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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第四章 賢者ルーフジール
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災厄の探究者①

 長殿は落ち着いた雰囲気をまとった。家長から一族の長に切り替わったようにも思える。

 この面だけ見たら、立派な賢者なんだけどなぁ。中身知ってしまったからちょっとだけうさん臭い目で見てしまう。


「宿意の紋について説明の前に、まずこの話をしましょう。どうしてルーフジール家は双子の勇者の子孫なのかという部分です……ぶふふふっ!」


 話の途中で突然、長殿が吹き出して笑いだした。口元に手をやって身を屈めてぷるぷる震えている。

 真面目な雰囲気が一分くらいで終了した。


 あたしが驚いてぱちくりと目を見開くと、顔を上げた長殿と目が合った。


「すいません。これをリヒトから隠し子説を聞いた時に笑い転げました。駄目ですね。思い出すとおかしくて」


 隠し子説は言ったのか。

 なんとなくリヒトを一瞥する。彼はどこ吹く風といったような、長殿の笑いに一ミリも動じていないようだ。ネフェ殿もいつものことと言わんばかりにスルーしている。

 

 あたしだけちょっと反応してしまったのか、ちょっと悔しいな。


「ということは。全くの見当違いってことか?」


 反応を返すと、長殿は両手を上げて肩をすくめて「その通り、全く見当違いです」と苦笑した。どうやら笑い終わったようだな。


「双子勇者の末裔が何故ルーフジールなのか。その答えはとても簡単です。双子の勇者と呼ばれた者達に妹がいました。私たちは妹の……セア=ルーフジールの子孫です」


「そうか!」とリヒト。

「なるほど!」とあたしが、同じタイミングで答えた。


 この辺りはリヒトも教えてもらってなかったんだ。きっとあたしが揃った時のお楽しみとか言われていたんだろうな。


「同じ兄弟である妹の子孫であれば、双子の勇者の子孫という表現は間違っていない」


 リヒトは何度か小さく頷いた。謎がひとつ判明してスッキリしているようだ。


「っていうか、妹がいたんだな。三人兄弟だったのか。知らなかった」


「男二人、女一人の三人兄妹です。妹、セアもまた魔術の扱いに富んだ逸材でした。兄たちに止められなければ戦争に参加するほど強く、そして男気があり気性が荒かったうえ、困っている人に率先して手を差し伸べていました。そのため晩年は大変無茶なことをやらかしたようで、彼女の子や孫が大変だったと文句を綴っています」


「気性が荒い……」とあたしが復唱すると、長殿は「まぁ一言でいえば」と言葉を濁した。


 おおう。好戦的で気性が荒く無茶苦茶なことやっているなんて、まさにルーフジールの特徴だ。ここから引き継がれていたのか。


「少々話が長くなりますが、しっかり聞いてください」


 長殿が手振りで食べるように勧めてきた。いつでも飲食していいなんて寛大だな。

 ネフェ殿はガッツリ食べており、対してリヒトは全く手を付けない。

 あたしはまぁ、飲み物だけもらうとしよう。




 双子の勇者であるルーフジールの出身族は、今のディオンテの山脈にあるタルガリア族である。

 タルガリア族は外部との交流を断っており、もし外部と交流を持てば厳しい罰が与えられたという。

 一族の掟に逆らってしまったルーフジールは山から追放された。

 追放された原因は記されていない。


 追放されたのは五人。祖父イルジー、父サルヴィオ、母トレイザ、そしてミロノとリヒトであった。

 セアは山を追い出されてから生まれた子供であり、シュタットヴァーサーの麓にあった名もなき村で暮らしていた。

 

 セアが七歳の頃、流行り病のため祖父が亡くなる。

 次の年、三年の渡る不作により食料が尽きてしまい、サルヴィオが路銀を稼ぐため戦争に傭兵として向かうが、半年後に帰らぬ人となる。

 残ったトレイザと兄弟たちはサルヴィオが残していた路銀で辛うじて食いつないでいった。


 その半年後、今度は流行り病でトレイザが倒れ帰らぬ人となった。この時、ミロノとリヒトは十五歳、セアは九歳であった。

 セアを養うべくミロノとリヒトは冒険者となり、雑用や妖獣討伐をこなして金銭を稼ぐ日々を送った。賃金が高い危険な妖獣退治依頼を率先して受け、死に物狂いで遂行していった。


