11一攫千金
知らぬ間にブックマークしてくれた方がいる!ありがとうございます!
本当はもうちょっとストックが溜まってから投稿しようかと思ったのですが、嬉しいのでとりあえず投稿しました。
これから夜神班が初めてちゃんとした任務に挑むことになります。上手く書けるよう頑張ります。
さて、改めて忘れたい事実を思い出さなくてはいけない。
そう。ボクには超多額の借金がある。 魔法少女をやることになったのはその借金を返済するため。
魔法少女の給料はその成果に応じて変動……つまりはビーストをたくさん狩ることができればそれだけ給料が上がることになるのだけど……ボクは見回りを始めて一週間、未だビーストを狩るどころか見つけることもできないでいた。
これ……果たして返済できるのだろうか?
さて、今日も今日とて放課後。魔法少女の仕事の時間だ。
ボク、月乃さん、枢木さんの三人は魔法少女の姿で基地に集合していた。
本日の仕事内容なのだがいつもの見回りではない。月乃さんが説明してくれる。
「さて、今日は演習の時間です。カオリは初めてだよね」
「はい」
演習……どんなのだろう?
「この基地には演習場があるの。案内するね。ついてきて」
月乃さんは歩きながら演習についての説明をしてくれる。
「頻度は二週間に一度くらいかな。班で演習を受けることになってるの。一応、個人でも演習場を利用することができるんだけど、そういう時は事前に要さんに申請しなくちゃいけないの」
そうなんだ。まあ面倒だから個人利用の申請はしないと思うけど。
「演習ってどんなことするんですか?」
「模擬戦ができる場所があったりフィジカルを鍛える場所があったり……そこは演習場についてから説明した方が分かりやすいかな」
歩くこと数分。演習場に到着。
「広っ!」
サッカースタジアムくらいの広さはあるんじゃなかろうか。行ったこと無いから知らないけど。 というか、ファミレスの地下にこんな世界が広がってるなんて驚きだ。本当、この基地はどうなっているんだろう。
演習場にはボク達夜神班の他にも様々な人達がすでに利用していた。 魔法少女同士で模擬戦をしているグループ、ビーストを模した仮想敵と戦っている人、隅っこで休憩しているグループ。様々だ。
それにしても、カナメさんが魔法少女は美少女揃いだって言ってたけど本当だ。本当に可愛い人しかいない。誰でもいいからボクと結婚してくれないかな……
「私は先に行ってる」
枢木さんは慣れた調子で演習場の中をスイスイと進んでいく。
「小雪が向かってるのは射撃場だね。せっかくだから一緒に行こうか」
「はい」
ボクはピョコピョコ揺れる枢木さんの小さなお尻をガン見しながら後に続く。
射撃場はすでに数人の魔法少女が利用していた。
「なんかクレー射撃みたいですね」
「そうそう。そんな感じ。狙撃の訓練だね」
距離はおよそ100メートル。
射撃場の魔法少女達は宙を飛び交う的にウィッチロッドを構え、魔法を放っていく。
おぉ!初めて本物の魔法を見た! やはりボクの不完全なものとは明らかに違う。
キラキラの鋭い閃光、あるいは光弾が放たれる。
距離と的の大きさ、的の動きを考えると命中の精度は悪くない。およそ5発に1発命中している。
「カオリもやってみよっか。ロッドはあたしの貸してあげる。距離はもう少し近くにしよう。25くらいにしとこっか?」
「あの……たぶんというか絶対に届かないです」
「おぅ……マジか……」
「くくっ……無様ね」
どうやら月乃さんの提示した25メートルはかなり甘い設定だったらしい。
「ちなみにどれくらいならいけそう?」
「1メートルちょっと……とか?」
「縁日の輪投げ以下じゃん!」
「ぷくくっ……」
確かに。
というか枢木さんの嘲笑以外の笑顔を見るのは初めてな気がする。いや、これも嘲笑か。可愛いから全然良いけど。
「あの……普通に拳銃とかじゃダメですか?」
「拳銃じゃダメです!というか魔法少女が拳銃って何!?」
「……ですよね。ビーストには効かないですもんね」
「そういう問題でもないんだけど……マジか……」
月乃さんが困ってる。察するにボクの魔法の無能っぷりはどうやら前代未聞レベルらしい。
