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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第7章 二つ目のサイクロプス

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応酬の報酬 3

前回のラストで、もっともらしく首狩りと首なしが「すべては楽園のために」と発言いたしましたが、「すべては楽園の破壊者のために」でした。

この場を借りて訂正させて頂き、全話も修正いたします。



 妙なことになってしまった。


 ラブルパイル城を閉路回路で覆うという事件を引き起こしたイマリー……あれ、主犯だっけ? 

 いや、ええっとこれはアザナが主犯だったかな? 

 ええいどっちでもいい。

 とにかく、それを解決させ、閉路回路の二号機である巨人を盗もうとした火事場泥棒を追っ払った後、おかしいことになってしまった。


「閉路回路を壊すからいけないんですよ……」

「……泣かしたー」

『泣かしたー!』

 ぐずぐず泣くイマリー側に、ディータとタルピーがついてオレを責める。

 裏切りの応酬は終わっていなかった。

 なんで泣く女には味方が増えるんだ。

 

「そ、そうだ、アザナはどうした?」

「……逃げ、た?」

 アザナに責任を擦り付けようと思ったが、ディータが周囲を見回しアザナがこの場にいないことを告げる。


「なん……だと……」

 アザナの魔圧が消えた。


『アザナ? いたっけ?』

 タルピーの反応がいつも通りだった。たぶん、コイツは忘れ――。


「いえ……最初から……いなかった、ことになってます」

 と思ったら違ったようだ。イマリーがアザナの無実を証明する。


「じゃあ誰が、最初に閉路回路を使ったことになってるんだよ」

「それは……アザナですが……」

「……? よくわからん」


「それはつまり……あ、あとで説明します」

 何かに気が付いた様子で、イマリーは泣くことをやめた。そしてすっくと立ちあがり、姿を消していった。

 この~……、やっぱり嘘の泣きか! 


 イマリーは消えたが、それは次元転移というより、ラブルパイル城の一部を構成する高次元物質の中に紛れたようだ。

 高次元物質に満たされていれば、歩いてその中を移動できる能力……か。いや、魔法らしい。

 真似をするなら、転移よりは簡単そうだ。

 もっとも高次元物質がそこら中にある場所でないと、あまり利用価値はなさそうだが。 


 さてどうしてイマリーが逃げたかというと――。


「おおっ! ここにいたのか、ザルガラ君! 登城時に控え室で待っていろと言われたからって、事件の後になってまで、律儀に戻らなくてもいいんだぞ」

 ヴァリエの父である王都騎士団のラ・カヴァリエールが、控え室へやって来たからだ。

 半分ほど犯人であるイマリーが、ここにいては面倒だ。とっとと逃げてくれたほうが助かる。


「さあ、陛下がお呼びだ! お褒めの言葉があるそうだ。おっと、そんな顔をするな。なーに、心配するな。我々のメンツをつぶしたなんて、気に掛ける必要はないぞ!」


 そんな顔というか、嫌な顔をしたのは、エウクレイデス王に褒められるとか想像して面倒だな、と思ったからだ。

 古来種を信奉し、王族の魅力強化カリスマチューンの影響を受けているなら、そんな気分にならないが…………ん?

 ここで妙な感覚に気が付いた。


 オレも古来種の奴隷の末裔で、その魅力強化カリスマチェーンの力を前にすれば、問答無用で身も心もこうべを垂れるはずだ。

 そんな気持ちにもならないし、強制もされていない。

 仕方ない、とオレは理性的に頭を下げている。


 王を拒絶するオレの気持ちを察したのか、ディータが尋ねる。


「……お父様のこと、嫌い?」

 嫌い……だ。

 ディータには悪いが、彼女にここで嘘を言ってもしょうがない。

 どういうことだ?


 王を嫌いと、なぜオレが思える?


 【招請会】のやつらみたいに、古来種を信奉するあまり、代行者である王を拒絶する奴らとオレは違う。

 そこまで過激に古来種を信奉してないオレが、なぜ中位種下位種の取りまとめである王の魅力強化カリスマチューンの影響を受けていない?


