鍛冶屋へ行く④
言われて、あたしも体をチェックする。
手首と足首の丈の長さが短くなっているし、胸部と臀部もゆとりがなくピチっとしているためか、体のラインが強調されている気がする。
同年代の子と比べると成長速度が遅い方だったが、この一年で急激に色々成長した感じだなぁ。
何気に胸を触ってみた。圧迫されていないので足先が見えないほど出っ張っている。ここも大きくなった。
シルクチェインで妙に圧迫されているなぁと思っていたが、防具も小さくなっていたのか。
魅力的な肉体には憧れるが、戦闘の時は胸大きいとすごく邪魔なので、喜びたいけど喜べない微妙な気持ちだ。
あたしは袖を引っ張りながら長さを再度確認して、頷く。
「わかった。でもせっかく来たんだし、先に採寸してもらえるか?」
ベイジェフは困った様に顔をしかめた。
「そうしてやりたいがなぁ。今嫁が友人の所に遊びに行ってるから駄目だ。採寸も全部何もかも明日」
「一人で夜道を帰られるのですか?」
クルトが心配して聞くと、ベイジェフはキランといい笑顔になった。
「迎えに行くからその時間までなら大丈夫だぜ!」
彼も武術を嗜んでいる。大勢の夜盗に囲まれでもしない限りは問題ないだろう。
「え? ベイ兄ちゃんが採寸やれば? できるだろ?」
ベイジェフとクルトが目を白黒させる。
少し間をあけてから、ベイジェフが腕を組み、唸りながら天井をみた。
「いやぁー。それはさぁーふつーにマズイだろー」
何がそんなに問題なのだろうか。
「別にいいけど?」
ベイジェフが唸りながら床を見た。
「下着姿になるぞ?」
「採寸だから当然だろ?」
即答すると、顔を上げたベイジェフは眉間に皺が寄りすぎてシワシワな顔になっていた。異物をみるような目であたしを見ている。
だからなぁ……とベイジェフが困ったように唸ってから、クルトをみる。
「そうだなぁ、坊ちゃん」
「はい!?」
呼ばれるとは思っていなかったのか、クルトは裏返った声を出した。
「成人前で既に女性な体つきのミロノがおっさんの俺に採寸してほしいって言ってるんだけど、これを真に受けて採寸したら俺は犯罪者だよな」
クルトの目が点になる。
「絶対におかしなことにならないって断言できるが、世間ではどう評価されると思う?」
「妻もいる身で若い子に手を出した変態って思われます」
真顔で即答するクルト。
ベイジェフは目をきらっと輝かせて、「そうだよな!」とクルトを指し示した。
「世間一般だとそうなるんだよ。なぁこんな幼い坊ちゃんが解ってるんだ。ミロノも分かるだろう? 今の言葉がマジで危ないってことを」
「そうか……そうなるのか」
まぁ確かに、年頃の女性の寸法は女性が行っていたような。あたしの場合はいつも母殿かツェリがやってくれた気が。
「ミロノは俺を犯罪者にしたくないだろう!? あとさぁお前の採寸を俺がやったとネフェーリン様にバレたら間違いなく始末さるんだぞ! そうなったらどうするんだ!」
「悪かった」
あたしは両手を肩まであげて降参ポーズをとった。
「あたしが非常識だった」
「わかってもらえた!」
ベイジェフはガッツポーズをして喜んでいる。
「クルト、よくわからないことに巻き込んで悪かったな」
「大丈夫です。採寸することが決まったら絶対に止めようと思ったんで、お気になさらず」
「そうか……」と相槌を打つ。
年下に言われてしまった。こんなに周囲に迷惑をかけるなら、もう少し性別を気にした方が良いかもしれない。
「ミロノさんは意外に常識が抜けているとよくわかりました。ご自分の性別を把握してください」
「あんたがあいつの弟だって認識出来たわ」
皮肉を言うタイミングがほんとソックリだ。
イラッとして反射的にクルトを横から軽くコンと叩いたら、
「うあっ!」
椅子から飛んでいき床に投げ出された。
ゴォンと側頭部を打った音がする。売った場所を押さえながら、クルトは上半身を越してあたしをみる。涙目になっていた。
「坊ちゃん!? 大丈夫か!?」
ベイジェフが慌てて駆け寄りクルトを立たせた。
「痛いです……酷いです……」
「坊ちゃんすいません。ヴィバイドフ出身は口よりも先に手がでるやつらばかりで。怪我はどうですか?」
