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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第8章 楽園の破壊者

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夢語りをする超越者


 オレは久方ぶりの緊張感……ってモノを味わった。


「なるほど……。たかが首無し騎士と思ったが、コイツぁは認識を改めなくちゃいけないな」


 首無しの騎士は、剣と鎧で魔力弾の連打をしのぎきり、掘っ立て小屋から見事に脱出していった。

 その動きは、重い鎧を身に着けているとは思えない俊敏さだ。


 油断すればこっちが足元をすくわれる、と気持ちを引き締める。

 もともとつながっていない首を、先ほど一度は落した。だがアレは、不安定な載せかたをしていたせいで動きが悪くなっていて、そこへ運よく当たっただけのようだ。

 首を小脇に抱えられた途端、こちらの攻撃は鎧も利用されて無難に防がれてしまっている。


 左手を封じているはずなのに、動きも剣捌きも増すか……。この辺りはさすが首無し騎士といったところだ。


「トゥリフォイル……といったか、首無し騎士さん。デュラハンといったら、玄関開けて2秒で宣告のうたい文句で有名だが……。オマエはどうやら並みの中位種じゃないらしい」


 首無し騎士の実力を認め、けん制と本命の魔力弾をいくつか叩き込む。だがまるで演劇の立ち回りのように、すべてがトゥリフォイルの剣によって払い落されてしまった。

 しかも最初から当たらないような攻撃は、しっかり見切って手を出そうとしない。


 オレがどこからどうやって魔力弾を撃ち込むのか。それがわかっているかのようだ。


 トゥリフォイルは涼しい顔で全てを受け切り、剣を払って胸の前に翳す。

 魔力弾を剣で打ち消すことは自体は、魔法で強化された剣を持つ一流の剣士であれば難しいことではない。魔力弾は物理的破壊力が乏しいため、強化された剣に対して有効打を与えられないし、重みや衝撃がないため腕に負担も与えられない。

 だが、何十もの魔力弾を的確に叩き落とし、いくつか喰らっても鎧の厚いところで凌ぎ、なおかつ弾幕の薄い場所へ位置取りするなど達人の領域といっていい。


 これが達人か……。

 少なくとも、オレは武器の達人と出会ったことがない。

 アザナの取り巻き……ヴァリエも未来においては相当なものだったが、達人というほどではないだろう。

 剣の達人など伝え聞くお話の中で聞いただけだ。


 それでも、ひとまずトゥリフォイルを押し出したので、ルドヴィコに村長の責務を果たさせるよう促すことにする。


「おい、そっちの人たちの安全確保は、最高責任者の村長さんがやってくれよな!」


「し、しかし……いや、わ、わかった」

 

 ルドヴィコは首無し騎士から、家畜小屋の惨状についてを聞きたかったようだが、すぐに自分の立場を思い出し行動に移した。

 まだ衝撃から抜け出せないようだが、捕らわれた獣人たちを守ろうという意志は感じ取れた。

 古来種は支配者であり、超越者でもあると弱者を守る気持ちは持ち合わせているようだ。

 少なくともは。


「どうかしら? 解放がもたらす未来の光景は?」


 かばうため獣人たちへ寄り添ったルドヴィコに対し、トゥリフォイルが死の宣告の代わりに、絶望の宣告を浴びせた。


「ただ見せつけるだけのために……こんなひどいことを……」


 感情的だがルドヴィコは怯える獣人たちを宥め、首無し騎士にもっともな意見をぶつける。

 対してトゥリフォイルの反応は冷ややかなもので、弱々しい声は冷たい全身鎧に阻まれたかのようだった。

 そのせいか、首無し騎士の答えはどこかズレていた。


「いいわよね……人は……。古来種の創造者に似ているから、何かと特別扱いされてて……ひいきよね」


「こんなひどいことを……」


 首無し騎士の気になるひいき発言に対し、ルドヴィコは独り言を繰り返して無反応だ。

 ルドヴィコは独り言で、トゥリフォイルは愚痴。

 そしてルドヴィコの中身は古来種であり、外はエルフであって人ではない。つまりトゥリフォイルのいう「人」は彼のことを差していない。

 これはある意味、お互いが独り言を言ってるような状況だ。


 しかし、「ひいき」の意味が気になったオレは、情報を引き出すためディスコミュニケーションをしている二人の間に割って入った。

 

「そういえば以前、首狩りウサギもそんなことを言っていたな。オレたちは古来種の創造主に似ている、と」


 口を挟むと、小脇に抱えられていた首がこちらに向けられた。しっかりトゥリフォイルは反応してくれた。

 よかった、会話する気はあるようだ。


「そう。姿形のない古来種を作ったとされるのが人間……。いえ、似ていたから、古来種は創造主と同じように『人間』と貴方たちを名付けたの。力こそないけど、姿が似ているというだけで遺産の継承を認められている」


 古来種の創造主が人間と呼ばれていたか、そう自称していたのだろう。だから、古来種は似ているオレたちを人間と呼ぶわけか。

 古来種の仮初の身体にされた側にとっては、いい迷惑だ。

 しかしそれでも人は、全体的に優遇されているというのは納得できる。


 なにしろ去った後とはいえ、人間にだけ国を作ることを許し、遺跡と遺物はその維持に利用してよいとお墨付きをくれている。

 上位種なる存在もいるが、あれは力があるゆえに、当時の統治に利用されていたとも見れる。 


 いったい創造主……オリジナルの人間とは何者なのだろうか?

