夫。大好きだよ。早速一つ』
パクリ。
『おぉ、美味い!美味いよ!』
『えへへ……良かった』
『ありがとう。立花さん』
頭なでなで。
『う、うん……それとね?さっき少し嘘ついちゃった……』
『嘘……?』
『……うん。さっき、部活を頑張ってる相川君のためにって言ったけど……本当は少し違うの』
『……?』
『相川君、前にボクのことを好きって言ってくれたでしょ?』
『!あ、あぁ……』
『あの時はすっごくびっくりしちゃったんだけど……本当はそれだけじゃなくて……本当はすっごく嬉しかったの』
『立花さん……』
『そのクッキーはね?あの時伝えられなかった……ボクの本当の気持ち』
『本当の気持ち……?』
薫の一生懸命作ったクッキーはどれもハート形。たくさんのハートがそこにあった。
『ボクも……ボクも相川君が好き……好きなのっ!』
『!』
『今更都合が良い話だけど……ボ、ボクを相川君の恋人にしてくださいっ!』
たくさんのハートと精一杯の勇気を振り絞って伝えてくれた薫の愛の告白。
『そんなの……答えなんて決まってる』
薫の華奢な肩を正面から抱きよせる。
『あ、相川君……?』
怯えたように、それでいて何かを期待するように、薫が上目で問いかけてくる。
これが……オレの答えだ。薫の心を奪うように、薫の桜色の小さな唇に自分の唇を……
✳︎
「ねぇ、航。班分けってクジ引きらしいよ」
「……あ、ああ。そうだな」
相川妄想劇場中断のお知らせだった。
声をかけてきたのはクラスメイトの美少女ギャル、リナだった。
「ね、航って料理とかする?」
「まぁ、親がいない時はたまにするって程度かな。リナは?」
「マジ?ちなみにうちは全然ダメ。同じ班になったらよろしくね。頼りにしてるぜ?男の子」
「別にいいけどさ……」
苦笑で答える相川。
ゾクリ。
「っ!?」
脈絡も無く相川の背筋が凍った。 意識ではなく、生存本能が相川の視線を周囲に巡らせる。
「ど、どした?」
「ど、どうしたというか……」
しかし、悪寒の正体は分からないまま。そして何か異変が起こることも無かった。
「何だったんだ……?」
✳︎
「くっ……やっぱりイケメンって嫌い……」
クラスメイトの美少女ギャル、安城さんが話しかけてくれたっていうのに、相川君のあのスカした態度……本当に気に食わない。
ボクが欲してやまないものを当たり前のように享受して、あろうことか軽く受け流すなんて……許すまじ!イケメン!
「僻むな」
「むぅ……」
明久にパシンと頭をはたかれ、我に返る。 ボクは無意識に殺気を放っていたようで相川君がビクリと身を震わせる。 まずい。目を逸らさなくちゃ。
「…………はぁ」
でも、ボクのように非モテ男がイケメンを僻むなというのも無理な話だと思う。 ボクもボクで月乃さんや枢木さんとお近づきになれたのは千載一遇の幸運なんだろうけど……『カオリ』として良好な関係を築かなくちゃいけないわけで……男女の仲になってイチャイチャというのは最初から不可能。
間近で美少女を眺める役得こそあれど、悪い言い方をすれば生殺し状態なわけだ。 だからこそ、ボクは手の届きそうな女子とお近づきになりたいのだけど……
「ね、ワタル!あたしと一緒の班になろーよ!あたしワタルのハンバーグ食べたい!」
「ワタルって弁当自分で作ってるんでしょ?しかも毎回めっちゃうまそうだし。こりゃワタルの争奪戦だな」
「くらえっ!ハニートラップ!(おっぱいムギューッ)」
「ちょ、やめろって……!」
「とか言って〜!本当は嬉しいくせに〜!」
……ねぇ……明久……
「…………これでも僻むなと?」
「分かったから。包丁しまおうな?まだ使わないから」
あぁあぁあああああああ! ボクだって……ボクだってぇえ!
