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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第2章 不和と重奏

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ザルガラを倒す魔法

 来た。

 ヤツが来てしまった。隣の席に、ヤツが来てしまった。

 ヤツが来てしまったせいで、ステファンの行動監視がどうのって状態ではなくなってしまった。

 ステファンを監視するため、すっかり身近な危険人物を忘れていた。

 それなのに当のステファンは今日は休みだ。なんのために監視用の魔法陣を用意したのかわからないぞ。


 つまらないはずの授業に、なぜか緊迫感がある。

 

 危険物のヨーファイネ・カタランが復学し、オレの隣りの席にいる。

 あの危ない発言が飛び出したら、オレを巻き添えにしてくる可能性がある。

 オレのイメージが崩壊しかねない。

 ヨーヨーは今のところ大人しい。だが、いつあの危険な妄想を始めるか、分かったもんじゃない。

 視線を向けると、どんな反応されるか分からないので、オレは黒板を睨まざるを得ない。


「なな、なんですか? せ、先生、ザルガラ君に何か、その、しし、しましたか? しちゃいましたか?」

 緊張しっぱなしのオレが前を睨み続けてるせいで、黒板前のマトロ女史が必要以上にビビっている。

 いや、オレもビビっているんだが。


「気になさらず、授業を……続けてください」

 余計な事は言えない。隣りの女に刺激を与えては爆発する。

 オレの要求を聞いて、マトロ女史は眼鏡がズレるのも構わず、何度も頷いて見せた。


「ひい! は、はい。はい、分かりました! え、えー、ここここのように素体ゾムで投影された点と線……0、1次元までの魔法陣でも、一定の防御の効果がありー、そのー、無駄ではないんですよー。もっとも簡単で基本の2次元魔法陣、正3角形の魔法陣を頭上に投影できれば、か、傘になりますねー。雨の日に便利ですねー。あははー、なんちゃってー。ははは……」

 マトロ女史は黒板に向き直り、チョークで震えながらいびつな3角形を傘とする棒人形を書き始めた。

 もうちょっと真面目に授業をして欲しい。


 そんな緊張しつづけのまま授業が進み、やっと昼休みのチャイムがなった。


「ね、念願のチャイムですね。きりーつ、れい! あ、先生が号令しちゃった。はい、ランチ楽しみだわぁー」

 マトロ女史が生徒を見捨て逃げるように、チャイムが鳴り続ける中、教室から飛び出していった。 

 起立、礼のタイミングを失った生徒たちも、みな動きを止めたまま黒板を見つめ続けている。誰も昼食を取ろうとしない。

 なんだ、今日のこいつらなんか熱心だな。よく見ると、今日はマトロ女史が魔法陣をたくさん書いている。それらを憶えようと、真剣なんだろう。

 マトロ女史も、今日はほとんど振り返らなかったもんなぁ。

 

 それはともかく。

 オレはヨーヨーの圧力から逃げるため、一切そちらに視線を向けず、食堂へ向かうことにした。廊下に出て戸を閉めると、教室内から一斉にがたがたと音が聞こえてきた。

 ヨーヨーが追ってくるかと思い、オレは早々とその場を立ち去る。

 混雑する食堂の中なら、ヨーヨーが無理に接近することもないだろう。


 ぱたたたっ!

 っ! 来たかっ!


 ヨーヨーが追ってきたのかと思い、オレは振り返って身構える。


「なんだ、ペランドーか」

 オレを追ってきたのは、走るのがへたくそなペランドーだった。


「ふう、あいつも学園じゃ大人しいみたいだな。安心したぜ」

「どうしたの? ザルガラくん。今日、ちょっとおかしいよ」

 冷や汗を拭うオレのもとまで駆けてきたペランドーが、心配そうに声をかけてきた。


「いやぁ、なんでもないんだよ」

 考えて見たら、ヨーヨーは今までオレと接触がなかった。これからも大人しく、オレの隣りで一人静かにしてくれているだろう。

 スイッチを入れない限り。

 

