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【完結】悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第8章 楽園の破壊者

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バイカスルエンブ


『ザルガラさまーっ! しっかりしてー!』


 勝負は決した。

 うつ伏せに倒れたザルガラの頭を、タルピーが1秒間16回くらいの速度でシェイクする。


 その様子を見下ろす勝者ルドヴィコの目の前には、正16胞体陣が浮かんでいた。


「これは……驚きました。完全に意識を絶ったハズなのに、投影胞体陣を維持させるとは」


 この胞体はルドヴィコが投影しているものではない。

 気を失っているザルガラが、事前に投影していたものだ。

 通常ならば、消えてしまっているはずの胞体に、ルドヴィコは驚きを隠せない。


「昨日、勝負が決する直前に転移魔法を発動させたと思ったのですが……。なるほど、条件付きで転移魔法が発動する仕掛けですか。まさか……その条件が気を失ってからとは……」


 触れて解析したルドヴィコは、消えない胞体陣の出来の良さに閉口した。


「前回は気を失うと同時に転移したようですが、今回は発動に失敗したようですね……。それだけ転移と気を失った後も保持できる胞体の両立は、難易度が高いわけですね」


 通常、投影された図形は、平面、立方、胞体などの難易度に関わらず、術者が気を失えば消える。

 これは古来種の投影した胞体陣であろうと同様だ。

 

 無意識に維持できるザルガラは、特殊な才能を持っているのだろう。ルドヴィコは底知れぬ少年に畏怖した。


 畏れたゆえに、このままにしておいてはならないと、ルドヴィコは決意する。


 一歩踏み出したルドヴィコの不穏な気配を察し、ザルガラの頭を高速で揺すっていたタルピーが立ちはだかった。


『ザ、ザルガラさまになにをするつもり!?』


 小さな幼女姿ということもあり、立ちはだかる姿がよりいっそう健気に見える。

 ルドヴィコはその健気さに圧(お)されて足を止め、仕方ないな、という様子で言い聞かせる。


「理由はわかりませんが、彼は完全に古来種の束縛から解放され、自由意志で私の理想に盾突いています。どうしてそこまで不満があるのかわかりませんが、不本意ですが障害は取り除かなくてはなりません」 


 言い聞かせるというより、理由だけを説明する言葉だ。無論、そんな言葉でタルピーが引き下がるわけがない。


『させない!』


 タルピーの周囲で火が爆ぜる。

 歯向かう上位種を見ても、ルドヴィコは脅威と感じない。上位種より上なる存在である彼にとって、タルピーは見た目通り子供も同然だ。

 真の姿がどうであろうとも――。


「タルピー。君は上位種とはいえ、たんなる精霊から引き上げられて、その力と自我を持っている存在です。逆らうだけならまだしも、最初から古来種……であるこの私に歯向かえば……ただの自然現象に戻るでしょう」


 タルピーは管理者として上位種は、古来種に力を与えられた存在にすぎない。

 最初から力や意志があったわけではなく、ただ自然界で大きな現象であっただけだ。自然の力は一見すると強大だが、現象である以上、法則に縛られている。

 現象は原因がなければ、力を発することはない。力を秘めただけの存在は、ただの状態に過ぎない。 

 タルピーの真の姿は、まさに状態量(エンタルピー)に過ぎないのだ。


『ぐぬ……』

 