「打っただけです。でも痛い……」
ベイジェフはクルトを椅子に優しく座らせてから、あたしをギッと睨んだ。
「もうちょっと手加減してやれよ!」
「手加減してる」
「ミロノの手加減は強すぎるんだよ! 子猫ぐらいの扱いにしてやれよ!」
ちょっと小突いただけでこれか。でもふっ飛ばす気はなかったので謝っておこう。
「悪かったなクルト。思ったよりも軟弱だったから加減間違えたわ」
クルトは額を押さえながら「はい」と返事をするが、瞳に恨みの色が残っていた。
「じゃぁ出直してくるわ。シルクチェインは置いてってもいい?」
「いいぞ。あと坊ちゃんの怪我、ちゃんと奥様に伝えて謝れ!」
「わかった。クルト、用件が終わったから戻るぞ」
あたしは手を差し出すが、クルトは掴まなかった。なので、肩を掴んでひょいっと浮かばせて背中で受け止める。足とケツをもってやっておんぶ完成。
「だからお前は荒いんだって!」
ベイジェフが抗議してくる。
知るか。早くこいつを家に連れて帰らないといけないんだよ。
「怪我させてないからいいだろ」
足で器用にドアを開けたらまたベイジェフが「荒い!」とまた怒鳴った。
「もうちょっと丁寧にやれよ。ドア壊れるだろ」
ぐちぐちぐちと言いながらも見送りしてくれるベイジェフ。背中でクルトが「おろしてください」とわめいているが無視する。
「また明日な。あ、そうだ。親父さんにもこのことを伝えとくぞ。どうせお前のことだ、手紙とかも全く出してないだろ?」
言われてハッと気づく。そうだ、生存の知らせ……手紙の存在を忘れていた。
「出してない。っていうか忘れてた。どうせ送りっぱなしになるし。そもそも出すっていう発想が全くなかったわ」
「だろうな。俺もそうだった。ヴィバイドフの人間は旅に出ると音沙汰なくなるから、生存確認がほんと難しいんだよなぁ。今からでも遅くないから手紙くらい出しとけよ。どうせルーフジール家でしばらく厄介になるんだろ」
「わかった、出してみる」
「そうしてやれ」
「ありがとう。また明日」
挨拶を終えてあたしは走り出した。ぴょんぴょんという兎ではなく、短距離走の速度で走ると雪が居場所を失くして左右に押しのけられる。
陽が沈み深い青い色が雪を染めて綺麗だった。息をする度に視界が真っ白になる。
すっかり日が暮れてしまったな。走って帰って三十分ってところか。
クルトは諦めたのかすっかり静かになっている。寝てはいないだろうけど、念のために声をかけてみるか。
「早く帰るけど、寒かったら言えよ。速度おとすから」
「こんなに早く雪の中を走る人は初めて見ました」
返事が来た。どんな表情をしているか分からないが、声からして落ち着いているようだ。
「あたしの里だとこのくらい走る奴多いぞ」
「そうなんですね」
クルトが黙った。この辺りもよく似てるなぁ。
「ミロノさんは兄上とどんな話をするんですか?」
「んー? 魔王の噂についてくらいだ。そんなに会話しない」
「兄上と喧嘩したりしますか?」
「喧嘩もするし言い合いもする。悔しいが口喧嘩はあいつの方が強い」
「僕も兄上のように強くなれますか?」
あたしは黙る。単に強くなれるという言葉だけで済ませてはいけない気がした。
「得意分野は人それぞれだ。自分の長所をみつけ、好きなこと、得意なことを研ぎ澄ませて他人より優れる。それが強くなるということだ。どの強さを示しているのか分からないが、研ぐことを辞めなければあんたは絶対に強くなれる」
クルトは黙った。だけど肩を掴んでいる手に少しだけ力が籠っている。
何か思うことがあるんだろうなぁ。でも深く聞く気はないから放っとこう。
「ぷっ」とクルトが小さく笑った。
そして左を指し示す。
「道を間違えていますミロノさん。少し戻って左に曲がってください」
「マジか!?」
あたしは急停止してすぐに来た道を戻った。
「助かった! 迷子になるところだった!」
「いえ。暗くなったから仕方ないですよ。僕が誘導しますのでその通りに進んでください」
「任せた」
「はい。任せてください」
あれ? クルトの口調がほんの少し和らいだ気がする。
まぁ気のせいだな。
それよりも寒くなってきた! 風邪引かせたらマズイからさっさと戻るぞ




