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【完結】悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第7章 二つ目のサイクロプス

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ディータという女

遅くなりました。


 積み重なった本が林立する部屋の中で寝そべり、気怠く本を読んでいた琥珀色の姿態がむくりと起き上がった。

 

 レースの手袋をした手でそっと猫について書かれた本を閉じ、二―ソックスを履いた足を揃えて座り、琥珀の裸体が鈍く艶やか光る。

 表情も表せず唇も動かないが、内蔵した魔具によって、抑揚のない可愛らしい声がどこからともなく発せられた。


「……わたしは姫ゴーレムである。名前はまだ――」


「姫騎士とか姫城とか姫将軍とか、姫なら複合語がなんでも許されると思うなよ」


 ディータがすべてを言い切る前に、最後の本を読み終えたザルガラが遮った。

 どうも口調からして、ザルガラは複合語になにか思うところがあるらしい。


「……姫城?」

 

 つっこみでありながら、ボケが込められている姫城という言葉にディータは困惑した。

 琥珀でできたゴーレムでは、表情にあまり変化がない。その無機質さも魅力なのだが、同時に感情の機微が伺えないため、底知れない印象を見る者に与える。


 ……まあ、今はザルガラのボケについていけない程度の底(・)ではあるが。

 

「まったく。なんでも混ぜやがって。矛盾くらいなら笑えるが、そのうち意味が消えたり、別の意味になっちまうぞ」


 少しの間、呆気に取られて本を整えるザルガラの横顔を眺めていたディータだったが、気を取り直して反論する。


「……姫は強い。混ぜても合体しても、姫は消えない。カレー並みに強い」

 謎理論を叩きつけられ、今度はザルガラが困惑する番だった。本を整え終えて立ち上がり唸る。


「う~ん、たしかに……今の姫様は混ざって合体してるけどさぁ~」

「……勝った」


 言い負かした、とディータは小さく拳を握って喜びを表現してみせた。

 小さい。

 わりと姫様は小さかった。 


「はいはい……。さあって、そろそろいい時間か。じゃあ出かけるぞ。……こい、タルピー」

『あいさー』

 苦笑するザルガラが本の整理もそこそこにし、そこらの本の影で踊っていたタルピーを呼ぶ。彼女もいつものこととばかりに、本の山を踏み台にしてザルガラの肩に飛び乗った。

 出かけるとあらば、裸族のディータといえど(町で目立たないために)服を着なくてはならない。


 かけてある学園の制服を手に取って、ザルガラに行き先を問いかける。


「……どこに出かけるの?」

「まだどことは分からない。ティエから情報を貰ってからだな」


 ……適当。

 ディータは部屋から出ていくザルガラの背を見つめ、何度覚えたか分からない彼への印象を浮かべた。


 本から情報を集めたと思ったら、ティエに話を聞いてから町へ繰り出して情報集めだ。

 ディータはザルガラがティエと話をしている間に、学園の制服を着て、フード付きの外套を纏う。

 ザルガラも普段は使わない馬車を利用し、目立たぬように配慮をしていた。


 しかし、物足りないと思う。

 ディータは口には出さないが、まったくサイクロプス対策をしないザルガラを心配し始めていた。

 明確に敵対行動を示した相手に、彼は対策をしようとしない。

 情報集めも大切だろうが、ザルガラの行動は敵対者がいる状態とは思えなかった。


 姫の心配をよそに、まずザルガラは馬車を下町へと向かわせた。

 ベデラツィの用意してくれた普段用の馬車は、あまり際立ったところのない造りながら、下町を走れば否応にも目立つ。

 ……はずなのだが。

 馬車の覗き窓から外を見ると、世間知らずのディータの印象からも、住人からそれほど注目されてないように思えた。


 澄ましたザルガラの横顔を見て、ディータは彼が何かしているのだと見当をつけた。

 姫の存在が周知されている学園ではまだしも、ディータがザルガラと徒歩で出かけても、それほど注目されない。

 口ではなにも言わないが、ディータが目立たぬように魔法を使っているのだろう。ザルガラはとにかくそういう細かい魔法が得意だ。


 笑みを浮かべられないゴーレムの顔で、ディータは微笑んでみせた……つもりになった。

 親切を見せないのだから、微笑んでいるのが見えなくてもいいだろう。

 姫様は誰にも分からない意地悪で、ザルガラをいじめてみた。 


 そうしてザルガラの横顔とタルピーの踊りと街の風景を眺めているうちに、馬車は下町の酒場の前に辿りつく。

 ティエの話では、ここにある冒険者チームを呼び出しているという。


 下町のありふれた酒場ということもあり、貴族子息のザルガラが戸を潜っても「こちらでございます」などと案内する給仕はいない。

 

 いかつい酒場の店主の横目だけが、ザルガラたちを出迎えた。


 席を案内してくれる給仕もいないため、当然のように酒場の中を闊歩して、目的の人物たちと落ち合った。

 