 ミロノとリヒトが二十歳、セアが十四歳のころになると生活が安定してきた。

 二人は危険な依頼を請け負うことを控え始めて簡単な依頼を受ける日々が続いた。


 そんな矢先、ハレック族長討伐の依頼が二人に舞い込んできた。

 このころはシュタットヴァーサーがいくつもの民族を吸収し巨大な国を築いており、ハレック、ルキウェル、リット族の敗戦がほぼ確定であった。

 一族全滅を恐れたハレック族長は降伏を決意。息子であるトベラを差し出し人質にすることで三つの一族の存続を訴えた。

 シュタットヴァーサー王はそれを受け入れ、戦争は終結する……はずだった。


 再び戦火が切られた原因はトベラにあるとされる。

 城に招かれたトベラが王女ミウイと出会った瞬間、兵士から剣を奪い彼女を人質にして使用人を何十人も殺害してしまった。半日かけてミウイ姫を取り戻し、トベラはその場で処刑された。


 シュタットヴァーサー王は報復として、ハレック族長の暗殺を行う事を決意。依頼を実行できる者を探した。

 当時、妖獣はルキウェル族の魔術の産物とされていた。妖獣が倒せなければ族長を暗殺できないとされていたため、妖獣討伐で名をはせていたミロノとリヒトに白羽の矢が立った。


 最初は断ろうした二人だが、セアに危険が及ぶと判断し任務を請け負った。

 二人を含んだ十名の暗殺グループはハレック族長を暗殺に成功した。

 ハレック族長の死を知ったハレック達及びルキウェルとリットが怒り、大規模な戦争が始まった。

 これが最後の戦渦『暴悪の終焉』とよばれるものである。


 四年半に渡った戦いはシュタットヴァーサー側の勝利で幕を閉じた。

 ハレック族、ルキウェル族、リット族は精霊術を駆使して大勢の人を殺害した暴悪族と呼ばれることとなり、人類の悪として次々と弾圧されてしまい消滅した。

 そして精霊術は戦争の道具として扱いを禁止され、精霊術を使う者達は軒並み迫害されてしまった。


 当時のセアは戦争の内容など全く気に留めていなかった。彼女は兄たちが無事ならばそれでよかった。

 毎月の手紙のやり取りの中で『勝利の一端を担った』と書かれているたびに、セアは心躍った。『英雄と讃えられ褒美を貰えるので一か月後に戻る』という手紙を受け取ってから、これで兄弟仲良く過ごせると喜んだ。

 人同士の殺戮に怯えることなく、死と飢えに怯えることなく、幸せに暮らしていけるのだと信じて疑わず、ミロノとリヒトの帰宅をずっと待っていた。


 だが待てど暮らせど、兄達はいつまで経っても帰ってこなかった。


 二か月待った、三か月待った、半年待った……。流石におかしいと思う頃、セアの元に一通の手紙が届いた。


 『双子の勇者ミロノ=ルーフジール、リヒト=フールジール、死去』


 それは兄達の死亡を知らせる内容であった。

 その時初めて、セアは兄たちが勇者と讃えられていた事を知った。


 兄たちの死に絶望するも詳細を知るべく、手紙を送ってきた騎士団長に会うため王国に出向いた。王都は何故か悲しみに満ちていた。兵士及び国民たちは一様に勇者たちを失い喪に耽っており、「復興のシンボルを失ってしまった」と嘆いていた。


 大変不気味な光景だったと書かれている。


 セアは騎士団長に面会を取り付け、詳細を尋ねるが情報は得られなかった。

 他に交流があった者達を聞き出し会いに行くが、誰一人として『死亡時期、死亡原因は不明』であり、また『墓の場所』も把握していなかった。

 王都は土葬が主体である。兄達が死亡したなら、勇者と讃えられているならば墓があってもおかしくない。セアは王都が管理する墓場を……周囲の村や町の墓場までも足を延ばして探したが、発見できなかった。


 セアは強い不信感を抱き、この出来事を逐一記録することにした。

 そして必ず兄たちを見つけると強い決意を抱いた。


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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