「ほら、泣くなって」
「な、泣いてないしっ!」
「はいはい」
ボクの目元に優しくハンカチを当ててくれる明久。 …………ありがと。
パンパン! クラスメイト達の喧騒を上書きするような大きなかしわ手。
「はいはい静かに!授業始めるから静かにして!」
家庭科の先生、大場和代先生(50)がエプロン姿で登場。
隣の明久は『おぉ……!』なんて先生のエプロン姿に興奮している。 やめときなさい。人妻なんだから。
「じゃ、日直。号令お願い」
「はい。気をつけ!礼!」
号令が済むと、先生は早速今日の流れを説明してくれる。
今日作るのはハンバーグとポテトサラダ。 グループは男子三人、女子三人の計六人で構成されることとなり、クジ引きによって決まるとのこと。
やっぱりクジ引きか……明久としかロクに話ができないボクにとっては死活問題だ。 神様……どうかボクと明久を同じグループに……!
先生の話をそっちのけになっているボクの隣では、
「先生のあのだらしのない身体……滅茶苦茶にしてやりたいぜ……!」
明久が欲情していた。
「明久。性欲抑えて」
あとだらしない身体とか言わないの。ぽっちゃり気味ではあるけど。
「じゃ、これからクジ配っていくから」
先生がコピー用紙の切れ端を折りたたんだクジを順番に配っていく。
「はい立花。引いて」
いよいよボクの番だ。
「……えいっ!」
書かれていた数字は…… 「3番です」
((((ピクッ!))))
ん?
なんか男子達の気が一斉に反応したんだけど……どういう反応……?
「はい次。桜井」
「はい」
明久の伸ばした手はクジに向かわず、あろうことか先生の手を両の手でギュッと握って……って!あんたバカぁ!?
「俺……先生と同じ班がいいです」
「ば、バカ言うんじゃないの!ほらっ!さっさと引く!」
先生は顔を真っ赤にして明久の手を振りほどく。
「まったく……おばさんをからかうんじゃないっての……」
「さーせん」
先生、そいつガチです。気をつけてください。
「っと、3番だ。薫と一緒だな。ラッキー」
「やった!一気に気が楽になったよ」
((((ピクッ))))
神様ありがとうございます! 最悪の事態は免れることができた。 明久がいれば後のメンバーは誰でも良い。 欲を言えば女子とお近づきになりたいところだけど……
「!3番だ!」
「「「「!?」」」」
「げ……」
3番を引き当てたもう一人の男子はなんと相川君だった。 前言撤回。誰でも良くなかった。 相川君はこちらに近づいてきて、
「よ、よろしくな。立花さん」
「…………うん」
出ました。イケメンはにかみスマイル。女子からしたらたまらないのだろうけど、非モテ男子たるボクからしたら別の意味でたまらない。
「明久……ボク嫌な予感がするんだけど……」
「奇遇だな。俺もだ」
次は女子がクジを引く番。誰が同じグループになるかこっそり聞き耳を立ててみる。
「あたし3番だ!ワタルも確か3番だったよね!?」
キャピキャピと陽気な声で相川君に話しかけたのは美少女ギャルの安城リナさんだった。 それともう一人。
「やたっ!相川と同じクジゲット!」
相川君に胸をギューした巨乳美少女の宗形さんだ。
結局、ボクのグループの女子はこの二人だけとなった。 本来なら女子の数は三人なのだが、女子の数が綺麗に三人で割り切れなかったため、このように調整されたわけである。
メンバーが決まった時……嫌な予感が嫌な確信に変わった時であった。
✳︎
相川君、安城さん、宗形さんはハンバーグの担当。ボクと明久はポテトサラダの担当になったのだが……
「あ〜サイアク!玉ねぎマジ無理!ワタル、涙拭いて?スカートのポッケにハンカチ入ってるから」
「いや、そりゃマズイだろ……」
「いーから。あたし今両手使えないし。ね?お願い」
「……しょうがないな……」
イラ。
「あーズルーい!相川、私も涙拭いて?」
「いや、おまえ玉ねぎ切ってないじゃん……」
「ぶーぶー!細かいこと気にしなーい!」
イライライライライライライラ!
