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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第2章 不和と重奏

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目覚めれば辛い現実

「お目覚めになられましたか?」

 目の前にティエがいた。上から覗きこむティエの前髪が垂れる。そこから覗く珍しい緋色の目は、茫然としているオレを映していた。


「ここは……。オレの部屋か?」

 ベッドに寝かせられていたのだろう。身体が怠い。


「もうずっと目を覚まされなかったのですよ。心配いたしました」

 起き上がろうとすると、ティエが手を貸してくれた。身を起こしてからため息をつき、オレは額を押さえた。


「……どっからどこまでが夢だったんだ?」

 古来種カルテジアンの力で力尽き、アザナのいい一撃をどてっぱらに喰らったわりに、自宅ベッドで寝かされているとなると――。全部、夢だったのか?

 もしかして、これも夢か?


「夢ではありませんわ。むしろ、私が夢かと思っている次第です」

「ああ、心配をかけたな」

 意識が無くて、ティエを心配させたと、オレは労いの言葉をかけようとしたが……。


「いえ、心配だなんて! 不安はあっても心配などいたしませんわ。ザルガラ様の幸せを前にして」

「そうか。……ん?」

 オレの幸せがなんだって?

 戸惑うオレの横で、ティエが両手を握り合わせて陽気にクルクルと踊り始める。


「だって、ザルガラ様が結婚なさるんですから!」

「誰がだよっ! 誰とだよっ! ……あ、夢か」

 急にオチが分かったので、オレは布団を被って寝てしまい目覚める事にした。

 ……ん? 

 なんか変だな。まあ、いい寝る。寝て目を覚ます。


「ザルガラ様! 結婚式をどうなさるおつもりですか!?」

「うるせぇな。オレはこれから目覚めるんだよ! 邪魔すんな、夢!」

「起きてるのに? 布団を被ったら寝てしまうでしょう」

 確かに変な話だな。


「さあ、ザルガラ様! お着になるドレスをお選びください!」

 ティエがどこからともなく、白いドレスが大量にさがるハンガーラックを引っ張り出してきた。


「なんでオレがドレス着るんだよっ!」

「それはザルガラ様に決まっております! あ、赤がよろしかったですか?」

 あまりの事態に、オレは飛び起きてティエにツッコミを入れてしまった。


「そうじゃねぇよ。結婚だけでツッコミどころありまくりなのに、なんで女装すんだよ、オレが!」

「……は? どうされましたか? ザルガラ様。性格がお悪くなったのですか?」

「そこは頭が悪くなったのかだろうが!」

「そうですか。ザルガラ様は頭がお悪くなられたのですね……」

「いやそうじゃねーよ! 頭も顔も悪くなってねーよ。オレがツッコミたいのはそこじゃ……」

 気が付く。

 オレは自分の身体に、憶えのない重みがあることを。

 重みは肩にかかり、揺れて胸元にぶら下がる。


「……む、むむむ胸ェッ!」

 オレの胸におっぱいがあった。デカイ。

 ずいぶんと鍛えなおしたな、オレ。すごい鳩胸だ。

 待て、こんな筋肉はこの世に存在しない。


 困惑するオレに、ティエがハンガーラックから取り出したウェディングドレスを翳して見せる。


「ザルガラ坊ちゃんは、ザルガラお嬢様になられたのです。もうすぐザルガラ奥様ですが」

「ウソ、やめて! 夢でもこういうのやめろって!」

 狼狽えるオレ。動揺するオレ。混乱するオレ。 

 そんなオレの部屋に、年寄りとは思えない大声を上げて、家令のマーレイが乱入してきた。


「ザルガラぼっちゃ……お嬢様! 新郎の入場です」

「いきなり新郎かよ! な……」

 ガァッ! っとマーレイを怒鳴りつけるが、マーレイが泣きながらとても幸せそうな表情をしているので、言葉を失ってしまう。

 そして、その隣りには、もっと言葉を失わせる存在がいた。

 アザナだ。


「ザルガラ先輩! お迎えに参りました!」

 またウェディングドレスか!

 ウェディングドレスを着たアザナが、ブーケを持ちそこにいた。


「なんで新郎なのに、新婦なんだよ!」

「あ、やっぱりボクがタキシード着るべきでしたか?」

「そうじゃねぇよ! オレが着るんだよ! じゃなかった。結婚しねーよ!」

「ザルガラ先輩を女の子にしちゃったから、ボクが責任を取るんだよ!」

「ど、どうやってオレを女にしたんだよ!」

「それはザルガラ先輩が古来種カルテジアンの力を使って、ボクと戦った時、最期の魔力弾の一撃が股間に……」

「やめろ! オレのかっこいいシーンをかっこ悪く改ざんするなぁーーーっ!」

 あれはどてっぱら! あれは腹に当たったの!

