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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第四章 賢者ルーフジール
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災厄の探究者③

「勇者たちを蝕む呪い、それは!」


 と長殿が熱弁しようとした時


「ここまで聞いたら答えは一つです。世界の災厄を創り出すための生贄にされたということでしょう」


 リヒトが淡々と言葉を続ける。

 水を差された長殿はしゅんと肩を落として「そうです。私が言いたかったのに」と唇を尖らせた。

 ネフェ殿は小さく拍手して「リヒト君ナイス」と賛辞を出していた。


「えーと、災厄を創るための生贄ってことは、魔王を作るための生贄になった結果、勇者ズは魔王になってしまったってことだな?」


「それ以外どう捉える?」


 リヒトから冷たいツッコミがきた。

 いいじゃないか。理解力には差があるんだ、ほっといてくれ。


「凶悪なる魔王、あれは山火事や津波、地震と同レベルの『天災』です。媒体が人間なので、人間の生活環境に影響を及ぼしやすいのでしょう」


 長殿がまとめたので、あたしは一呼吸間を開けてから疑問を投げかける。


「たった二人分の生贄で天災が発生するものなのか?」


「単なる生贄でしたら丁寧に儀式を行ったとしても、まぁまず、数人巻き添えを喰らう程度のしょぼいものです」


 いやそれでも凄いけど、しょぼいものって言いやがった。


「生贄で呪詛を作るなんて聞いたことないけど」


「いえいえ、戦争前はメジャーな術でしたよ。あのころは魔法と呼ばれていました。生活面はもとより戦いの道具、医療、通信、エネルギーなど、なんでも魔法で補われていました」


「マホウ。神が去ってしまい使えなくなった技法だって聞いたけど? 戦争前でもあったのか?」


 長殿が笑った。その笑みは愚か者を嘲笑うかのような、酷く馬鹿にされた音を孕んでいる。

 瞬間的にイラっとしたが、落ち着いて考える。

 多分、あたしの常識が間違えていると伝えたいのだろう。


「あたしはずっと世界は神に捨てられたと聞くが、いつから神は世界を捨てたんだ?」


「ふふふ」


 にこりと微笑みながら長殿は立ち上がると奥へ向かい、本棚の本を数回入れ替えた。

 すると軽い機械音が鳴り本棚が前に動く。本棚二段分の空洞が壁の中にあり、そこから一冊の古びたノートを取り出した。

 大切そうにそのノートを胸に抱えて戻ってくると、テーブルの上に広げた。


「保存の術がかけてあるので朽ちません。これは我が賢者のルーフジールが調べた八百年前の最古の資料。記録者はセアです。魔法の名残である精霊術について彼女はこのような文を残しています」





 王が死去し、ミウイ姫が王座に就いたその日に国民へ演説を行った。


『私たちは岐路に立たされています。暴悪族たちが精霊術を独占したあの日、私達は神に見捨てられました。魔法の力も取り上げられてしまいました』


『勇者達、彼らが亡くなったのは皆知っていますね。でも理由は伏せられていました。勇者たちは神が世界を見捨てたと知り、対話するための儀式をおこないました』


『儀式は上手くいきました。神に会うことができました。精霊術を禁止するなら世界に新たな術を授けてほしいと懇願しました』


『しかし神は聞き入れませんでした。そればかりか怒りを露わにして、人間に寄り添っている精霊を消滅させようとします。勇者たちは身を挺して庇い命を落としました。それが勇者の死の真相です。私はその光景をただ見ているだけしかできませんでした』


『でも私は知っています。ミロノとリヒトが私に教えてくださいました。勇者たちの肉体は滅んでいても、彼らの意思、魂は生きていると。みなの祈りが力になると。神に見捨てられた世界を愛し、人を選んだ精霊を守ることができると』


『みなさん、勇者を讃えてください! 彼らに力を与えてください! そうすることで世界の平穏や精霊の力が保たれるのです! 私は女王としてこの国を、世界を守ります。勇者と共に皆に平和を約束します』




 まだ数ページあったのだが長殿は音読をやめた。

 他のページは関係ないことが書かれているかもしれないな。


 さて、聞いていると疑問がいくつか浮かぶ。

 精霊術が使えなくなっているわけではないのに、神に取り上げられたと言われている。


 そんなわけない。この大陸の生物全員がアニマドゥクスという精霊術に寄り添って暮らしている。

 妖獣だって動物だって扱っている。

 精霊から力を奪うのが目的であれば、精霊の力を借りなければいい。名が付くことで自我を保つ性質のある精霊は自我を失い衰弱し消滅する。


 あたしは髪の毛を掻いて深く息を吐く。


「わけわかんない。でも、神に見捨てられたと広めたのはミウイ姫ということは分かった」


 ネフェ殿が「うんうん、わかんないよね」と同意する。彼女も話は聞いているが考えるのを放棄しているようだ。


「まぁ要約すれば王族の中でもとりわけミウイが怪しいこと言ってる、という内容です」


 長殿はさらっとまとめながら、ノートを閉じて立ち上がり、元の位置に収めてから、ソファーに腰を深く卸す。


 いやそんなに簡単にまとめなくても。気になるところちょこちょこあったはずだろ?


 眉間に皺をよせているあたしを一瞥してから、長殿は話を続ける。

 まだあるんだな。疲れてきた。


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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