「あのイケメンのポテトサラダには隠し味にジャガイモの芽を入れておこう……」
「普通に毒物を混入させようとするな」
明久にパシンと小気味の良い音で頭を叩かれる。
「だってだって!」
美少女といちゃいちゃしながらお料理とか……!羨ましすぎるんですけど!? それをあんなに見せつけてきて……!
例えるなら飢えて苦しんでいる子どもの前でA5ランクの和牛ステーキを見せつけるように豪快に食べる性格の悪い金持ちのような……そんな感じだ。
イケメンのタチの悪さが伝わってくれただろうか。
ボクだって……ボクだって……!
「おいおい……泣くなよ……」
「泣いてないし!ジャガイモ切って目がしみただけだしっ!」
「……そうかい。ほれ、顔貸せ」
包丁とジャガイモで手が塞がっているボクに、明久がティッシュを差し伸べてくれる。 鼻チーン。
「……ありがと」
「へいへい。女子のことは知らんが、俺はおまえのそういうみっともないトコ好きだぜ」
「……面白がってるだけでしょ?」
「そうとも言う」
「むぅ!明久のバカ!」
「くくっ、悪い悪い」
笑い事じゃないし。はぁ……
「ま、あれだ。グループのメンバーがこうなった時点でこうなることは分かりきってたことだろ。こっちはこっちで気楽にやろうぜ」
「……それもそうだね。こうなったらすごくおいしいポテトサラダ作っちゃうんだから」
「毒は盛るなよ」
「…………ダメか」
✳︎
作業は無事に終了。
相川君、安城さん、宗形さんの三人が作ったハンバーグとボクと明久が作ったポテトサラダ。そして調理実習とは別枠で先生が用意してくれた白米。以上が本日の昼食である。
パッと見た感じはなかなかの出来栄え。ちゃんとおいしそうだ。人によってハンバーグの形が少し崩れてしまっているのはご愛嬌だ。
「けっこーいー感じじゃん?もしかしてあたしら天才?」
「調子に乗るな。リナ。ま、良い出来栄えなのは認めるけど。ポテトサラダもおいしそうにできてるな。あ、ありがとうな?立花さん……」
……正直、ボクのことは放っておいて欲しいんだけど……相川君の隣の二人の美少女が一瞬嫌そうな反応をするのが困る。 とはいえ、無視するわけにもいかない。
「えっと……ありがとう。明久も一緒に頑張ってくれたから。おいしくできてるといいな……ね?明久」
「黙ってろ。俺はハンバーグだのポテトサラダだのはどうでもいいんだ。それよりも見ろ、薫。熟女が炊いたご飯だぞ。熟女ご飯だぞ。ふひひ……写真撮っとこ」
「いや、写真撮ってどうするのさ……」
カシャッ。カシャッ。 ボクのツッコミなど無視してニヤけながら白米にシャッターを切る明久。 「ちっ、キモ……」
ひいっ!?安城さんがお怒りでいらっしゃる!
「なぁ、せっかくなんだから冷めない内に食べよう。な?」
空気の読める相川君は明久の痴態を放置して話を進めてくれる。
「そだね。食べよー」
「うん。うちお腹空いたぁー」
「よし」
相川君の合掌に倣い、ボクも皆も合掌。
「「「「「いただきます」」」」」
ボクはまずポテトサラダを口にする。 ……うん。まずまずの出来栄えだ。とびきりではないけど普通においしい。ちゃんとポテトサラダだ。 では、チームリア充が作ったハンバーグを食べてみよう。 ……?あれ……?
「ねぇ、相川君。このソース……」
他のグループが使っている出来合いのソースとは違う。
「お、気づいてくれたか?ソースはオレが作ってみた。美味くできてるといいんだけど……」
ふむ。自家製とな。 パクリ。
「……ふぁっ!?お、おいしい……!」
何これ!?こんなの……初めて食べた……! ソースだけでハンバーグがこんなに変わるなんて……!
