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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第四章 賢者ルーフジール
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ユバズナイツネシス村へ帰郷⑨

 腹が満たされたので、ネフェ殿との会話を思い出してみる。

 母殿と同姓同名と言っていたな。ってことは、ルーフジールになる前も同じ家名だったのかな?

 あたしは母殿の家名は知らないし、教えてもらえなかったから、ちょっと気になるかも。


「そうね。リーンは実の両親を嫌ってたから話さないのかも。だからミロノちゃんも知らない方がいいと思うわ」


 ネフェ殿から唐突に返答がきた。

 あたしはぴたりと食べる手を止めた。ナイフを持つ手がかすかにふるえてしまう。


「ネフェ殿もサトリか……」


「ええ。この家では一番弱いけども、それでもニアンダちゃんよりは強いわよ」


 あたしは思わずクルトを見る。クルトはぎょっとして目を見開いたが、すぐに平静な顔になると頷いた。


「……はい。僕もです。母上よりは強いです」


「でも安心してね! プライバシーは読まないし読んでも口外しないから」


 ネフェ殿が愛想良い笑顔を浮かべているが、あたしはとっても背中が寒い。

 考え事が筒抜けなら、変な事を考えられないな。妄想とかも止めておこう。


「ミロノちゃんも妄想するの?」


 キラキラした目で聞き返された……。うぐぐぐぐ……丸裸とはこの事か。

 若干、居た堪れない気持ちになったが、スルーした。

 あたしの考えることってどうせ戦うことだし。


 一通り皆の食事が終わると、ネフェ殿が食器を重ねて持ち上げる。あたしが手伝おうとすると手で制された。仕方なく座ると、代わりにクルトが立ち上がり食器を持ち上げた。

 二人はそのままリビングの奥へ行くと、クルトだけはテーブル拭きを持って戻ってくる。ささっと手際よくテーブルを綺麗にすると、


「お待ちかねの誕生日ケーキですよー」


 ネフェ殿が直径20センチのワンホールのショートケーキを持ってきて、テーブルの中央に置いた。

 甘い匂いがふわっと香る。


 リヒトがゲッという表情をする横で、

「蝋燭刺すね!」

 クルトが15本のロウソクを刺していった。ロウソクを全部刺したところで長殿が手を叩く。

 パッと火が付いた。


 あれ? 詠唱やってないぞ?


 驚いて瞬きをすると、リヒトの口が小さく動く。


「いや、やっている。お前には音ですら聞こえないレベルだ」


「成るほど」


 流石、賢者だ。感興が赴く。

 次にネフェ殿がパチンと手を叩くと明かりが消えた。すごいな。


「準備が出来たわね! で~は~、お誕生日のリヒトくんとミロノちゃんでケーキのロウソクを『ふー』って消してね!」


「あんたに任せる」


 即座に真顔でリヒトにパスしたら、


「<風よ 息吹を減らせ>」


 リヒトはすぐに風でロウソクを消した。


「ああああああああああああ! リヒトくんのばかあああああああああ!」


 ネフェ殿が悲しみの悲鳴を上げながらリヒトの頭を叩いた。いたいと呟きながらリヒトは叩かれた頭を撫でる。


「楽しみにしていたのにいいい!」


 両手で顔を覆って膝を抱えて、びえーと子供のように泣きだしたネフェ殿。クルトがすぐに駆け寄ってよしよしと宥めながら、


「兄上、大人げない、メッ! ですよ」

 と、リヒトを軽く叱った。


 ネフェ殿の泣き声が小さくなったところで、クルトがあたしに視線を向けながら立ち上がる。

 そして丁寧に一礼。


「ご挨拶が遅れました。僕はクルト=ルーフジールといいます。両親や兄上と親しいようですが、僕とは初めてですよね? 簡単でよろしいので自己紹介をお願いしてもいいでしょうか?」


 色んな事をすっ飛ばしてしまったけど、まずはここからだよな。


 あたしは椅子から立ち上がり、一礼する。


「あたしはミロノ=ルーフジール。あいつと旅をしている者だ。剣術を嗜んで……」


「なるほどわかりました。武神の一人娘だと、父上からお聞きしたことがあります。兄上と同様に、呪いを受け継いだ方ですね。この度は不本意な討伐任務を背負わされてしまい、さぞ心労が大きかったでしょう。貴女が休息できるよう配慮します。なにか困ったことがありましたら遠慮なくおっしゃってください」


「あんたの実年齢いくつだ?」


 丁寧な言い回しに感謝を述べる前にツッコミしてしまった。


「十歳です」


「あんたみたいな十歳いるわけがない」


「誉め言葉と受け取っておきます」


 さらっと受け流した。この態度、間違いなくリヒトの弟だ。目つきといい仕草といいそっくりだ。

 違う点と言えば、弟の方が物腰が柔らかで人当たりが良く皮肉な感じが全くしない。


 あたしはリヒトを見ながらクルトを指し示した。


「そっくりだなあんたら」


 リヒトが面倒だと目を細めてから、皮肉な笑みを浮かべた。


「……誉め言葉だ」


「同じセリフでも全然印象違うぞ。まぁ、よかったな。兄弟仲良しじゃないか」


「どうだか」


 冷たく一蹴するリヒト。

 素直じゃないなと肩をすくめる。


「お二人とも仲が良いですね」


 クルトが無邪気に話しかけきたので、あたしとリヒトは同時に「違う!」と怒鳴ったのだった。

 こうして、なんだかんだで和やかなパーティーをしながら、夜が更けていった。


読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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