表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わざわいたおし  作者: 森羅秋
――武器防具修理――
233/279

持ちつ持たれつ⑨

 二人はあたしがもしゃもしゃ食べている姿を微笑ましそうに眺めている。

 恥ずかしいなぁもう!

 粗方食べ終わったところで、ネフェ殿が紅茶を飲みながら話しかけてきた。


「それにしても、リアの森まで行ってきたって、すごいわねー」


 んぶ! と口の中を吐きそうになった。

 まだどこに行ったのか喋ってないし長殿も話している様子はなかった! なんなんだよもぉ! 


 そんなあたしのリアクションを見ながら、長殿も頷く。


「ルゥファスと同じくらいの身体能力が備わっています。これではリヒトと一緒だったらさぞかし移動は窮屈だったでしょう」


 そんなことはない。それはそれで大丈夫だった。

 と思いながら口の周りを手の甲で拭く。


「そう、ミロノちゃん優しいね。ルゥファスさんはいつも、遅い、遅いって文句言ってたのよ」


 たまらずあたしも会話に混ざる。


「親父殿と違いますから」


「あ、ごめんね。食べて食べて。デザートもあるからね」


 のどに詰まりそうで怖いが、促されたのでとりあえず食べよう。

 スープを飲み込んでいると、


「そうそう、ミロノさん。面白い話をしてあげましょう」


 早速、口の中を吐き出させようと長殿が話しかけてきた。

 笑いだすのを耐えるような笑みを浮かべている。やめてくれその顔だけで面白いから。


「必要ないです」


「リヒト君ね、明け方までずっと起きてたみたいで、あんまり寝てなかったみたい」


 断りを入れたにも関わらず、ネフェ殿が言葉を紡いだ。にやにやを耐えようとしていて唇が梅干を食べたようになっている。笑いそうになるやめてくれ。


「君、夜中に帰るって言ったそうですね。この寒い中で締めだしたら困るだろうと思ってたみたいですよ」


 長殿も混ざる。

 二人とも笑いたいなら普通に笑えばいいのに。伝染させようとするな。


「リビングでずっと座って本を読んでたの。まるで置いて行かれた子犬みたいだったわ。まだ帰ってこないのかな、みたいな雰囲気だったのよ。可愛くって可愛くってもう」


「久々に可愛い姿を観察できて得をした気分です。あんなに他人を気遣えるようになっているとは驚きでした」


 まって。あれ、これ、もしかして遠まわしに怒られているのか?

 リヒト待っていたのになんで早く帰らなかったって意味だよな?


 咀嚼を終え、フォークを置いてから二人に謝った。


「申し訳ございません」


「え!? なんで謝るの!? リヒト君が勝手に待ってただけだし」


「そうですよ。貴女はちゃんと鍵かかっていれば明日帰宅するって言ったのに」


「どうしてそこまで知ってるんだよ!」


 思わず声を荒げてツッコミすると、二人は「読めた」とあっけらかんと言ってきた。


「うううううううううううううううう!」


 あたしは呻きながらテーブルに肘をついて頭を抱えた。

 リアの森で考え事まとめてよかったと本気で思った瞬間である。


「それでね」


 その後もリヒトがどんな状態だったか教えられたが、どう考えてもどう解釈しても、あたしに早く戻って来いよと遠回しの説教に聞こえてしまい、苦い昼食となってしまった。






 入浴を終えて部屋に戻り、布団に籠っていたらいつの間に寝てしまったようで。

 ノック音で目が覚める。


「なんだ?」


 目をこすりながら返事をしてドアを開けるとリヒトが立っていた。

 それを目にした瞬間、脳裏に長殿&ネフェ殿の会話が浮かび、反射的にドアを閉めた。


 会話を思い出したらいけない! 平常心だ! バレたらあたしにもとばっちりがくる!

 っていうか、来たのって絶対文句言うためだよな。夜通し起きてたのあたしの責だってい……言ったら芋ずる式に昼の会話がバレる!


 リアの森に行くときの気分になろう。

 一呼吸おいてドアを開ける。

 憮然とした表情になっているリヒトがすぐに口を開いた。


「人の顔をみて閉めるなんて失礼な奴だ」


「寝起き一番にあんたの顔みたくなくて」


 リヒトの目が鋭くなる。ちょっとイラっとしたようだ。


「最悪な言いぐさだな」


「そんな気分もある。用はなんだ?」


「父上からの伝言だ。ルゥファスさんと連絡が繋がっているから、書斎庫に来るように」


 予想とは違っていてあたしは眉をしかめる。


「連絡が繋がる?」


「リアルタイムで話せるぞ」


「まじか!?」


 途端に目を輝かせて聴き返すと、リヒトは頷いた。


「父上は動作で手が離せないから俺が呼びに来た」


「ありがとう! すぐ行く!」


「そうしろ」


 一瞬、じっと顔を見られた。


「なんだ?」


「………別に。普通だなと」


 リヒトは視線をすぐにそらした。


「普通だよ。じゃぁな」


 あたしはワクワクしながら一目散に走り出す。

 背中に視線を感じたがよびかけられなかったので用はないだろう。そのままリヒトを放置して、喜びに胸を躍らせながら書斎庫へ向かった。



次回は「親の心、子迷惑」

ミロノは親父殿と話をすることができますが、厄介な依頼を引き受けることになります。

その内容とは……?


次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