 釈然としない気持ちのまま、オレはエウクレイデス王との謁見に向かった。


 *   *   *


 通された部屋は、謁見に使われる部屋ではなかった。

 詰問するような議会場でもない。

 王宮側の私的に合う広間でもない。

 

 案内された場所は、王城の北にひっそり立つ小さめの館――といっても、城壁内だし、オレの住むエンディ屋敷よりも大きいのだが――、へと案内された。

 王はどうやらこちらの館にいて、閉路回路の騒動には巻き込まれなかったらしい。


 離宮の中で比較的広い会合に使われる間に、大勢の人たちが集められていた。


 ディータは途中で別間へと案内されて、今はここにいない。

 公式には死んでいる姫だが、ディータであることには違いない。なので王と一緒に、この間へと現れるのだろう。

 そしてその事実と公然を持って、同一人物であると知らしめるつもりだ。

 公式な発表は先になるだろうが。

 

 さて、大臣や将軍などにあっても気後れしない自信のあるオレでも、これだけの人物たちに囲まれるとちょっと萎縮する。

 ラ・カヴァリエールなど、この中では小者も同然。

 これだけの人数が集まると、ちょっと広い程度の部屋ではスペースが足りない。

 王城の要人が犇めきあうなか、奥の続き間のドアが開き侍従長が姿を現した。


 要人たちが膝をつき頭を垂れ、オレもその場で義務的に膝をつく。


「かしこくもかしこくも、至尊の威光を戴き…………」


 侍従長自らによる告知に続き、長いローブを纏った王とディータが室内に現る。


「よい……」

 王の面をあげよという意味の声がかかり、室内の者がみな立ち上がった。


「現在、知っての通り王城では安全の確認が行われておる。よって、みなにはこの場へ集まってもらった。難儀をかける」

 王の気遣う言葉に、誰もが「いえいえそのようなことはありません」と頭を下げる。

 オレも儀礼的に下げる。

 タルピーはスルーして踊っている。

 ……まあ、これはいつものことだが。


「さてこのたびの騒動、まだ原因究明こそなっていないが、そこの彼が終結してくれた」

 王の言葉がオレを指し、すでに事情を知っている室内の要人たちの目が集中する。

 やはり陛下はオレを持ち上げるつもりらしい。


「さらに彼の天下に二つとない才能と技量により、我が娘の魂がこの世界に繋ぎ留められていたことは、みなも知っておろう」


 今更である。

 さんざん、オレと同伴で城やら王宮やらに遊びに来ていて、何人もの人が関わっている。

 これは急に「このゴーレムが娘である」と言って、「陛下って、ここおかしいんじゃねぇか?」と思われないための小細工だ。


 ゴーレムが自立行動し、姫と変わらぬ姿で姫として振る舞う。

 オレが偽物を立てて、簒奪を狙っているんじゃないかという噂も出た。

 だが、ディータ姫しか持たぬ魅力強化カリスマチェーンの光を見て、簒奪の疑いを持つ者は、その場その場で消えていった。


「この場を持って、我が娘が畏れ多くも至尊と並び立つ力を得て、我が元へと戻ってくれたことを告げよう」

 やっと王の口を持って、ゴーレムの中身が娘ディータであると宣言する。


「おおっ…………!!」

 それを待ちわびていた者も、半信半疑だった者も、噂に疎くほとんど知らなかった者も、ゴーレム=ディータから抜け出して現れた生来の姿を見て、感激して一様に頭を垂れた。


 半透明なディータが、視覚化された魅力強化カリスマチェーンを光り輝かせる。

 近年の王がこの光を放ったという話はない。

 力が弱まり失われた光景が室内に現れて、権威を伴った光…………威光で満たした。


「……ぺかー」

 ぺかーっていうな。

 魅力強化カリスマチェーンが安っぽく見えるぞ。

 