 やめて! シーンを差し替えないで!


「わかりました。リピートして確認してみましょう。あ、ザルガラ先輩のかっこいいセリフ(笑)のシーンだ」

「やめて、とめて、そこじゃないでしょ、リピートするところ。分かってやってるだろ! この外道がっ!」

 オレは空中に映像を投影するアザナに、後ろから飛びかかる。


 そのままオレとアザナは縺れ込んで……。


「明かりは消してください……。ザルガラ先輩」

 暗転――。




   *   *   *


「お目覚めになられましたか?」

 目の前にティエがいた。上から覗きこむティエの前髪が垂れる。そこから覗く珍しい緋色の目は、茫然としているオレを映していた。


「ここは……。オレの部屋か?」

 ベッドに寝かせられていたのだろう。身体が怠い。

 いや、この身体の怠さは現実的だ。


「良かった。夢か――」

「もう三日も目を覚まされなかったのですよ。ああ、控えの間にいるので、すぐにお医者様をお呼びいたしましょう。まずは異常がないか確認を……」

「いや、待て……」

 退室していくティエを呼び止める。が、慌ててオレの声など聞こえてないのか、ドアを開けっぱなしで走り去っていってしまう。

 パタパタとこれまた珍しいティエのはしたない足音を聞きながら、オレはベッドから身を起こし額を押さえた。


 ティエが慌てて立ち去り、却ってこれが現実だと理解できた。

 あの慌てよう。あれを見ると夢っていう気がしない。


「三日か……。いや、どこからどこまで夢だったのか」

 とりあえずウエディングドレスは夢だ。確実に。なんか前も見たし、あの夢。


 茫然としていると、ティエが医者を連れて戻ってきた。

 何事もなく診察され、魔力の使いすぎで疲れているだけと診断された。


「よかった、ザルガラ様。みなさん、心配なされていたのですよ」

「そうか。オマエにも心配をかけたな」

「いえ……。私はザルガラ様を心配されるお友達が、見舞いにいっぱいいらっしゃって大変、嬉しゅうございました」

「なにその、間接的にオレが倒れてたほうが、ティエには嬉しかったみたいな言い方」

「お目覚めにならぬザルガラ様のお姿に、このティエ。とてもとても心を痛めておりました」

「信用できねぇっ!!」

 居住まいを正すティエに、怒声を浴びせる。だが、ティエはほくそ笑んでいた。

 気に入らない。

 だが、こうしてオレが元気であることを、喜んでいるのは確かだ。


 オレに友達が増えたことも喜んでる。


 ところで、その友達ってホントいるよね?

 想像上の友達じゃないよね?

 来てるよね?

 と、心配していたら――。


「やあ、見舞いに来てみたら、たった今、目を覚ましたっていうじゃないか!」

 イシャンが服を着て現れた。

 夢か?


「ザルガラくん! 目が覚めたんだって! こ、これお見舞いの蒸しパン!」

 ペランドーが蒸しパンを持って飛び込んできた。

 またそれ鍛冶用の重曹つかってんのか?


 次はヨーヨーでもくるか?


「このたびは、不肖の弟が御迷惑をおかけいたしました」

 来なかった。

 ユスティティアが申し訳なさそうに、入室してくる。

 そして最後にアイツが――。


「ザルガラ先輩! 結婚しましょうっ!」

「なんでまたウェディングドレスっ!」


 ――暗転



   *   *   *


「お目覚めになられましたか?」

 目の前にティエがいた。上から覗きこむティエの前髪が垂れる。そこから覗く珍しい緋色の目は、茫然としているオレを映していた。

 ――三度目かよ。

 これもまた夢か?

 判然としないが、まずは確認したい事があった。


「なあオレの見舞いに、誰がきた?」

 オレの質問――。


 ――間。


 ティエが可哀想な物を見る目をし、慌てて顔を逸らした。


「……き、昨日の今日なので……。事件が事件だけに、事後処理などでまだ、誰も……」

「あ、じゃあオレあと三日くらい寝込むから」

「仮病ですね。わかりました。友達いっぱい見舞いに来るといいですね!」

 以心伝心。

 ティエは一から十まで理解してくれている。


 現実って辛ぇ~。

 夢は変だったけど、友達が来てンじゃん!

 この辛い現実からして、夢じゃないな、コレ。


 みんなっ! 

 誰でもいいから待ってるぜ!

 お見舞いに来てくれよな!



おわりました。

変な終わり方ですが、そのあたりの事情は活動報告で。


しばらくは脇役キャラの短編や、事後処理の短編などを書いてから、第3章を開始したいと思います。

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