これで終って元通り?
「なんとか間に合ったなぁ」
ベルトランのレストランと孤児院の庭に跨って、用意されたパーティ会場の真ん中で、オレは安堵の声をもらした。
孤児たちも交じって、オレの友人たちが思い思いにパーティを楽しんでいる。
「ザルガラさん、いそがしかったんですね」
「準備はぼくらがほとんど終わらせておきました」
孤児の数人が、気を使いながら料理を持ってきくれた。
結局、準備の手伝いはあんまりできなかった。
最後にちょっと料理を運んだだけである。
「おう、ありがとよ」
気を使ってくれたので、少し会話でも……と思ったら、二人の孤児は照れるように去っていった。
「最近、オレも慣れてもらえたが、まだ距離感があるな。もっと近づかないと。……だがヨーヨー。オマエは近づかないでいいぞ」
「ひっ……す、すみません」
オレの腕にぶら下がるように抱き着いていたヨーヨーが、怯えながら飛び跳ねて後ずさる。
だが、すぐにおろおろと周囲を見回し、おどおどと徐々に近づいてきて、オレのマントをおずおずと掴む。
「なんなんだよ、オマエぇ」
「ご、ごめんなさい」
変態行動や発言はなくなったが、どういうわけか違う意味で距離感が近くなった。
もしかして、周囲がオレと距離感を取ってるのは、ヨーヨーのせいではないだろうか?
どういう風に見られているのだろう、と周囲を見たら全裸が目に入った。
全裸が目に入ったって表現って嫌だなぁ~。
「ほーら、見てごらん。これがトロフィーだよ」
「すげーっ!」
「裸で女装とかイシャンさん、パネェっす!」
イシャンはイシャンで人気モノだ。
安易な全裸が人気になるとは、やはり古来種の支配の影響は強い。
「おーい、そこ。全裸で参加している貴族と、貴族を貴族と思わないような態度のガ―キーどーもー」
会場の風紀が乱れるので、いつものように【極彩色の織姫】でイシャンに服を着させる。
イシャンが急に野暮ったい服になると、周囲の子供たちが笑いだす。
なんかいつもの光景を見て、孤児の男の子たちが悪影響受けないか心配だ。
「お手間をおかけしますね、ザルガラ様」
申し訳ないと、孤児院の会計などを任せているグッドスタインが頭を下げてきた。
いつも真面目でシャキっとしているヤツだが、今日ばかりは酒が入って陽気になっている。
隣には鉄音孤児院を任せているエルフのアマセイもいた。
こっちはいつものように、女のとしての魅力を失わないよう酒を飲んで飲まれていない。
「これからお忙しいと思いますが、わたくしたちがしっかりここを……子供たちとここを守っていきますので、ご安心ください」
「ああ、信頼してるよ」
アマセイの魅力のせいで、この会場の準備を手伝う男衆も多かったと聞く。
安心するというより、そういった手腕が信頼できる。
「ところでアマセイ。お忙しい。という表現のとき、ヨーヨーを見たろ」
「え、ええ」
さすがのアマセイも言い淀んだ。
「ヨーヨーのヤツがこんなになっちまって、オレもどうしようか悩んでいるんだ……」
「子供たちを怪しい目で見ることがなくなったので、安心できるといえばできるのですが」
オレに縋る今のヨーヨーは、かわいい子供たちに興味をもっている様子がない。
「これはこれで、アマセイのいう通り安心なのだが、どうも落ち着かないというか不安というか、言葉にできないモヤモヤがあるな」
「ザルガラせんぱーい!」
不安を口にしたとき、アザナのヤツが取り巻き連中を引き連れて、駆け寄ってきた。
会場に人が多いので、すぐにこちらへ来れない。
なかなかたどり着けないので、アザナはぴょんぴょんと跳ねて、重要な情報を叫んだ。
「先輩! ヨーファイネさんを元に戻す方法を見つけました!」
「何!? でかした……のかなぁ」
元に戻していいのだろうか、ヨーヨー?
おとなしくなったヨーヨーを、カタラン伯爵に見せたら喜ぶだろうか? 責任とって結婚しろというだろうか?
あとオレ個人が、戻ってほしいような、ないような……。
などと考えながら見ていたら、顔を赤らめてふいっと目をそらすヨーヨー。誰だ、コイツ。
「先輩……お似合いですね」
半眼で口を尖らせるアザナ。
「よし、もとに戻そう」
一刻も早く戻そう。
* * *
「すごいよな、ザルガラさん。歳なんて変わらないのに、どんどんすごくなって。そりゃもともと伯爵様の子だけどさぁ。なんかやっぱり違うよな!」
孤児の中に、純粋な憧れを口にする男の子がいた。
同調する子供たちも多い。
兄のように思い、誇らしいと感じている者もいる。
男の子たちの出世頭であるローイもその一人だ。
「イシャン様から聞いたけど、古来種様とイベントを行ったらしいよ」
「え? そうだったの?」
「へえ、すごいなぁ」
「うん。なんでもその……ミスコンテストを開催したらしい」
「マジで! ザルガラさんも女性に興味が!」
「うちでも開催してくれないかな!」
女の子に興味が出るお年頃の男の子たちが、ミスコンテストという言葉に一瞬盛り上がった。
しかし直後に、ローイの発言で困惑することになる。
「だけど参加者は男性限定らしい……」
「え? ええ……」
「なにそれ」
ローイからもらった情報の意味がわからない、と子供たちが肩を落として互いを見合う。
そのローイでも、ザルガラが詳しく説明しないため、イシャンから伝え聞く内容から、勝手な解釈をしてしまう。
イアソンコピーは、時間を一度巻き戻したとはいえ、ザルガラはコピーであると正直に説明した。
古来種がこの次元に降りてくることは、古来種の世界では犯罪であると今では周知されている。
そのため、イアソンが直接降りてきたのではなく、コピー体という代理が来たと思われたのだ。
しかも別次元で争った事実を、ザルガラは伏せた。これはまずルジャンドルには報告して、判断してもらうためだ。
結果、古来種のコピー体がザルガラのイベントに参加した、もしくは協力した。果ては一緒に開催したという話が広がってしまった。
もちろん第三回のコンテストということも伝わっておらず、ザルガラが新領地でなにか勝手なことをしたようにしか思えない。
「でもなんでミスコンテスト(ただし男に限り)なんて開催したんだろ?」
「そりゃぁ……」
誰が疑問の声を上げると、孤児の一人がアザナを見る。
つられてみんながアザナを見た。
ザルガラを見上げるアザナの横顔は、孤児の男の子たちを惑わせるほどだ。
時折、横切るベルトランの一人娘マルチと、入れ替わってもわからない。
「ああ、そっか」
納得する子供たち。
「わからなくもない……」
一言つぶやいた少年に、子供たちの視線が集まる。
「そ、それはともかく、ここで同じこと開催されちゃたまらないな」
なかったことにするため、最近孤児たちのリーダー格であるローイが話題を逸らした。
「あ、ああ、そうだな」
何人かが、ローイも似合いそう、という目をしていた。
悪くないかな、と思う女子もいたがごく少数であることを明記しておこう。
今回にてこの章は終わりです。
引っ越しにともない生活環境が激変し、この章はとても苦労しました。
どうも悪い癖である、いくつもの話を混ぜるやり方をしてしまいました。
反省して前後編くらいの短編で、軽快に話を進めていきたいと思います。




