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悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第7章 二つ目のサイクロプス

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適当10代あそび場


『お城にくるのも2回目だねー』

 ラブルパイル城の窓からタルピーが顔を突き出し、その先に見える一際高い楼閣の上で踊ることを想像し、楽しそうにお尻を振りながら言った。


 情報収集から数日後、ザルガラはサイクロプス対策も特に何をするでもなく、登城をする日となった。もちろん、ディータも憂うだけで対策をしていない。タルピーは言うに及ばずだ。


 本来、ポリヘドラ家が王城に上がる場合、サロンのような大部屋の待合室に通される。他の貴族もたくさん待たされているような場所だ。

 しかし、ディータがいるためか、2人……いや3人は、それはそれは豪奢な待合室へ案内された。もちろん、他に人はいない。

 

「ちゃんと数えると、もっと来てるんだけどな」

 ザルガラは持て成しの茶を飲みつつ、タルピーの2回目という発言を訂正する。


『そう……だっけ?』

 タルピーは眉間にシワを寄せ、空を見上げ指で数え始めた。

 いまいち数に弱いタルピーだが、たかが数回を数え間違えることなどあるのだろうか?


 そう思うディータも、2人が城に来るのは2回目のはずではないか? と考えてみたが、ザルガラのことである。きっと、隠れて城に忍び込んでいたりするのかもしれない。

 これ以上は深く考えず、ディータはついこの間まで暮らしてした城内を新鮮な気持ちで見回した。

 

 もっとも待合室など、姫ならば逆に縁のない場所なので新鮮なのは間違いない。


「……ところでザル様。サイクロプスのことですが」


 ここならば防諜もされているだろうと、ディータは話を切り出した。


「あーそうか。説明してなかったか」

 天井を仰ぎ見たあと、ザルガラは部屋を見渡して言う。


「そうだな……。タルピーもいるから話してもいいか」

 窓際のタルピーを呼び、ソファに座らせてからザルガラが説明を始めた。


「まず第一に判明したことだが、あの一つ目はサイクロプスじゃない。サイクルオプスだ」


「……サイクロプス?」

 ディータは意味が分からず聞き返した。


「サイクルオプス」

 改めてザルガラは訂正する。


「……サイクロプス?」

「サイクルオプス」

「……サイクロプス?」

「サイクロ……サイクルオプス!」


 しつこく聞き返すディータに釣られ、ちょっとザルガラが間違った。

 誤魔化すように咳払いをして、ザルガラは補足説明を始める。


サイクロプス(Cyclops)じゃない。サイクルオプス(cycle-opus)


