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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――武器防具修理――
232/279

持ちつ持たれつ⑧

 太陽が真上に差し掛かる頃、ユバズナイツネシス村へ到着した。

 雪煙を出しながら走っていたら、村の門の近くの小屋からアザームの姿が見えた。驚愕しており口が大きく開いている。

 あたしは村の門の直前で立ち止まり「ぜー、ぜー」と全身で呼吸をする。


「とう、ちゃくー」


 軽く休むため座り込むとアザームが近付いてきた。信じられない者を見るような目つきで見下ろしてくる。


「雪煙が迫っているから、何事かと……」


 アザームが茫然としながら言葉を発した。

 わたしの村だとおかえりって平然と言ってくれるんだけど、この村では走って帰ってくる光景って珍しいんだな。

 あたしは呼吸を整えてから経緯を離した。


「ただいま。一番近くにあるリアの森まで行ってきた」


「はぁ!?」


 アザームはあんぐりと口をあけて、あたしが持っている荷物を見た。これは蔓で作ったバッグである。


「ほらみて」


 紐を解いて中身を見せた。植物に加えと皮や牙や爪が入っている。

 アザームは「………え?」と呟いて動きを止めた。驚きで声も出せないらく、口を少し開けて固まっている。


「あそこ素材の宝庫だから心躍った! うっかり熱中してしまって時間オーバーしちゃったけど」


 話しているうちに体力が回復したので立ち上がる。バックの紐を結び直すとアザームが目を点にしながら、油の切れたような動作をする。


「は、走って、行って戻った?」


 辛うじて声を出した風の彼に、あたしは笑顔を浮かべて「そうだ」と頷いた。


「では中に入るため許可を得たい」


 アザームにぺこりとお辞儀をすると、彼は固まったまま頷いた。ここまで驚かれると思わなかったのでびっくりだ。

 

 さぁて、村の中に入ったからすぐにルーフジール家へ向かわないと。完全に帰宅時間オーバーしてるから怒られるかもしれない。

 村の中、違和感を避けて進む道中でこちらに視線を向ける人が多かった。多分、土まみれで草の汁だらけで見た目がめっちゃ汚いからだ。なんなんだこいつって視線をビシビシ感じる。修行してたらこのくらいは余裕で汚れるんだけどなぁ。


「着いた」


 昼時にルーフジール家に到着した。

 先に玄関の脇にある蛇口から水を出す。手を洗うが冷たいなぁ。

 階段を数段登り玄関をノックするまえにドアが開いた。

 まるでドアの向こう側で待機していたようなタイミングで開いたので、思わず一歩下がる。


「ミロノさん、おかえりなさい」


 笑顔で出迎えてくれたのは長殿だ。

 即座に警戒してしまい、あたしは階段の中頃まで下がった。

 まさか長殿に開けてもらうとは思わなかった。

 にこにこしていて表面上は怒ってないようであるが、勝手に抜け出した手前、ちょっとバツが悪くて視線をそらした。でもすぐに真正面から見つめ返すと、彼は面白い生き物を見る様な視線を向けてきた。

 あたしは深々と頭を下げる。


「帰宅時間大幅に遅れました」


「構いませんよ。リアの森で夢中になって採取してたんでしょう。怪我無く無事に戻ってきてくれたのですべて水に流します」


 どこで何をしたか言ってなんだけど!

 風貌で予想したにしては場所の名前しっかり言ってやがる!


「本当に親子そっくりですね」


 どうやら親父殿も同じ事をやらかしていたらしい。


「はぁ。申し訳ありませんでした」


 口先だけ謝ってからあたしは家の中に入りそのまま部屋へ向かう。

 何故か長殿がすぐ後ろをついて来ている。

 無言で。笑顔で。足音を消して。ついでに気配も薄くなって。

 恐いんですけど!?


 恐怖に負けて、あたしは部屋のドアの前で思わず振り返った。


「なんでついてくるん……っ!」


 あたしの言葉を遮るように、長殿がリビングの方向を示す。


「貴女そのまま寝ちゃうでしょ? 荷物おいたら服を着替えてすぐにリビングに来てください。昼食が用意されています」


 うぐはぁ、読まれてる。

 飯も食わずそのまま寝るってバレてる。

 長殿はにっこり笑った。


「言ったでしょう? 親子そっくりと」


 そうでしたね。『そっくり』の部分に重みを感じてしまうくらい、親父殿も問題を起しまくったんだな。

 仕方ないので寝る前にご飯頂こう。すごく贅沢だなぁ。


「分かった。すぐにリビングに行く」


 返事をしても長殿は動かない。

 目が物語っている。嘘をつくなと。


「もしや信用なしか?」


「はい」


 清々しいほどにキッパリと答えが返ってきて、あたしはため息を吐いた。

 仕方ない。ドアの前で待っていてもらうように告げて中に入り、急いで服を着替えた。まぁ、先ほど着ていたのと全く同じ服だけど。


「お待たせしました」


「では行きましょう」


 長殿が先導してリビングに案内してくれるが、連行されている気分がして落ち着かない。


 リビングのドアを開ける。

 テーブルに料理が置かれており、ネフェ殿が「おかえりなさい」と笑顔で出迎えてくれた。ぎゅっと抱きしめられるとホッとしてしまい肩の力が抜ける。


「もー。急に遊びにいくって聞いたから吃驚したけど、ちゃんと戻ってきてくれて良かったわ。おなかすいたでしょ。こっちに座って」


あたしを席に案内すると、ネフェ殿が椅子を引いてくれた。

恐縮しながら座って、他に誰かいないか確かめる。どうやらリヒトとクルトはいないみたいだ。


「二人は勉強しに図書館に行ってるの。夕方には戻るわよ」


「そうか」


「はいどうぞ」


 ネフェ殿は焼いた小さなチキン一羽と野菜スープ、サラダ、魚料理と肉料理をあたしの前に置く。どれも美味しそうで生唾が出る。


「ふふふ、どうぞ召し上がれ」


 ネフェ殿が笑って促した。あたしはちょっと迷ったが、長殿にも「どうぞ」と促され、有難く頂くことにした。


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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