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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――武器防具修理――
228/279

持ちつ持たれつ④

 リヒトはマフラーとコートを脱いでコート掛けのフックに服をかける。ハンガーを探すことなく、そのままぺいって襟首にひっかけた。ハンガーがあるときはちゃんとつけているのに珍しいな。まぁいいか。面倒なんだろ。

 適当に休んでいいなら、工房みたいからうろうろしよう。


 あたしは鉱石の間にちょこんとある椅子には目もくれず、輝く鉱石を一つ一つ眺めたり触ったりしていた。ざっと見ても凍石、氷石、火石、光輝石、浄化石、風石まである。小さくても直径は3メートル、幅1メートル。もはや岩石サイズだ。


 近くに鉱石の採掘場があるのかも。いいなー。私も素材探ししたいー。

 心躍りながら鉱石を眺めていると、不意にリヒトが声を出した。


「ストロム山の洞窟にある赤い死の地底湖。その周囲が鉱石の採掘場だ」


 あたしは振り返って聞き返す。リヒトはコート掛けのフックの横にある椅子に座って腕と足を組んで座っていた。不服そうな顔をしてあたしの動きを見ている。


「その山はどこに?」


「村の東にある一番高い山」


「わりと近いな」


「半日で山の入り口に着く」


「へぇ」


 あたしは感心したように腕を組む。

 そんな近い場所に属性鉱石があるんだ。その山は大規模な採掘場があるのだろうか?


「あの山はアニマドゥクスの修行場だから属性鉱石が取れやすい」


「なるほど」


 鉱石は精霊の力を閉じ込めた結晶だ。アニマドゥクス達が術を発動する時に精霊の力が集まる。何かの拍子で凝縮されて石になっていても不思議ではない。


「なら採掘場もあるんだな」


「そんなものはない」


 あたしは驚いて「はあ」と声を上げながらリヒトに歩み寄る。


「採掘場がないなら鉱員はどうやって鉱石を取り出すんだ? これだけ大きい鉱石を出すにはそれなりの設備がいるだろ?」


 身の丈よりも大きい水色の鉱石を示すと、リヒトが呆れたようなジト目になった。「はぁ」と大きな声でため息をつきながら首を右に傾ける。


「ここがどこだ分かって言ってんのか?」


「ここは……あっ。アニマドゥクスか!」


「そうだ。術で掘り起こしたり取り出したり。運搬も行うから人手も道具もいらない」


「なんだそれー! ずるいー!」


 全身全霊で悔しがると、リヒトがきょとんとしたように瞬きをした。


「勝手に入ってもいいのか? 採掘しても怒られないか?」


 好奇心に押されて聞いてみると、リヒトは微妙な表情になった。これはダメかもしれないと肩を落とす。


「ダメかぁ」


「修行場所だと言っただろう? 山に入ることは自由だ。だが鉱石に関しては……。綺羅流れの活用資金源の一つだから岩肌を破壊して取るのはマズイ。どうしてもやりたいなら、岩肌に出っ張っているのを持って帰るくらいだ。それなら問題ない」


「なるほど。岩肌から削ぐくらいならオッケーと。時間を作って行ってみよう」


「武術の修行にも使われるから、訓練程度ならお前でも使用していい。父上には俺から伝えておく」


「そっか! 楽しみだ!」


 ここで名案が閃いた。


「なら山の修行場所、あんたが案内してくれよ」


 リヒトが怪訝そうに眉をひそめる。


「なんで俺が?」


「そこ修行の場なんだろ? なら模擬戦やってそのついでに採掘しよう。体治ってからまだ一度も慣らしてないからな」


 リヒトが呆れた様なため息を吐いて、腕を組むのをやめて首の後ろを触る。


「相変わらずの戦闘狂め」


 あたしはリヒトの正面に立ってしゃがみ込むと、滅茶苦茶嫌そうに見下ろされた。


「いいじゃん。今のところ練習相手はあんたしかいないんだ。あんただってそうだろ?」


 最初は苛立ちによる喧嘩から始まり、徐々に苦手な部分や弱い部分の指摘に変化し、最近では互いの力量を計りながら本気の試合を行っている。体力が半分、軽度損傷で終了だ。

 そのおかげでアニマドゥクスへの攻撃に慣れてきたし、リヒトだって接近戦に慣れてきている。

 この村にどのくらい滞在するか分からないが、一度くらいは試合してもいいと思う。

 リヒトは渋い表情をしていたが、諦めたように肩をすくめた。


「とりあえずお前の武器防具が揃ってから考える。それでいいだろう?」


「それでいい!」


 あたしがにやけながら返事をすると、その返事をかき消すように奥のドアがバァンと開いた。


「おっはよーございまーす! お待たせしましたー!」


 ふくよかな中年の女性がドアから出てきた。

 人懐っこい犬のような表情で顔の中心に目鼻があり、赤毛の髪の毛を一つのお団子にしている。茶色いワンピースに腰にエプロンをつけていた。


「貴女が旦那の同郷の子ね!」


 ベイジェフよりも頭三つ分低い女性は、ドスドスと足音を立てながらこちらに向かってやってきたため、あたしは立ち上がり彼女に歩み寄る。


「はい、そうで」


「いらっしゃい!」


 勢いよく両手をギュッと握られた。びっくりして少し背を逸らすと、女性はキラキラした目を向けてきた。


「あなたがミロノさんですね! しかもあの武人で伝説の武器職人ルゥファスさんの娘さんですって!? 逢えて光栄ですわ!」


 あたしは「はぁ…」と言葉を濁すことしか出来ない。

 あの男、どんな説明をしたんだろう。


「私はガーネット。ハッソ出身の鍛冶職人の娘で、ベイジェフと知り合ってからユバズナイツネシスに移住したの。よろしくね!」


「よろしくガーネット殿。あたしの名はもうすでに知っているだろうが改めて自己紹介させてくれ。ミロノ=ルーフジールだ。幼少期にベイジェフに世話になっていた」


「昔話であなたの名前をよく聞くの。とても利発で活発なお嬢さんですってね。モノノフの称号もあるとお聞きしていますわ。さぁこちらへどうぞ」


 ガーネットはにこりと微笑んで、右手だけ握ったままあたしを奥のドアへ促した。


「この奥に採寸用の部屋があるから、そちらへ行きますよ」


「あ、ああ……」


 勢いに押されてガーネットに引っ張られる。


「あら?」


 ガーネットは椅子に座っていたリヒトに気づくと、少し歩む速度を落として、左手をひらひらと動かして挨拶をする。


「おはようリヒト君! 久しぶりね、背丈凄く伸びたようね。見立てだと小さい服ばかりなはずよ! 明日にでも奥方様と一緒に採寸にいらっしゃい。待ってるわ!」


 リヒトは何も言わず、丁寧に会釈をした。


「でもなんでここにリヒト君が……?」


 ガーネットはあたしとリヒトを交互に見てから、ハッと目を見開き口元に手を添えた。


「そうか一緒に居るってことは知り合いね! 申し訳ないけど少しこの子借りるわ。すぐ済ませるから待っててね! ああそうだついでに朝ごはんも一緒に食べましょう! じゃぁね!」


「……」


 怒涛のように話しかけられていたがリヒトは微動だにしなかった。その瞳に嫌悪感は全くなく、やや諦めたような遠い目をしている。

 悪意がない圧しの強い相手に弱いんだなと感じた。



読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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