「なんか距離を伸ばすコツみたいなのってあります?」
「うーん……弾のイメージを細く鋭くすると範囲が狭くなる代わりに貫通力と距離も増すんだけど……1メートルだとそれもどこまで効果があるのやら……」
1メートルが2メートルになったところでって感じだろうな。
「とりあえず今日のここの訓練はあたし達のを見てみて」
「分かりました」
月乃さんが狙う距離は50メートル。 月乃さんは苦笑して言う。 月乃さんはウィッチロッドを構え、
「的の軌道を素早く見極めるのが大事。後はその軌道上に魔法を……ぶち込む!」
ギュン!と放たれるピンクの閃光。狙いを違わず的を貫く。 月乃さんの精度はかなり良い。終始安定した命中率を発揮し、八割は命中していた。
「凄いじゃないですか!月乃さん!」
「この距離なら大したことない……って言ったらカオリに悪いね。素直にありがとうって言っておこう」
月乃さんはボクの賛辞に苦笑する。
「……本当はビースト相手にこの距離で射撃ってかなり危険なんだけどね。外したら一気に接近されちゃうから。ビーストに接近を許したらおしまい。魔法少女でもビーストに接近戦では絶対に勝てない」
「……そうなんですか?」
「カオリが戦った個体は特殊なやつだったらしいからね。知能と引き換えにフィジカルは弱かったのかも」
確かに。その可能性は低くない。
「だからビーストに距離を詰められた時は何が何でも距離を空けないといけないの。魔法を牽制に使ったりとかしてね。ビーストとの戦闘の基本だね」
「へぇ……」
だとしたらボクは詰んでいないか? ビーストは魔法でしか倒せない。ボクは魔法を当てるために接近しなくてはいけない。しかしビーストに接近したら終わりらしい。
……どうしろと?
「それよりもカオリ。これからすごいものが見れるよ」
「?」
月乃さんの視線の先……いつの間にか単独行動に移っていた枢木さんの姿がはるか遠く……演習場の隅にあった。 枢木さんはロッドを両手で構えており……って、これ……
「距離は300メートルってところかな」
「……届くんですか?」
「見れば分かるよ」
的が飛んでくる。それを合図に枢木さんのロッドが激しい光を発する。そして、
「!」
極限まで引き絞られた眩い一筋の光は吸い込まれるように寸分違わず的の中心を射抜いた。
「すごい……!」
「小雪の最大射程は600メートル。これほどの距離をこれだけの威力で射抜けるのは魔法少女の中で小雪だけなんだぜ」
月乃さんはフフンと鼻を鳴らしてなぜか得意げ。
「枢木さん……そんな凄い人だったなんて……!」
「そう。そして……」
パタリ。
「……え?」
糸の切れた操り人形のように、枢木さんはその場で崩れ落ちる。
「魔力切れである」
「一発で!?」
枢木さんは完全に力尽きているようで地に伏しながらピクリとも動かない。 ボクと月乃さんは枢木さんの側へ駆け寄り、月乃さんは慣れた調子で枢木さんを起こし、おんぶしてあげる。
「あの……これは訓練になってるんですか?」
「ふっ……訓練じゃないわ。アジャスト……といったところかしら?」
「枢木さん、あんまカッコよくないです」
「なっ!」
というかおんぶされてる枢木さん可愛い。
「ふん、全然分かっていないのね。真なる者は一発必中。無駄玉を打つなんて馬鹿のすることだわ」
「一発撃ってバタンキューっていうのも……いえ、なんでもないです」
「一発も撃てないあなたに言われたくないのだけど!?」
「あっはっは。確かにそうですね」
「くっ……!やっぱりこいつムカつくわね……!」
枢木さんは月乃さんの背から降りてボクをペシペシと叩いてくる。 日頃月乃さんが枢木さんにちょっかいをかけたがる理由が分かった気がする。 なんだか子猫にじゃれつかれてるみたいで楽しい。
「むぅ〜二人ともすっかり仲良くなっちゃって。あたしもカオリと仲良くなっちゃうもんね」
むぎゅ〜っ。
「ひぁあああ!?」
月乃さんが後ろから抱きついてきた! あたあたあたあたた当たってますよ!?柔らかくて気持ち良い幸せな膨らみが当たってますよ!?
それだけじゃない。ボクの素肌に月乃さんのすべすべな素肌がこすれて……これはヤバすぎる!
