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わざわいたおし  作者: 森羅秋
――武器防具修理――
225/279

持ちつ持たれつつ①

 早朝……というか、まだ陽が昇ってないので真っ暗だ。あと三十分ほどで日の出のはずだから急がないと。


 あたしはサッと身支度を整え、部屋着の上にネフェ殿から借りたコートを羽織った。


 これから鍛冶屋に行って旅服から防具から色々直してもらう。


 夜も明けぬ早朝に尋ねるのは非常識だが、ヴィバイドフ職人の朝は馬鹿みたいに早い。

 この時間帯ならもうベイジェフは活動して材料の品定めを行っているはず。そして日光時間になると外出して、日が暮れはじめると戻ってくるパターンだろう。


 朝日が昇ってから尋ねても留守の可能性が高い。

 だから自宅にいると確定できる時間、今、動く必要がある。『明日尋ねる』って言ってるから、朝一で行って大丈夫だろ。


 あたしはリュックを背負う。これに財布と防具や武器が入っている。

 他の荷物はベッドの上に置いた。まぁ取られても困らないやつばかりだし、捕る人間はいないから大丈夫だろう。


 ゆっくりと、音をたてないように部屋のドアを開ける。廊下は暗く、屋敷は静まり返っている。


 みんな寝ているので起こさないようにしないと。

 ゆっくりとドアを閉じてから、足音を立てないように素早く玄関に移動する。玄関は足元に明かりがあるので移動が楽だ。


 さて。ベイジェフに武器防具と服を渡して体の採寸をしたら終わりだ。長くても午前中くらいに鍛冶屋を出ることになる。そのあとはどうするかな。


 うーん。やっぱり村を散策してみようか。昨日一回しか出てないし、帰る途中で寄り道してみよう。

 殆どが民家だとおもうけど、何か面白いモノがあるかもしれない。

 昼過ぎか夕方前にここに帰るつもりでいればいっか。


 あたしは玄関ドアの横にある黒いボタンを押す。

 これが鍵だそうだ。押すことによって雷石の流れが遮断されて自動施錠が解除する仕組みらしい。玄関ドアの施錠は四か所あるがこれで全部解除されるそうだ。

 あとドアから出たら自動で締まるからそのまま行って良いと教えてもらった。


 うん。仕組み全くわかんねー。

 長殿の曾祖父が発明した技術だってさ。凄い技術だなぁ。長殿が知っているなら教えてもらいたいものだ。


 あたしは外の気配を探って危険がないかチェックをしてから、ドアノブを回して少しだけ隙間を開けた。


 ん? 後ろから誰か近づいてくる。

 この気配はもしかして……。


 ゆっくり振り返ると、何故かリヒトが立っていた。ジト目でこちらを見ている。


「え? なんで?」


 驚いて声をかけてしまった。

 だってあいつは室内着じゃなくて、ロングコートにマフラー、耳当て、ブーツという外出着になっている。肩に小さなショルダーバックをかけているので、どこか出かけるのだとすぐわかった。


 しかしこんな時間からどこ行くんだろう。

 そういえば『本日の予定報告』を昨日はやってなかったな。


 あたしが考えていると、リヒトが無言でこちらに近づいてきた。あいつが真横に着たタイミングで「おはよう」と小声で挨拶しておく。


 あとはそうだな。防具壊れた事を知ってるから、鍛冶屋に行く旨を話しておくか。


「早いな。あんたも用事があったのか? あたしは今から」


「鍛冶屋へ行くんだろ。ついでに村を案内する」


 なんだいまの言葉。

 あたしの頭から「???」が連打される。


「……その言い方だと、道案内をしてくれるってことで、合ってるか?」


 リヒトが頷いた。


 えー? 突然の親切心に驚くんだけどー。

 いやよく考えろ。親切で言っているわけないじゃないか。絶対に何か裏がある。

 理由教えてくれるか分からないが確認した方がいいな。等価交換かもしれない。


「なんで道案内する気になったんだ?」


「見た目じゃ分からないが、村には防護壁が至る所に設置され迷路になっている」


 リヒトは首元のマフラーに右手を添えてニギニギとしている。


「俺達は慣れているが、お前は多分、無意識に惑わされる。正式に客人として訪れているから村から排除されることはないだろうが、帰宅できない可能性がある。一人で行かせるわけにはいかない」


 なにその自動不審者排除システム。誰がそんなもの作ったんだ? 尊敬するぞ。


 いやいや注目ポイントはそこじゃない。あたしが帰宅できないと思ったから道案内するってところだ。どんな風の吹きまわしだ? 今日は雪じゃなくて槍が降るのか?


 あたしは腕を組んで疑いの眼差しを向けた。


「あたしが迷ってもあんたは全然困らないのに?」


 リヒトが鬱陶しそうに「ああ」と頷いた。大変不本意そうである。


「困らないのに案内するのか……? それって……あー、なるほど」


 すぐに理由が思い浮かぶ。

 ネフェ殿に鍛冶屋の用事のついでに村を案内するように言われたのだろう。目に浮かぶようだ。


 いやしかしこいつが素直に実行するとは思えない。ネフェ殿に条件を出してから引き受けたに違いない。

 例えば、今日のご飯のリクエストか、お小遣いアップとか、欲しい服とか買ってもらうため……うん、全然分かんないや。


「あんたも大変だな。どんな条件で引き受けたんだ?」


「条件?」


 リヒトが怪訝そうに眉をひそめてから「そうじゃない」と深い溜息をついた。その目に少しだけ怒りが灯っている。


「クルトが案内するつもりだったようだが、俺と交代させた」


「あれ? クルトが案内してくれるつもりだったのか? 意外だな」


 昨日の打撃でてっきり距離を取られると思っていたんだけど、案外、打たれ強いんだ。

 感心していると、リヒトが舌打ちをした。


「お前、昨日クルトに鍛冶屋案内させたときに、あいつ殴っただろ」


「ん? クルトから聞いたのか?」


 あたしに対する不満を話すなんて仲の良い兄弟だ。


「勝手に読んだ」


「最悪だ」


 ツッコミすると、リヒトがチッと大きな舌打ちをする。


「それはこっちのセリフだ。クルトは荒ごとに慣れてない。俺と同じような対応するな」


 語尾を強めながら睨みつけてきた。本気で怒っていると感じたので、あたしは鳩が豆鉄砲を食ったように呆気にとられてしまった。良い意味で予想を裏切られた時はこんな心境になるのか。


「あんたはいい兄貴なんだな」


「……は?」


 あたしの発言が予想外だったのか、リヒトは口を小さくぽかんとあけた。それも一瞬で消えて、すぐに自嘲を浮かべる。


「そりゃ、あいつが当主になるからだ。気を使うのは当然だろ」


「ん? 当主って……」


「行くぞ」


 リヒトはあたしを押しのけながら玄関ドアを開けて、さっさと外へ出た。

 冷たい風が頬を触るのでぶるっと体が震える。


 あたしも外へ出てドアを閉めた。リヒトは早歩きで庭を通り抜けている。


「なぁ。さりげなく重大なセリフを言わなかったか?」


 呼びかけたが案の定、我関せずといった雰囲気だ。しかも道案内とか言ったわりにはあたしを待つ気が全くない。


 ふーむ。さっきのセリフは口を滑らせただけかな。

 好奇心が疼くので、タイミングを計って聞いてみるか。


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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