「……サイクルオプス、サイクルオプス、サイクルォプス、サイクロォプス、サイクロプス?」

 繰り返し発音して、ディータは小さくそういうものかと呟いた。

 なるほど、間違うのも仕方ない。

 早口で言えば、サイクルオプスがサイクロプスになるのもわかる。


 しかし身体があるころから(高次元体になる前から)本が好きで、さまざまな文献や古来種の遺した物語を呼んだが、サイクルオプスなど聞いたこともない。

 タルピーも聞いたことがないらしい。眉間にシワを寄せている。もっとも彼女の記憶力は怪しいので、あまり信用できないが……。


「ディータ。本を読んでいて気が付かなかったか? サイクロプスのスペルがまったく違ってたりしてただろ?」


「……そういえば……そうだった」

 ゴーレムでできた顔は表情が変わらないため、意識して大げさに肯く。

 あまりにも表記にブレがあったため、脳内で補正して「サイクロプス」として読んでいたが、読み方によっては「サイクルオプス」と読めるスペルも多くあった。


一つ目の巨人(サイクロプス)じゃない。閉路回路サイクルオプス。それがサイクロプスの正体だ」

 ソファに深く座りなおし、茶を飲んで一息つく。


「そしてサイクルオプスは別に敵じゃない。だから対策とは別に本気でやる必要はない」


 ザルガラは気楽にいこうぜ、と手を上げて鼻で笑う。

 だが、おかしい。


「……最初に攻撃を受けてる、って言ったのは」

 あんただ、とディータに指をさされ、ザルガラは顔を背けて追及を避けた。

 避けられても諦めず姫はにじり寄り、顔を背ける隙だらけの好きな少年の側頭部を指で突く。


「……最初に言ったのは」

「オレだよ! 悪かったよ!」

 側頭部をぐりぐりと指で突かれ、観念してザルガラは事実を認めた。

 側頭部への無慈悲な攻撃をひっこめ、ディータは満足げに戦果を語る。


「……ザル様の防御薄いところは頭皮」

「ぶ、分厚いわ! 正16の防御胞体陣より、めっちゃくちゃ分厚いわ!」


 つまりそれだけ大事に守ってる。と、心には思ったが言わない。

 あと分厚い頭皮って、やっぱり髪に悪い。と、心には思ったが言わない。


「ちょ、ちょっと考えてみればわかることだ」

 髪を整えつつ、ザルガラは何事もなかったように説明を続けた。


「殺すつもりの攻撃はしてこない。アジトは破壊したが、あとで元通り。利用したヤツらは怪我こそしてるが解放した。圧倒的に不利になったら、あっさり引いてみせる。モンスターズサロンでの死闘は、文字通り死人がモンスターに出……て? ……死人? あー、死モンスが出たが、全員が怪我だけになっている……。あー、アンデッドは消えてたりするが、あれはノーカウントで」


 アンデッドはもともと死人なので、話がややこしくなると例外に放り込む。


「そして誰も覚えてるはずがない。サイクルオプスの記憶は誰も残らないのに、オレに対しては決まり文句の『覚えておきなさい』と言ったからにはもう……」


 適温になった茶を飲み干し、カップを置いて嬉しそうに天井を仰ぐ。


「つまりこれは戦いなんかじゃない。ケンカの果たし状だ。ちょっとオレと遊びたいだけなんだろ……。そしてサイクロプスなんて最初からいなかったってわけさ」


 ザルガラはソファの背もたれに身体を預けきり、あおむけになって背後へ向かって言う。


「そうだろ? プライマリー(第一)のサイクルオプスさん。いや単一仕事オプス精を出す(プライ)|マリー《anomaly:特異点》さんかな?」


 調度品がならぶ待合室の隅に、いつの間にかアイマスクを付けた女が立っていた。

 一つ目の絵が描かれた鋲打ちのアイマスクは、見間違うはずがない。

 ゴーレムレースとアジト破壊で見たイマリー・プライマリーだ。


「よう、覚えてた(・・・・)ぜ」

 ディータは不意に現れたイマリーに驚き、ソファから立ち上がった。

 一方、ザルガラは無防備な体勢のままひらひらと手を振って見せた。


「そう……。覚えておいてくれたのね」

 アイマスクの女が微笑を浮かべて返答する。


「そりゃまあ……ダレも覚えていられるはずがないところで、覚えてろと言われたら意地でも覚えておかないとね。ところで見たところ、このラブルパイル城にけっこう……仕掛けをしておいたようだな」

 ザルガラはぐるりと身を返し、ソファの上に立ち上がる。

 12歳となったとはいえ未だ成長中の少年に、サイクルオプスは見下ろされる形となった。不遜な態度に少し不機嫌になったが、ソファに上るという子供っぽい行動をイマリーは笑う。


