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わざわいたおし  作者: 森羅秋
第四章 賢者ルーフジール
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ユバズナイツネシス村へ帰郷⑤

 うおおおおおっ滅茶苦茶読まれている。

 傍にいるだけで完全に思考が伝わっているとなると、能力数値はリヒトと同じくらいなのか? 


 唖然としながら見上げていると、長殿の笑みにスッと切れ味が加わった。


 背筋がゾっとした。内部に何を飼っているんだこの人。

 親父殿と同類だけど違う方向でヤバイやつ……そうか母殿と近いんだ! だからなんか怖かったんだ! うっわー。鬼畜がいる!

 心の中を読まれていると分かっていても、叫ばなければ気が済まなった。


 長殿は人懐っこい笑みを保ったまま、手を小さく振って否定する。


「いやいや、リヒトの方が私より数倍上ですが、謙遜しすぎも皮肉になりますね。私も稀有なアニマドゥクスと言っておきましょう」


「あいつよりも遥かに上だろう?」


「ふふふ。そう捉えてもらっても結構です。ところで……」


 長殿の目があたしを見定める。

 これ吟味されてるなー。未熟者って言われる覚悟しなきゃ。

 

 身構えていると、長殿の顔がぱぁっとほころんだ。


「ミロノさん大きくなりましたねー! 初めて会った時は赤ん坊だったのに。いやー。リーンさんに似て本当にホッとしてますよー! 熊に似たら絶対に女の人生狂うところでした」


「は?」


 なんなんだ急に。

 っていうか、さっきはじめましてって言ったよな? 嘘だったのか?


「この容姿なら問題なく異性が寄ってきます。ほんと熊に似なくてよかった! それだけでもう安心です。ほんとリーンさんに似て可愛い! 熊の子とは思えないほど愛らしい! あいつが自慢するはずです。早く妻と会わせたいですねぇ」


 そのまま、わしゃわしゃわしゃと頭を撫でられた。


「よしよし。髪質もリーンさんかな。手入れしてないのにスベスベしてますね肌もスベスベでモチモチです。ホッペはクマ似ですかねぇ」


 今度は両手でガシッと頬を掴まれ、小さい子にやるように頬をモニモニされた。


 いやまてその行動。

 完全にニアンダ殿なんだけど!? 

 血が争えない!

 さっきまでの怖い気配どこ行った。なんで小さな花がぽんぽん生えている状態になっているんだ!?


 予想外の行動で呆気に取られて、ぽかんと口を開けたまま固まってしまった。

 長殿はニコニコしながらあたしの額を眺める。


「ニアンダと似てるのは当然です。だって人の頭や顔って気持ちいじゃないですか、触るの好きですよ。それに接触する方が色々詳しい情報が……」


「はあ!? なんだって!?」


 あたしはシュっと壁に移動して距離を取った。


「思考を読むだけじゃなくて、過去の記憶を掘り起こすタイプか! 親父殿が重々気を付けるようにって言ってたタイプのやつか!」


「嫌だなぁ、冗談ですよ」


 長殿がくすくす笑うが、冗談とは到底思えない。

 腹の中に抱えていた獣が見えたにも関わらず、油断したあたしが阿保だった。


 どんな情報を引きだしたんだよ! 危なくてうっかり近くに寄れねぇ!


 長殿がちょっと悲しそうに眉をひそめて、胸の前で自分の両手を握った。

 その手に持っている物をみて、すぐにあたしは額に手を当てて、衝撃を受けて固まる。


「な、なななな……額当て……いつの間に」


「呪印を見たくてつい。よく輝いていますね」


にやり、と人の悪そうな笑みを浮かべている。


「か、返してっ」


 咄嗟に一歩踏み出すと、長殿も一歩近づいて「はい。ごめんね」と言いながら、あたしに額当てを返してくれた。即座に結び直した。

 なんだんだよ手癖悪いなぁ! 額当て盗ったり心読みながら会話したり、あたしに何か怨みでもあるのか!