 一先ず昼食だな。


「ペランドー。オマエも、今日は学食か?」

「いや弁当を持ってきてるよ」

「そうか」

 いくら魔法の才能があろうと、ペランドーは一市民である。学園の食堂が比較的安いとはいえ、それは貴族など富裕層から見ての話だ。

 オレは弁当持参のペランドーと共に、学食で食事を済ませた。

 その教室への帰り道。


 北校舎から南へ伸びる渡り廊下の出口で、鎖が落ちているのを見つけた。


「ん? なんだこりゃ?」

 オレは不用意に鎖を拾ってしまった。


「はぁん、捕まってしまいましたぁん」

 北校舎の外、渡り廊下に潜んでヨーヨーがいた。鎖はヨーヨーの緩い首輪に繋がっている。


「おぃ、こら。なんだそりゃ」

 罠にかかったわけだが、オレはそれを誤魔化すため強気で鎖を引っ張った。


「ああ、奴隷にされた途端、犬になれとご命令ですか?」

「じゃねーよ、なんのつもりだ? 言え」

「ああ、鈴を転がすようなわたしの声で、ワンと鳴けとご命令ですか?」

「うるせぇな。てめーの声は錫を打つ声だろ。黙ってろ!」


「ザルガラくん……それ、言っていいのか、黙るべきか、どっちかわからないよ」

 ペランドーに突っ込まれた。

 オレがショックを受けていると――。


「ザルガラ先輩……?」

 鈴を転がすような声が、オレの名を紡ぐ。それは背後から聞こえた。

 オレの胸が早鐘を打つ。心臓がうるさい。なのに、鈴のような声を打ち消せない。


「……どういう事ですか?」

 振り返るとアザナがいた。

 戸惑いとも、軽蔑ともいえない目で、オレから鎖、そしてくねくねしてるヨーヨーを見る。

 あ、やべ、鎖持ったままだった。


「え? ちょ、まって。違うんだ、待ってくれ!」

 鎖は産廃に繋がってる。これ、勘違いされるよな?

 ここは強くはっきり否定しないと。


「あ、いや、そのこれはその、あのな。この女は産廃なんだよ」

「女の子を、産廃なんて! ひどいですよ、ザルガラ先輩!」

 ズキッ!

 胸がなぜかいたい。


「ザルガラ様ぁああ、こんな可愛らしい子に、奴隷姿を見られてしまいましたぁ」

「ちょ、ヨーヨー! 少し黙ってろ!」

「ああん!」

 鎖を引っ張ると、ヨーヨーが大げさに四つん這いになる。


「見損ないました。ザルガラ先輩」

 アザナが半歩下がる。


「あ、いや……」

「奴隷だなんて……。サイテーです」

 アザナの口が尖って、オレを責める。

 いやいや、待てよ。

 謂われのない事態だが、アザナはオレを悪辣なヤツだと思ってくれるわけだ。

 だいたい、慕われてたのがおかしいんだよ。うん、そうだ。


 オレは開き直ることにした。


「お、おう! そうだ! オレはこういう悪いヤツなんだよ。わかったか?」

「……わかりました」

 うつむくアザナを見ていると、なぜか胸が痛い……。

 いや、これは戦いを前に、心が高ぶっているだけに違いない。


「そうか、わかったか! じゃあ、この奴隷を解放するために、オマエがオレを倒――」

「みんなに言いつけてやるーーーーっ!!」

「え、ちょ……」 

 アザナが泣きながらきびすを返し、走りだした。

 そこはヨーヨーを助けるとかしてくれよ!

 なんで、言い付けるなんだよ! 誰に?


「ザルガラ先輩のばかーーーーっ!」

「おぐぅっ!」

 アザナの捨て台詞が、胸に突き刺さる。

 すげぇ胸が痛い。オレは膝をつき、アザナを追いかけられなかった。


「な、なんだったんだ? ……今のは!? 新手の魔法か?」

 アザナが完全に見えなくなってからも、オレは立ち上がれない。すごい威力だ、この魔法。


「だ、大丈夫?」

 ペランドーがオレを気にして、手を貸してくれた。オマエ、けっこういい奴だな。1周目は裏切ったけど。

 

「大丈夫さ。オレを誰だと思ってる。ふ、嫌われて良かったくらいだ。オレはアザナの敵だからな、ははは。そうだよ、よかったんだよ、これで……。うん、そうさ。ははは……」

 残されたオレの前を、ユールテルが通り過ぎていく。すべてを無視するように――。視線すら向けてくれない。

 ああ、ユールテルにも見放されたな、オレ……。


「ああ、ザルガラ様が放置プレイされてます!」

「うるせぇ! てめぇのせいだぞ! 『見当違いな聖者の苦行!』」

 一人幸せそうなヨーヨーが許せない。オレは鎖に魔法をかけて、ヨーヨーを渡り廊下の柱に縛り付けた。


「おい! ペランドー! 今日は早退だ! アジトへいくぞ!」

「え、ああ、うん」

 オレはアザナが走りさった廊下に背を向け、学園を後にした。


 ああ、胸が痛ぇ……。

 今度の休みに、医者へ行こうかなぁ。




こうかは ばつぐんだ!

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