 自我を失う恐怖にタルピーが怯(ひる)む。

 だが、それは一瞬のことだった。


『アタイにとってたいせつなのは、アタイ自身じゃない! ましてや古来種さまでもない! たちあがれ、アタイ!』


 タルピーが望むと、周囲の状態量の内、不条理にも熱量だけが増大し、熱力学上の仕事が激減する。

 彼女にとって、理由も原因も経路もすべて関係ない。なんの仕事(・・)もせず、タルピーの欲しい熱が、そのまま周囲に熱として現れた。


 ただの自然現象に戻れば、もう二度と望む熱を得られないだろう。自然の起こす仕事と秘めた熱量の総和だけの存在となる。

 そもそも何かを望む、という意志すら失われるが、それでもタルピーは古来種ルドヴィコに立ち向かった。 


『いけ、アタイ! タルピーッ、ゴーッルバッチョグフゥッ!』


 文字通り、決死の――消滅の覚悟で飛びかかろうとしたタルピーのボトムの裾を、倒れていたザルガラが掴んだ。

 飛び上がった瞬間であったため、いきおい余ってタルピーは顎を地面に強打した。


「まったく、この相棒は…………。周到な作戦のオレの邪魔をしやがった上に、また頭をシェイクしやがって」


『い、いたーい……』


 顎をさすりながらタルピーが声に反応して振り返ると、苦々しい顔つきのザルガラが苦々しく笑っていた。

 火花の涙を飛ばし、タルピーはその苦々しい顔に飛びつく。


『じゃるがらしゃまーっ!』


「気を失って完全無防備になったと思わせて、懐に投影しておいた魔胞体で反撃するって作戦を無駄にしやがって……。オマエの無遠慮な頭シェイクで目が覚めちまった。って、あっちーな、オイ」


『しゅうとうなさくせんね! さすザラ!』


「……なんかオマエにそう言われると、へっぽこな作戦みたいだ」


 片や友情を超えた何かを見て、片や友人の無事を見て、お互い嬉しくてしかたないという様子だ。


「なるほど……前回、気絶する前に逃走したと思ったのですが、実際に気を失ったっていたわけですか。そして今回は気を失って逃走に失敗した……と思わせ、こちらの油断を誘う。そういう作戦ですか」


「けっこう奥の手だったんだぜ、これ」


 タルピーを宥めながらザルガラ立ち上がる。

 その姿を悠然と見下ろし、ルドヴィコは指で胞体陣を弾く仕草を見せた。

 古来種の解析によりあっという間に解除され、投影されていた胞体陣は消滅する。


「では、その奥の手が一つ、消えてしまいましたね」


「ああ、おかげでオマエごとき相手に、新技を出す羽目になる」


 新たな手を宣言するザルガラを見て、空振りに終わった奥の手以上の自信を感じ取った。

 ルドヴィコは今度も決して油断せず、間合いを取って得意の魔法を発動させる。


「【倍加する偃武(バイカスルエンブ)!】」


 ルドヴィコを中心とし、巨大な胞体が広がってザルガラと周囲一帯を包み、膨大な魔力が満たされる。


『またこのめんどうくさい魔法!』


 タルピーがザルガラの肩の上で、苦々しく叫ぶ。

 前回も、そして先ほども、この魔法がザルガラを完封したため、タルピーは強く警戒した。


 【倍加する偃武】とは、この空間内で攻撃を重ねれば重ねるほど、攻撃そのものの威力が減る効果を持つ魔法である。


 さらに攻撃の威力があればあるほど、その後の攻撃の効果が大きく減じてしまう。

 無論、手数が多ければ多いほど、減じる速度は早まる。


 攻撃とは魔法のみならず、物理的な攻撃を含まれるため、この空間内では剣などの武器や設置されている罠、攻撃に使用するため投げる石ころや振り回す棒きれにまで効果が及ぶ。


 そして凶悪で卑劣なことに、この効果は術者であるルドヴィコ=古来種には影響が出ない。

 