「いえねぇ。親として、リヒトの行動を知りたいと思っただけです。子供の活躍気になるじゃないですか」


「うわぁ。やっぱり冗談じゃなかった」


 なにを引き出されたかわからないのが怖い。


「だからこそ、礼を言わせてください」


 長殿は背筋をすっと伸ばして頭を深々と下げた。突然のことに、あたしは目を白黒させる。


「え? 何?」


「ありがとうミロノさん。息子を護ってくれて感謝します」


 長殿が頭を上げてにっこりと微笑む。


「あなたに関しては一切触れていません。何も知りませんよ」


 と取り繕うが、信用できないのであたしは苦虫を潰したような表情になってしまう。

 ダメだ、この人の前では冷静なツラを保てない。


「感謝される覚えはない」


「そのツンケンな態度も流石です。リヒトが気兼ねせず付き合えますね。あちら側は何世代に渡っても我々をよく理解している! 最初は不満で衝突ばかりですが唯一無二の親友になるんです。私と熊がそうだった。子供も例外ないとは喜ばしい限りです!」


 興奮するタイミングも似ている。やだもう他人なのに中身親父殿じゃん。


「失敬ですね。熊より遥かにマシです」


「目くそ鼻くそって言葉知ってるか?」


 悪口言ってみたが、長殿はスルーした。


「気づいていると思いますが、この村ではリヒトに友人はおろか、味方も殆どいません。貴女が支えてくれれば心強い!」


 長殿は気持ちいいくらい破顔になり、一歩、あたしに近づいた。距離をとるために後ろに下がろうとしてリュックが壁に当たる。


 あ、やっべ! 壁際まで下がっていた! これ以上後ろに下がれない。


「支えるつもりはないし、あいつも嫌がるだろう?」


「滅相もない。貴女のような人が傍にいてくれて安心しました。これからもリヒトを護ってあげてください」


 二歩近づいてきた。笑顔のくせに威圧感がビシビシとくる。

 ん? ちょっと待て。もしや、脅されている?


「貴女の守れる範囲で構いません。リヒトの苦手な部分を補ってほしいのです」


 にこりと固定された笑顔だが、どう相手を従えようか思案する色が瞳に宿っている。

 あたしは肩をすくめた。一蓮托生の約束があるからその部分は頷ける。


「護れる範囲ならば護ってやるつもりだ」


「有難うございます。ならばもう一つ、リヒトの親としてのお願いがあります」


 下出に出ているように見せかけてその実、あたしに拒否権はない。内容を聞くしかないんだよなぁ。


「なんだよ」


「呪いが解けても、リヒトと仲良くしてやってください」


 そのつもりであるが、素直に頷くのもなんか嫌だった。


「それはどうかな」


 未来は分からないとかわしてみる。

 長殿は「ぜひ」と乞うようなしおらしい口調をしているが、三歩、四歩と近づいてくる。


「是非に」


 スペースが奪われ追い詰められた。リュックを支えにするように体を傾けながら長殿を見上げと、真顔だった。


 人にものを頼む顔じゃねええええ!


 と、反射的に拳を出しそうになり、片手でガシッと手首を抑える。

 あっぶね、親父殿に見えて殴りそうになった。

 柔和な見かけとは裏腹に、長殿は心に獰猛な獣を飼いならしている。だからか、雰囲気や威圧のタイミングやその他諸々似ているんだ。


 落ち着けあたし。この人は親父殿ではない。

 嫌だからと言って殴って逃げるわけにはいかない。我慢だ。


「仲良くしてあげてください。この先もずっと」


 だからこそ、もどかしい! 殴ってしまいたい!


「ぜ・ひ、仲・良・く・し・て・く・だ・さ・い。こ・の・先・も・ず・っ・と」


 目が笑ってない笑顔は怖いな!

 断ったら何されるか分からない不安感煽りやがって。親バカにもほどがあるぞ。

 とはいえ、怯むあたしではない。親父殿と同族ならばわりとやりやすい。納得してもらう返し方を知っている。


 あたしはため息を吐いてやれやれと首を左右に振った。そして呆れたように長殿を見上げる。


「今は一蓮托生で動いているが、万が一、あたしが呪い抜きでもあいつと一緒に居たいと思えばそうするさ。……今の段階でつべこべ言うのは逆効果だと思うぞ」


「ふーむ」


 すっと長殿から威圧感が消えた。


「そうですね。それを期待しましょう」

 と、ポンと手を叩く。


 納得したようだと安堵する。

 本当に面倒な人だ。リヒト母もこれに近かったらどうしよう。


 話が一段落ついたところで、廊下の奥から足音が聞こえてきた。

 早足でリヒトがやってきた。旅の服から私服に着替えている。ラフなシャツとズボンにマフラーと同じ模様が刺繍されたポンチョを着ている。


 あっれー? 手足の裾が結構短い気がする。特に足元。八分丈のズボンなのだろうか。靴下の丈も足りていないので素肌が見えている。

 旅の間に成長したから服が小さくなったのかな?


 ジロジロ見ていたら、リヒトが怪訝そうな表情で近づいてきた。


「……お前、なんでまだそこに居るんだ?」



読んでいただき有難うございました!

次回更新は木曜日です。

物語が好みでしたら何か反応していただけると創作意欲の糧になります。

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