枢木さんはボクの反応を訝しそうにしている。
「……そんなに照れることかしら?あなた顔真っ赤よ?」
「そ、そにゃことないでし!」
身体の密着だけじゃない。月乃さんから伝わる甘やかな香りがボクの脳を蕩かせてくる。 月乃さんはボクに抱きついたままクスクスと笑って、
「ほんとだ。カオリ、耳まで真っ赤になってるよ。ふふっ」
「ひゃっ!?」
ゾクゾクゾクッ!
月乃さんのしっとりとした囁きと吐息が耳を甘やかに刺激してくる。
「耳、敏感なんだ?」
「うぅぁあやぁああ!」
限界だ!これ以上はヤバい! ボクは月乃さんの魔性の拘束から抜け出す。
「はぁ、はぁ……月乃さん、あまりからかわないでください……」
「あっはっは!ごめんごめん!カオリが面白い反応するもんだからつい、ね」
本当に勘弁してほしい。
「ふ〜ん……」
「?」
何やら枢木さんがニヤニヤとこちらを見てくる。そして、何をするかと思えば、
「ていっ!」
ぎゅっ!
「枢木さん?」
今度は枢木さんが正面から抱きついてきた。
「………………」
なでなで。
「んゃ……!?」
髪の毛サラサラ。なんて撫で心地の良さだ。
「こ、こども扱いしないでっ!」
枢木さんはバッとボクから飛びのいてしまう。
「ちょっとは照れなさいよ!どうして私はそんな反応!?」
「いや、そんなこと言われましても……」
普段だったら動揺していたかもしれないけど月乃さんの後だと刺激よりも愛らしさの方が勝ってしまう。
……ん?
「ちっ……腹が立つくらいに呑気なもんね。目障りだわ。とっとと消えてくれない?」
「ちょ、ちょっとミキ!」
二人の魔法少女が何やらつっかかってきた。
ミキと呼ばれた子はボリューミーな緑の髪を後ろで束ねた髪型と勝気なツリ目が特徴的だった。
もう一人は黒髪おさげが特徴的な大人しい印象の子だった。文学少女って感じだ。
ちなみにこういった大人しめな子が実はムッツリドスケベ……なんて設定がボクの性癖的に超どストライクなんだけど皆様的にはどうでしょうか。エロければ何でもいい?そうですか。
「さすがは落ちこぼれの夜神班ってところかしら?実力もゴミなら気概もゴミね」
「……っ」
ミキさんとやらは憎まれ口を叩いてくる。 隣の文学少女(仮)さんはあわあわとミキさんの険悪な空気に呑まれてしまっていた。
「ちょっと待ってください。月乃さんは落ちこぼれなんかじゃないです。実力がゴミなのは枢木さんとボクの二人だけです」
「過半数割ってるじゃない!?」
「私をあなたと同列にしないでくれるかしら!?」
ミキさんは不機嫌そうに舌打ちをし、
「……皆が大変な目に遭っているっていうのに……無知ってつくづく罪なものね」
「ちょっとミキちゃん!それは言っちゃダメって……」
「フン……いずれ耳に入ることでしょ?」
「「「……?」」」
ミキさんが何やら意味深な言葉を口にした。
月乃さんはリーダーとしてその言葉を無視することができなかった。
「どういう……ことですか?」
「あんたの班は貧弱で使い物にならないからあえて対魔局が知らせなかった情報よ」
「答えてください!」
「……人型のビースト」
「「「!」」」
ミキさんの答えに文学少女(仮)さんは『言っちまった』と額に手を当てる。
「人型のビースト……そんなものが?」
「すでに複数の班のエースが犠牲になってるわ。それだけじゃない。わたしの班のサクラも……!」
ミキさんは歯嚙みして言う。
「犠牲って……命は!?無事なんですか!?」
「命に別状は無いわ」
「…………良かった」
命が助かったことに月乃さんは安堵の息をこぼした。
「『良かった』……?ふざけないで!」
「きゃっ!?」
ミキさんが月乃さんの肩を突き飛ばした。
「月乃さん!」
ボクは咄嗟に月乃さんの背に手を当て、転倒を防ぐ。
ミキさんは悪ブレもせず、瞳に怒りを滾らせ、ボク達を睨みつける。
「……あんた……あいつにやられた人達を見ていないでしょう?あんな悲惨な姿を見せられたら例え生きていても『良かった』なんて口が裂けても言えないわよ!サクラだって!うぅ……」
「「「「………………」」」」
なるほど。そういうことか。ミキさんの様子に納得がいった。