「ふふ……。先日、ゴールドスケールジッド侯爵について王城に上り、下準備は済ませてあります」

「さすがだな。オレもさっきちょっとイジったが、終わったとは言い難いぜ」


 2人とも城に仕込みをしたと言って、ディータは動揺して両手を突き出し震える。


「……待って、ちょっと待って。わたしの実家になにをして……なにをするつもり?」


 今でこそザルガラの部屋住み(同棲?)で姿こそ琥珀アンバーゴーレムだが、忘れてはならない。

 ディータはお姫様である。

 王城を守る胞体陣を、好き勝手に弄られた上に、これからなにをされてしまうのか心配になった。


 そのディータに向け、ザルガラが少年らしいさわやかな笑顔を浮かべ、親指で自分を指差し言い切ってみせる。


「オマエの実家は、オレの遊園地!」

「ひどい!」


 お家が壊れちゃう! と、ディータは無表情な琥珀の顔を覆った。


「大丈夫、大丈夫。ちゃんと必ず、後でそのうち気が向いて余裕があったら暇なときに、出来るだけ覚えてるかぎりテキトーな感じで元に戻しておくから」

「……『ちゃんと必ず』を徹底的に打ち消しにいってる!」


 打ち消しの言葉が信じるに値しすぎて、約束がまったく信用できない。

 しかもザルガラの確約?の言葉は、王城に仕掛けられた胞体陣のことである。


「……そうじゃなくて、お家壊れちゃう」


「間違えなければ、巻き戻って壊れてない時間軸の事象を引っ張ってきて……」

 言い訳するザルガラに、イマリーが口を挟む。


「人の生き死と記憶の差し替えに、ほとんどすべてのリソースを振り分けてるから無理よ。それでも記憶の差し替えだって、完璧じゃないのに」


「あ、そうなの? じゃあ悪ぃディータ、無理だわ」

 

 結局、王城は物理的と魔法的にいろいろと犠牲になりそうだ。

 しかしそれより気に入らないところがあった。

 

「……なにこの2人。いきなり仲良くてムカつく」

 正体がバレたイマリーと見抜いたザルガラが、理解しあった仲という態度になっている。

 それに気が付き、姫とは思えない軽薄な言葉使いをした。


「さて、それじゃあ仲良くケンカと行こうか……」

 ついに戦い……ケンカが始まろうとしたとき――。

 

「そうはいきませんよ!」


 一人会話に参加せず《話が難しく聞いてなかった》警戒していたタルピーも気がつかなかった誰かが現れた。


「な……オ、オマエ、アザナ! どうしてここに!」

 アザナだった。

 イマリーのいた場所の横から、タイミングを見計らったかのようにアザナが飛び出してきた。


「イマリーさんに誘われてきました!」

「誘われたぁっ!? な、なんでソイツについてくるだよ、アザナ」

 ザルガラは指差して怒鳴る。


「裏切ったんです!」

 イマリーの横に並び、わざとらしくポーズを取るアザナ。

 誘ったイマリーの方が、そのポーズを横目で見て引いている。


「なぜ裏切ったんっ!?」 

「ザルガラ先輩と遊べると聞いて!」

 

 どうやら、アザナはザルガラに放っておかれて寂しかったようだ。


「……じゃあ仕方ないですね」

「なに納得してんだよ、ディータ」

 ディータは納得したが、ザルガラはわかっていない。


「……このところ、ザル様はアンドレくんを相手にしてて、ぜんぜんアザナさんをかまってなかったから」

「あ……あ、あーあー……、そういうことか」

 やっとわかった、とザルガラは難しい顔でうなずく。

 その顏を見て、やっとアザナは満足げに叫ぶ。


「そういうことです! すでにボクもお城の胞体陣に細工を終えています! 【胞体空間に引きずり込め!】」

「え! あなたが閉路魔法サイクルオプスを使うの?」

 お株を奪われ戸惑うイマリーを差し置いて、魔法を発動させつつアザナは両手を振り上げる。

 それを見て、ディータは嫌な予感で身を竦めた。


「……待って。も、もしかしてアザナさんも…………」

 

 心配し、震える琥珀を指をさしむけ尋ねる。

 アザナは満面の笑みでディータに答えた。


「お姫様の実家は、ボクの遊園地!」


「やめてーーーーっ!!」


 ディータの懇願むなしく、王城の一部が閉路サイクルの時空に引きずり込まれていった。


 

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