「なんだよ……。3回も同じ魔法か。よほど自信があるか、技の引き出しがないか、考えなしのどれかだな」


 2度も完封されたザルガラが、今回も余裕と自信を見せている。


「要するにこの【倍加する偃武】への対策は、小細工抜きで一発目に、全力をぶつけるのが最適解なんだろ?」


「今回もずいぶんと余裕を見せていますが……当然、そんな大威力を放てば、2撃目の威力が大きく減じることになりますから……後がありませんよ」


「ふっ」


 指摘されたザルガラは不敵に笑う。


「古来種……いや偽物の天才を倒す魔法を教えてやる! 【魔法名(ソレ)はオマエが考えろ!】」


 教えると言っておきながら、自分で考えろ、というザルガラらしい捻くれた魔法が発動した。

 次のザルガラの行った行動は驚くべきものだった。


 ごく単純に、まっすぐ行って殴る。


 高次元物質と化している右手に、魔胞体陣を纏わせてザルガラはルドヴィコに襲い掛かった。


「大魔力を込めた胞体陣で、こちらの防御胞体陣を力技で打ち抜くつもりかっ!」


 あながち間違いでもない対策だ。

 攻撃を重ねると不利なるならば、防御胞体陣と強化した体をも武器にして、最初の一撃に全力を込めるザルガラの行動も悪くない手段だ。


「ならば!」

 この一撃を止めさえすれば勝負は決まる。と、ルドヴィコは防御に魔力を集中した。


 万全な防御胞体陣に、ザルガラの胞体と拳が衝突する。その瞬間、ザルガラの胞体陣があまりにもお粗末で、ルドヴィコは拍子抜けしまった。


 胞体の中の魔法陣は暗号化されておらず、ただ魔力を叩きつけるかのような仕掛けであった。


 ザルガラの魔法は、防御胞体陣を破壊する効果と、突破する威力が高すぎる。つまり【倍加する偃武】の影響下である今の状況では、次に彼が繰り出す攻撃は、大幅に威力と効果が減じるだろう。

 魔法陣の解除や書き換えどころか、解析の必要すらないと判断し、ルドヴィコは3度目の勝利を確信した。


 ただ防御を厚くして耐える。


 だが無駄。


 ルドヴィコの浮かべる余裕が、ザルガラの右拳によって唐突に歪められた。


 まだ13歳の子供の力とはいえその拳は、身構えてもいない華奢なルドヴィコを転倒させるには十分な威力であった。


 古来種の防御胞体陣は、それこそ天才アザナを超える出来栄えである。

 万全というほかない防御を越え、拳に突破力をつけただけのお粗末な攻撃が、ルドヴィコにあっさりと届いてしまった。


 慌てふためき立ち上がろうする途中で、ルドヴィコは自分の状況をやっと理解し、膝をついたまま痛む頬を押さえた。


「な、なんだ……と?」


「おっとこれは嬉しい誤算(ごさーん)」


 驚愕し頬を抑えるルドヴィコ。対照的に、それを見下すザルガラは嗤う。


「この【魔法名(ソレ)はオマエが考えろ】って、どうやらオマエ自慢の【倍加する偃武】の影響を受けないようだ」


「……そんなバカな!」


 立ち上がることも忘れて、ルドヴィコは空間に張った【倍加する偃武】を調べた。


 まるで手ごたえがない。

 防御ができなかっただけではなく、【倍加する偃武】の効果が発生した感触が皆無であった。

 すぐさま古来種の力を使い、殴られたときに接触したザルガラの魔法【魔法名(ソレ)はオマエが考えろ】を解析を開始した。

 タネが分かれば防御ができる。【倍加する偃武】を改善し、効果を発揮させることができる。なにより触れて書き換え、無効化もできる。

 ――はずだった。


「なんだ、この見たこともない公式は!」


 【魔法名(ソレ)はオマエが考えろ】の魔法陣は、いくつもの公式で図形が描かれている。そのほとんどの公式が、ルドヴィコの知らない公式で計算され、描かれていた。


「暗号化されていないのはわかる……。だが……、だがどうやって……この……特にこの曲線の……接線の傾きを求めている!」


 立ち上がることも忘れて、うろたえ問いかけるルドヴィコの眼前に向け、突き放すようにザルガラは仰々しい動作で腕を突き出し、人差し指を立ててゆっくり左右に振って見せた。


「だからオレは、ちゃんと言っただろう」


『うん、ザルガラさまはちゃんと言ったよ』

 

 肩の上のタルピーも、ザルガラの行動を真似て指を左右に振って見せる。

 そして2人は同時に言い放った。


「『ソレはオマエが考えろ』って」


 

今回タイトルが思いつかなかったの目印がわりの仮です。

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