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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第8章 楽園の破壊者

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抵抗する者たち


 トゥリフォイルとの戦いは、まだ終わっていない。

 

 立方陣を組み合わせた鉄の鎖で縛り上げ、体内から発せられる投影魔法陣も攪乱して相手を無力化する【見当違いの聖者の苦行】というこの魔法。

 実は、有力な魔法使い相手だと、維持に力を割かれる。

 

 アザナ相手ではすぐさま解除されるか、書き換えられるだろう。

 古来種でも、相手の実力次第で危ない。

 さらにこの魔法は、もともと対人用の魔法である。


 そしてトゥリフォイルは超越者を自称するだけあって、能力が危うい水域にいる実力者だ。

 

 デュラハンはおおざっぱに言えば騎士であり、魔法については魔法使いと言えるほどではない。……あれ、こいつ馬とか馬車どうしたんだろ。

 ――まあいい。

 とにかく解除するような魔法は使えないが、有り余る力と基本的な魔力と無尽蔵の体力がある。


 今も鎧の頑丈さを頼りにし、力と魔力で【見当違いの聖者の苦行】を破壊しようとする。

 そして魔法使いでもないのに、魔法の書き換え……といっても魔法の効果を変えるほどではなく、除算的な書き換えで魔法の効果を薄めようという手段を講じていた。


 ヤツは必死にもがいて、魔法で作られた鎖を破壊しようとし、隙あらば、書き換えを試みてくる。

 対してオレは、魔力を追加で送り込み、魔法陣の書き換えを妨害をする。


 はたから見たら、お互い何をしているかさっぱりという攻防。


 とても地味な戦いである。

 この地味な戦いのさなか、オレは自信満々に胸を張って誇らしげに自慢をする。


「オレはあの小屋での光景を見て、将来の目標ってものが出来た。どうだ、すごいだろ?」


「すごいだろう……って、それの……どこが自慢なのでしょうか?」


 地面に落ちている頭が、あっけにとられた表情をする。

 あっさりしたオレの自慢に、首無しが疑問を持つのも当然だ。


「ああ、それだが……。とくと自慢してやる前に、ちょっとオレも聞きたいことがあるんでお話しよう。オマエの見せてくれた未来。ああ、ひどい未来だな。差別や憎しみが抑えられない未来。それ見て、オマエはなにをしようと思った(・・・)


「それは……」

 

 トゥリフォイルの歯切れが悪い。同時に【見当違いの聖者の苦行】への抵抗も緩んだ。

 言葉を選んでいるのか、オレの睨んだ通りなのか……。


「今更、親の顔をしてこの世界へ降りてくる古来種カルテジアンへ未来を……現実を教えようと思いました、が……それがなにか?」


 意外なことに、トゥリフォイルは正直に答えた。

 これにオレは、やはりそうかと肩を落として見せる。


「そうか。……はぁ。つまり当てつけか」

  

 オレがそう評価すると、書き換えの圧力が強くなった。トゥリフォイルの憤りが、魔法陣書き換えの乱暴さに現れたようだ。


「なるほど、ね。なるほど。未来が変わらないって分かっているから、当てつけも自分の力を最大限に利用した発想だ。悪くない」


 会話中も書き換えを挑んでくるトゥリフォイル。


 先読みの効果があるのか、書き換え箇所がいやらしい。

 しかしながら、剣の戦いならともかく、魔法陣の書き込み書き換えの対決ならば、いくら先読みされようとオレの速度の方が早い。

 

 地味な攻防が続く。


「気に入らないから邪魔をする。言う事をきかない。命令をきかない。相手のミスを大げさに取り上げて叫ぶ。そういうことをしようとしたわけだ。で、実際にそこの小屋でやってみせてくれた」