文学少女さんの補足説明では、ついこの前にいくつかの班から優秀な魔法少女を集めて討伐隊を結成し、作戦に当たったのだとか。 結果はこっ酷くやられ、その場に居合わせた魔法少女達に強烈なトラウマを残した。再起の難しい人も少なくないらしい。
作戦が失敗に終わって現在、未だ有効な策が出ていない状況とのこと。 つまりは打つ手無し。
ボクはミキさんに尋ねる。
「確認なんですけど、その人型のビーストって相当に強いんですよね?優秀な魔法少女が何人もやられてしまうくらいに」
「ちっ、何を当たり前のことを……」
「月乃さん。このビースト倒したら特別手当て出ますかね?」
「そりゃあかなりの額が出るだろうけど……って、まさか……」
「ボク達夜神班が倒してしまいましょう!」
「無理無理無理無理っ!」
「これは借金返済の大チャンスですっ!逃す手はありませんよ!ボク達なら大丈夫です!きっと倒せます!」
「金に目がくらんだ子の話なんて信じられないんですけど!?」
どうやら月乃さんは乗り気じゃない様子。
「月乃さん……思い出してください。何のためにボクらが魔法少女になったのかを……」
「うっ……それは……」
「お金のためでしょう!?」
「それもあるけどさぁ!?」
くっ……!日和っていられる状況じゃないのに……!乗り気なのはボクだけか……と思いきや、
「いいわ。やってやろうじゃない。人型退治」
「小雪!?」
ここで思わぬ援軍の登場。 枢木さんは得意げに髪をかき上げて啖呵を切る。
「ふん、いい加減聞き飽きたのよ。落ちこぼれだの無能だのピーチクパーチク……ここらで一発有象無象どもを黙らせてやりましょう」
「あたしら一体もビースト倒したこと無いのによく言えるね!?あんま言いたくないけども!」
……あんま活躍できていないのは薄々気づいていたけどまさか一匹も倒したことが無いとは……初耳だ。 だとしても、ここで引き下がる理由にはならない。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。あんた達、本気なわけ?」
そう尋ねてきたミキさんには狼狽の色が見えた。
「当たり前です」
「愚問ね」
借金返済の大きな足掛かりを逃すわけにはいかないんだ。 ボクと枢木さんの視線が交わり、互いに力強く頷く。
ボク達の覚悟を前に月乃さんは泡をくったようにブレーキをかけてくる。
「ちょっと待って!そう!そうだよ!局長の許可が必要だよ!あたし達の独断で討伐に向かうことはできない。ね?まずは局長に話を通さなくちゃ」
「むぅ……」
「確かにそうね」
「で、でしょ?」
月乃さんはホッと息をついた。
「じゃあ、早速局長の許可をもらいにいきましょう!」
✳︎
「いいでしょう。許可します」
「「えぇええええ!?」」
「「よし」」
局長室にて。 月乃さんとカナメさんの絶叫とボクと枢木さんのハイタッチの音が響いた。
「どこでその話を耳にしたかは不問にします。今回の『人型』の討伐は夜神班に一任することにします」
「ちょ、さすがに無茶では!?」
「拒否権は認めません。これは命令です」
月乃さんの訴えを瞬時に叩き潰す如月局長。 よっ!いいぞいいぞ!
「カナメ。人型に関する情報、及び過去の出現データを後ほどこの三人に送っておきなさい」
「ほ、本当によろしいのですか……?」
「構いません」
よし。話はついた。っと、そうだ。肝心な話がまだできていない。
「局長!この人型を討伐したら特別手当てを出してほしいんですけど!」
「ふむ……いいでしょう。もしも討伐することができたのならあなたの借金を半分にしてあげます」
「!ありがとうございます!」
借金の半額はでかすぎる。なにせ半額でも家族全員が一生豪遊できてしまえる程の額なのだから。
「話は以上です。行きなさい」
「…………はい」
ボクと枢木さんはホクホク顔で、月乃さんは生気を失った顔で局長室を後にした。
間が空いてしまったにも関わらず、お付き合いいただきありがとうございます。
ストックがちょっと溜まったので次の投稿はそれほど長い間は空かないかと思います。
最後までお付き合いくださるよう頑張ります。