 どんな力を持っていたのだろうか?


 それを訊きたかったが、トゥリフォイルの続く言葉はまったくの別物だった。


「翻ってみてわたくしたちモンスターは、障害扱いか狩りの対象。守る区画が解放されたら、今まで戦っていた人と仲良くさせられる運命。ですが、それに疑問すら抱かないほど、古来種に支配されている気持ち……わかるかしら?」

 

「汚いよなぁ……。その『わたしの気持ちわかる?』とかいう、問われた側はどう答えても無駄になる質問って汚い」

 

 どことなく独り言……いや面倒な愚痴っぽい反応がきたので、ちょっと揺さぶりをかけてみる。


「話をはぐらかさないで!」


 トゥリフォイルの態度は感情的なものだった。どうやら真面目に愚痴を……、この世界に不満を言っているようだ。

 たしかにオレたちは優遇されている。ただ管理だけさせられる遺跡のモンスターたちとは、扱いが明らかに違う。

 なので少しは真面目に付き合って上げないといけない。


「分かってるよ。短くまとめて、不平等だなぁって話だろ。程度の違いはあれ、人間でも下位、中位とかあるし、同時にそんな違いどころじゃない不等と理不尽さがオマエたちにあるってのも、常々気になっていたさ」


「気がついていたのね。そこを疑問に思うということは、貴方も解放された……わたくしたちは理解しあえるはずよ」


 なぜかモンスターに仲間扱いされた。

 一緒にされたくないが、一緒にしたい気持ちはわかるので、あまりそこにツッコミは入れない方がいい。


「古来種の創ったこのシステムに疑問を持ったのが先か、疑問に気が付いたから解放されたのかわからないけど、わたくしは古来種の創ったこの世界のことわりから逃れることができたのよ」


 うーん、オレは古来種の創造者について聞きたいんだが……しょうがねぇなぁ。解放されたというトゥリフォイルの言い分も追及したい。


「……それは蛍遊魔とは違うのか?」


 たぶん、トゥリフォイルは自分のことを語りたいんだ。

 ちょっと聞いてやってもいいだろう。 

 それに情報を引き出すなら、無理に聞き出そうとしても無駄になるだろう。うまく語らせて、情報を引き出すほうがいい。


 ちょっと気になるし。


「蛍遊魔とは違います。支配から……束縛から逃れた超越者です」


 トゥリフォイルはどこか嬉しそうだった。

 解放されたことに加え、オレという仲間を見つけて、嬉しくてしかたないのだろう。わかる。

 すごいわかる。だが……


「……だからって、こんなことをする理由の説明にはなっていない」


 うわ、びっくりした。

 後ろで落ち込んでいたルドヴィコが、陰鬱な低い声で割って入って来た。


「……夢を見たわ」


 此奴トゥリフォイル此奴トゥリフォイルで、やっぱり独り言気味だ。

 ……なんか、この間に立つの辛い。


「この村のあり方が伝播して、超越もせず古来種の支配から解放されるものが増えれば、弱者は他者を恐れる余り自分と違う物を排除する……。ここで起きたことはいずれ世界全体を覆うことでしょう」


「ふーん……【ただし摩擦は無いものとする】」


 言い分をだいだい把握したオレは、ある推論を確かめるため(暇なので)不意打ち気味に魔力弾を一発、トゥリフォイルへと放った。

 会話の途中なのにもかかわらず、トゥリフォイルは特に驚きもせず、これを剣で叩き落とす。

 反応がよい、という次元ではない。

 わかっていた、知っていた、という動きに見えた。 


「古来種への警告。という目的は果たしたから、もう退いてあげていいけど……」


 お、あんまり不意打ちに怒ってない。こりゃ確定か……。

 しかし逃亡防止のためタルピーを配しているのだが……、どうやら相手は逃げる気がないらしい。

 タルピーの出番が無くなった――などと考えていたその時、剣先と殺気がこちらに向けられた。


 全身鎧を着た動きとは思えない速さで、トゥリフォイルの身体が前のめりになり、剣の先がオレの眼前に滑り込んでくる。

 隠し持っていた短槍で防ごうかと思ったが、まったく反応が出来ない。


 幸い、分厚い防御胞体陣があるので無事だったが、3角陣にして8枚ほどが吹き飛んだ。

 

 返す剣が迫って来た。ひとまず横に飛び退き、この攻撃を躱す。が、追撃を受けてさらに3枚ほどの防御胞体陣が削られた。

 接近戦ではまるで敵わない。

 オレならば、例え相手が達人であろうといくらでも防御し、傷を負わないで戦える。

 だが、ただでさえ攻撃が当たらないのに、至近距離で防戦一方とは情けない。


 魔力弾を使わず、消滅させることだけを考えれば倒せるが……それでは勝ったとは到底言えない。


「私の見た夢に、貴方の存在はここになかった……。不確定要素は…………消す!」


「結構、短絡的だな! だが死の宣告とは、デュラハンらしい!」


 そう、デュラハンだ。

 夢の話や先読み染みた達人的防御。そして死の宣告というデュラハンの持つ特殊能力から類推するに――。


「オマエの力……、予知能力か」



GWなどなかった……などと言い訳できないほど、更新遅れました申し訳ありません。


デュラハンの死の宣告は、本当に予言だったり一年後に殺しにくるというただの殺害予告だったり、よくわからん血を浴びせるだけだったりいろいろ逸話ありますが、予言の話を拾いました。

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