「良かった……口に合ってくれたみたいだな」
ちょっぴりスパイスが効いていて、なのに口当たりはまろやか。濃厚なのに後を引くしつこさが無い。矛盾するような要素が含まれているのに綺麗に調和されている。
それがジューシーな牛肉と合わさると、それはもう口が幸せだ。
「うまっ!何これうまっ!」
「さすが相川!私の嫁!」
美少女二人からも惜しみない称賛の声。 悔しい……!でも……おいしい……!
クラスの中心である相川君の周りにはいつしか人だかりができており、やれ食わせろだの、どんな味なのだだの絡まれまくっており、食事どころではなくなっていた。
「…………もぐもぐ」
「…………もぐもぐ」
ボクと明久を除いて。 ボクはハンバーグに夢中。明久は白米に夢中。
「むぅ……」
気がつけばハンバーグは残り一口。これは、白米とポテトサラダを食べきって最後においしい一口で終わるか……けど、一口で終わりか……もっと食べたかったな……
「ほらよ」
ポトリ。
「え?」
突如、ボクのお皿に半分に切られたハンバーグが追加された。 明久だ。
「俺はあんま腹減ってないから。やるよ」
「い、いいの……?」
「おう」
マジか……明久……!
「ありがとう!明久っ!」
なんていいヤツなんだ。 こんなに美味しい物を恵んでくれるなんて。 それでは遠慮なく、
「(パクッ)……〜〜っ!ふふっ」 美味しい〜! 「明久ってば勿体無いなぁ。こんなに美味しいのをボクにあげちゃうなんて」
「ふっ」
明久は笑みをこぼすとボクの頭をガシガシと撫でてくる。
「ん……?」
「……俺はこれでいいんだよ」
「そう……?変なの」
✳︎
相川航は苛立っていた。目の前で繰り広げられている光景に苛立ちを募らせていた。
「ほらよ」
「え……?」
「俺はあんま腹減ってないから。やるよ」
「い、いいの……?」
「おう」
「ありがとう!明久っ!」
花が咲いたような純真無垢な満天の笑顔。しかし、それを向けられているのは自分ではない。
(見せつけやがって……!桜井の野郎……!)
嫉妬の炎が燃え上がる相川だったがしかし、
(か……かわいい……!)
小さな口で頑張ってもぐもぐと咀嚼する薫。よほど美味しいのだろう。表情が幸せそうに緩みきっている。
(まるで天使だ……!)
この愛くるしい存在は絶対に侵してはならない。否、愛くるしいを超えて神聖な存在だ。 気がつけば、相川同様、クラスの男子の視線の向く先の全ては薫だった。 そして、相川同様、薫の愛くるしい魅力の前に骨抜きにされていた。
しかし、静かな水面に大岩をぶち込むかの如く大きな波紋が生じる。
「ふっ」
なでなで。
「ん……?」
「「「「!?」」」」
桜井明久による『なでなで』が発動した。 薫に恋する男子の全員が焦がれてやまない、しかし決して叶うことのない、薫にしたいことの一つ。『なでなで』である。 更に、
「そうだ、明久。おかえしにこれあげるね」
「なっ……!?熟女ご飯……!?いいのか!?」
「ふふっ、これくらいいいよ」
あろうことか、薫は自分の白米を明久の茶碗へ放り込んだ。それはつまり、
((((間接キス……だと……!?))))
薫に恋する男子の全員が焦がれてやまない……(以下同文)
((((おのれ桜井ぃぃい!))))
明久はこんな感じで男子生徒達から嫉妬の嵐を浴び、そして女子生徒達からは変わり者の烙印を押され、クラスで浮いていた。 明久と薫、共にクラスのはみだし者でありながら、クラスを振り回す中心でもあるのだった。
今後はストックを書きためつつ投稿となるかと思います。
『ドザえもん』のストックはあるのでそっちの投稿は続けていきたいと思います。
え?そっちはつまらなかった?
そんなことないです!良いキャラが段々と出てくるので、是非続きを見ていただけたらと思います。
ここまで見てくださりありがとうございました。