「そういう風に捉えるの? そうして私の行動も矮小化させて見下すつもり?」


「ああ、違うんだ。勘違いするなよ。実行したことはどうでもいいんだ」


 当てつけの結果、獣人たちを痛めつけることに、彼女がなんら呵責を持っていないのは仕方ない。所詮、デュラハンは不死者でありモンスターであり、解放されれば潜在的には敵である。そして何よりこれは、古来種の支配から解放された結果だ。

 価値観が大幅に違ってしかるべきでり、悲しいが自然なことだろう。


 だが、とにかく問題はそこじゃない。

 実際はどうでもいいわけじゃないが、オレの自慢についてはどうでもいい。


「ザルガラ・ポリヘドラ。貴方は何がいいたいのですか? あの古来種は人間たちを導くという名目のもと、多くの支配者気取りな古来種を巻き込んでこの世界に降りてくるのです! 一矢報いる、噛みついてみせるくらい当然の権利でしょう」


「で、その矢は折られ、牙は抜かれて地上のオレたちはまた支配され、逃れた者や解放された者たちは、互いに争う未来がくると?」


 アザナの別存在が挑んで、敗れ去った未来。それに近似する未来を、彼女は見たのだろう。

 聞いて知っているが、それを首無しに教える必要はない。

 推測した結果のように言ってみると、トゥリフォイルは魔法解除も忘れて興奮し始めた。


「そうです! 気に入らないでしょう? 支配された過去も、捨てられたいままでも、あんな未来も、すべて許せないでしょう! 支配者で保護者気分だったルドヴィコに、現実を見せつけたあの顔! 痛快だったでしょう!」


「……で?」


「で……って、何も思わないのですか?」


「思うさ。思うから逆に聞く。その程度しか思わないのか?」


「ほかに……なにを……?」


 本当に分からない。そんな顔で、魔法解除の手をゆるんでいる。

 オレは呆れるより、なにより残念で肩を落とす。


「決まってんだろうが。親を超える。師を超える。支配者を超える。つまり古来種様も超えてやる。未来だってかえてやるって思わないのか?」


「そんなこと、できるわけないでしょう! 未来はどうしたって変えようがありません!」

 

 即、反論が跳ね返って来た。

 舐めるな、口ケンカじゃ負けねぇぞ! 


「できる、できないじゃない。やるか、やらないかでもない。そんな立派な話じゃないんだよ。もっと低次元な話……超越者だというオマエは本当に――古来種を超えやると、一度でも思ったことがあったのか?」


「思うだけに、なんの意味が……ぐぅっ!」


 できるわけがないという顔で答え、魔法陣の書き換えはすっかり止まっていた。

 抵抗が無くなり、魔法の鎖がトゥリフォイルの鎧を軋ませる。


「そうだな。思うだけで、なにもやらないってヤツも確かにいるが……。今回ばかりはそういう話じゃない。例えばオマエ、超越したとか解放されたとか言ったが、オレからすれば、ぜんぜん、まったく、これっぽちも解放されちゃいないし、超越もしていないと断言できる」


「超越とはそういう意味では……」


「ああ、分かってる。超越ってのは、今までの中位種を超えたって意味だろ。だから、その超えた枠をさらに超えようと思わなかったのか? まさか上位種と並んで、満足してしまったのか?」


「だってできるわけがない……。その意味も……ない……。ただの理想」


「そうじゃない。まず超えてやる、見返してやる、勝ってやると、思ったことはないのか?」


「そ、それは……それに意味が……理由が……」


「やっぱりか……。じゃあ、ただの反抗期の駄々っ子だな」


 オレは中位種を超越したトゥリフォイルを、そう評価した。

 力がなまじあった。逆らおうと思えば逆らえた。だから力の分だけ精いっぱい、逆らうだけに留めたわけか。

 自分の力で出来る範囲を、全力で実行したわけだ。

 やり方はともかく、一生懸命は良いことだ。

 だが、所詮は出来ることをやったにすぎない。90点を取れる奴が、90点の範囲で努力して、90点を取っただけだ。


「親が気に入らないから家出するだの、言うことを聞かないだの、親のダメなところを探して引きずり下ろそうとか、その程度の反抗……。自分が出来る範囲のことをやって、『うまくいった』だと? 自分の出来る範囲ならできて当然だ」