「この喜ばしき光景……。久しく王城を満たすことなかった光……。これらすべてそこにいるザルガラ・ポリヘドラの功績だ。礼を言うぞ」

 褒められるのは嫌いじゃないが、こういった言い回しは好きじゃない。

 ただありがとうっと言ってくれた方がいいんだが……王って面倒なものだ。同情する。

 オレは無言で頭を下げる。


「さらにはそなたの活躍で、王城を襲った不測の事態も先ほど解決してくれた。犯人こそまだ不明であるが、まずはこの事件についても礼を言おう」

 胞体陣で城を包んだのはアザナだし、原因はイマリーなんだけど、最後に出てきた首だけ女に罪が着せられた。

 実質、被害者はアイツだけなんじゃねぇかな。

 頭を下げたまま、そんな愚にもつかないことを考えていたら――。


「並びに、ゴールドスケールジット候を襲った狼藉者の排除。同時に地下より現れた大敵者アーチエネミーの撃退。突如、飛来した古竜への説得。まことに感謝するほかない」

「はっ。……は?」

 与り知らない事件の話が飛び出してきた。

 ………………え? なんのこと?


 オレがぽかんと口を開けて王を見上げていたら、横にいた一人の大臣が進みでて言った。


「崩れ落ちる塔から我らを救っていただきました。この場を借りてお礼を申し上げますぞ」

「いや、どこも崩れてないよね?」

 名前も知らない大臣に礼を言われ、思わず無礼な反論をしてしまう。


「些細なことだ」

 物理的に些細じゃねぇよ。


 大臣の礼を皮切りに、各所から俺に向けての感謝の声が上がり始める。

 出るわ出るわ、オレの知らない功績が。


「騒ぎに乗じた盗賊を捕まえてくれて助かった」

「ぎっくり腰を治してもらった」

「労働環境が改善されました」

「おかげで彼女ができました」

「妊娠しました」


「おい、最後っ! オマエ、男なんだろ!」

 無礼とわかっているが、変なこといったヒゲのおっさん騎士を指差し突っ込む。


「あ、すみません。妻が、です。驚かせてしまいました」

「おう、正直かなり驚いたぞ。次から主語を抜いて話すなよ。でも知らねーよ!」

 みんなでオレを担ごうとしているのか? 

 情けないが事態を収めてもらうため、最高権力者の王に事情を尋ねる。


「あのー、陛下。明らかに自分の活動とは関係のない、話が――というか、この短時間、いっぺんにできるわけが…………」

 やった記憶がないどころか、大敵者の再来や古竜の飛来などそれら事態を知らない。

 なにか、記憶違いでもしているのでは――。


 そこまで考えが至ったとき、原因が閉路回路にあるのではと閃いた。

 どういうことだとイマリーに問いたかったが、ヤツは逃げてもういない。

 どこにでも紛れ込む力があるんだから、あの大臣たちの間にでも紛れてろよ! と、そちらを見たら――。


「それは閉路回路と古来種のせいですね」

 おわっ、ビックリしたっっ!

 いたよ、イマリー!

 さすが監視者として作られたことだけあるな!

 どこからか借りてきたのか大臣の法服を着て、あの一つ目アイマスクという不自然な恰好で自然に紛れている。

 

 ここでどういうことだと言いだしてもややこしくなるので、あとで問い詰める。


「なるほど。たしかにあの短い時間に、一人で行えるようなものではないな」

 オレの訴えを聞き、陛下も確かに妙だな首肯しゅこうするが、服を着た(と、わざわざ表記しないといけないということは、普段は全裸である)アトラクタ男爵が口を挟む。


「しかしザルガラ君。きみなら分裂くらいできるのでは?」

「以前とは、まったく方向性の違う怪物扱いだな!」

 分裂、怖いってっ!

 分裂のするのかオレ!

 オレ、怖い!

 気持ち悪い方向性の怪物扱いじゃねぇか。

 一回目より、もっと強いやり直しを要求するぞ。


 しかし……妙だ。

 オレは子供として見られ、侮られ、見逃されているが、非常に礼儀知らずな対応をしているのに、周囲の反応が鈍い。

 

「……律儀に全対応するから」

 具現化するディータのツッコミのあと、王から礼と命が下された…………。


いろいろあって遅れました。


お詫びといってはなんですが、次話は明日の朝更新します。

さらに短編も書きました!

下のリンクからどうぞ!

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