「やあ、なにか話があるんだって? 貴族様」

「その様子なら、ティエから話はちゃんと通ってるようだな」

「ああ。話があるからって、上からここで待ってろと言われたが……、ティエさんからの要件ですから、上から言われなくてもちゃんと来ますよ」


 相手は4人の冒険者だ。

 左右こそ違えど、みながみな隻眼である彼らに、ディータは聞き(・・)覚えがあった。

 イマリー・プライマリーとかいうアイマスクの女が引き連れて、閉路(サイクル)を作るため利用していた者たちである。

 ザルガラの説明で聞いただけだが、4人の外見からその者たちであると連想できた。


『あ、おまえらはっ! やるかーっ! シュッ、シュッ!』

 なぜか珍しいことに上位種の面目躍如か、タルピーがちゃんと覚えていた。

 かつての敵対者にタルピーは身構え、拳を握り誰もいない空間にパンチを放つ。

 

 ……可愛い。

 ディータは4人を無視して、拳を振り回すタルピーをそっと抱え上げた。


「お? ありがと、ディータ」

 ザルガラはうるさいのを回収してくれた、と勘違いしたようだ。


「だいじょうぶだよ、タルピー。今のヤツラは操られてもいないし、義眼の方も別物になっている」

『そうなの?』


 ザルガラが大丈夫というのなら、とタルピーはディータの胸の中でダラりと戦闘態勢を解除した。

 

「さて……。オレは魔法使いとして、アンタたちの目(・)が気になってる。調べさせろとまではいわないから、不都合とかがないかちょっと詳しく教えてくれないか?」

 先日、敵対して打ちのめした相手に、酒を奢りながらザルガラは質問を投げかける。

 ごく普通の聞き取りといった様子で、相手に含むところはない。

 これが演技ならばすごいものだ、とディータは感心した。

 

「いやいや、不便も不都合もないもんですよ」


 威圧感溢れる鋲打ち眼帯を付けた冒険者の戦士が、質問にかんらかんらと笑いながら答えた。


「この目のおかげで、見えなかったものが見えて助かるくらいだ」

 黒い布で覆う片目を指差しながら、軽装の冒険者が語る。


「誰がこの治療してくれたのか分からないが、重宝してるんだ」

 魔法使いの男も長い前髪を払い、眼帯を誇らしげに晒して見せた。


 4人とも片目であることを気にしている様子はない。

 それは冒険者として勲章という強がりかもしれないが、それ以上に失った目に埋め込まれた胞体石を受け入れる態度を見せていた。


 ザルガラは一通り確認の質問を繰り返したが、返ってくる反応は同じだった。

 4人とも利用されている様子も、不利益を被った様子もない。


「そうか。まあ、その目でもしもなにかあったら、オレの名前を出して蒲萄区画の治療院を当たってくれ」

「お、ありがたいですね。良かったら、遺跡での仕事もお手伝いさせていただきますよ」

「何かのときは頼むさ」

 酒代と治療の当てと、わずかな報酬を支払ってザルガラは酒場を後にした。


 こうして用事は終わったと、ザルガラは馬車に乗り込み帰路につく。


「どうやらアイツらも用済みになったようだな。まったく何もしないなんてお優しいことで……」


 呆れるように笑うザルガラの物言いに、ディータを引っかかるものを感じた。


「……も?」

「ん? ああ、あの長手のカトゥンってヤツの話もしただろ? アイツも解放されて、スラムで燻ってるらしいぜ。ティエに調べてもらった……と、いってもアイツも人を利用してだろうが。冒険者関係者に伝手が多いからな、ティエは」


 イマリーの閉路(サイクル)を形成するのに利用されていた者たちは、みな平穏無事らしい。

 それからティエも活躍している。

 騎士なのか、使用人なのか、鑑定士なのか、冒険者なのか。

 本業はなんなのだろうか?

 

「……それでどうする?」


 情報を集めたザルガラのことだ。

 ここから反撃が始まるのだろうと、ディータは尋ねてみる。


「どうするって? なにを?」

 

 しかしザルガラの反応は鈍かった。

 あまり追及の得意ではないディータは、少し戸惑いながら問い続けてみた。


「……なにもしなくて平気?」


「ん? ナンの話だ? オレがなにもしてないって?」


「……ほら、えっと……あのサイクロプスは?」


 サイクロプスの名を出して、やっとザルガラの表情に反応があった。


「ああ……大丈夫だ。それはちゃんと覚えている(・・・・・)から」


「……そう、ですか」

 覚えているならいいか、とディータはそれ以上は追及しない。

 言い訳やいい加減な返答ではない。根拠はないが、繋がっている心でディータは感じ取れる。

 それにサイクロプスについての記憶を失い、ザルガラから聞いただけなので、とやかく言える立場でもない。


 これからも口やかましいことなど言わず、ディータはただ付き添おうと改めて決めた。


 正妻はどっしりと構えていればいいのだ。


 ディータは鼻息荒く、満足げに馬車の中で居住まいを正して寄りかか――。


「あ、アイデアル印の新しい店が出てるぜ! 買っていこうぜ!!」

 ――ろうとしたところで、ザルガラは馬車を止めさせ、甘味を買いに飛び出していった。

 残されたディータは、そのままコテンと倒れる。

 その身体の上に、カンテラの上で踊っていたタルピーが飛び降りた。


『あれ? ひめさまどうし……』

「……制裁!」

『ひっ……』


 自称正妻は制裁の拳を握りしめた。



7月はむちゃくちゃ更新が早くなる予定(予定は未定)です。

具体的には週2更新はいけるかと思います!

遅れた分を取り戻します!


あとは活動報告にて。

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