 

 これはある意味で能力ある側の暴言だが、相手も能力ある者なので構わない。


「だから今からオレが言うことは説教じゃねぇぞ! 自慢だ?」


「え?」


「え? ……じゃねぇよ。ここでまたオレが自慢を披露するんだよ。自慢だが、オレはこの惨状を見て思ったね。ああ、いずれこういう未来がくるなら、今のうちに手を打っておくべきだ、とね」


 自慢だが続く発言は、ちょっとさまにならないだろう。

 だがオレは、自信を持って自慢をする。


「どうしたらいいか、やり方も思いつかない。だが、そう思った。出来るかどうかも、やるべきこともわからんから、どこから取りかかればいいかもわからない。計画どころか、いつから始めようか、学園卒業してからかな。なんていう、そんな程度の浅い思いつきだ。それすら浮かんでこなかったのか?」


「し、仕方ないじゃない! 目的は、古来種に現実を見せつけることよ! なんでそんな大それたことをしなくちゃ……いえ、やろうなんて思わないといけないのよ!」


「そうか、分かった。逆らって自己主張したり、嫌がらせして困らすことばかり考えて、自分は何も背負い込まないつもりだったのか……」


 幻滅したという態度を見せると、トゥリフォイルも何かを察したのか反論を飲み込む。


「しょせん、オマエも才能の範囲で、精いっぱい努力したってクチだ。中位種の限界を生まれつき超えていただけで、古来種どころか自分の限界を超えようなど考えたことすらない。オマエは解放されたなどと自慢していたが、古来種の支配の魔法から逃れただけで、精神的な力関係でまったく解放されていないんだよ」


「……な」


 ついに反論も抵抗も消えた。

 トゥリフォイルもやっと理解できたようだ。


 抵抗が完全に消え、鎖がトゥリフォイルの身体に食いこむ。


 古来種の残したシステムが気に入らないのに、壊そうとか、変えようとか、改善しようとか、そういう発想すら出ない理由。

 たしかに支配の魔法からは解放されたが、まだ心は奴隷だったと気が付いたようだ。


 魔法の支配がないからこそ深刻である。

 つまり、トゥリフォイルは心を魔法で支配されていないのにも関わらず、敵わないと負けを認め、システムを変えようなどと思いつかないでいた。


 あらゆる意味で負けを認めたのか、トゥリフォイルは束縛を解くことを諦めた。再度、抵抗を試みる様子もない。

 だが、地面に転がる頭の目は、まだ光を残していた。

 オレを睨みつけ、トゥリフォイルが叫ぶ。


「くっ、殺せ!」


「首、斬り落とされてるよね、オマエ」


 オマエはすでに死んでいる。

 そう宣言しようとしたその時、空を切り裂き高速飛行でアザナがこの場に降り立った。


「ザルガラせんぱーい。イマリーさんに終わったと聞いて……って、な、なにをしているんですか!」


「な! アザナ、オマエ、なんでこのタイミングで!」


「……くっ、殺せ!」


 よほど大事なことなのか、トゥリフォイルは二度繰り返した。

 さきほどまで過剰な抵抗をしていたため、【見当違いの聖者の苦行】の鎖が普通よりも彼女の身体に食いこんでいて、ちょっと言い訳が出来ない状況だ。

 頭は頭で転がっていて、なんとなく猟奇的だ。


 トゥリフォイルの発言と、この光景を見て、みるみるアザナの表情が硬くなっていく。


「一応、これも女騎士……。それにくっころ……まさか。……先輩。なにをしてたんですか?」


「ま、待て、アザナ! 目に見える今だけで答えを出すんじゃない!」

 


申し訳ありませんが、もうしばらく忙しいため、感想と誤字訂正への対応ができません。

月曜あたりに対応いたします。

いつも感想並びに誤字報告ありがとうございます。

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