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【完結】悪役は二度目も悪名を轟かせろ!  作者: 大恵
第7章 二つ目のサイクロプス

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跳躍する時


「なんじゃい、ワレ! どこの区画のモンじゃごりゃぁっおふぅっごおーーっ!」


 血気盛んな大型の魔物が無謀にも挑みかかり、口上を言い終える前に巨人の足によって文字通り蹴散らされた。


 その蹴りを一歩として、頭のない巨人がサロンに全身を踏み入れた。


 モンスターズサロンにいる魔物も、人間たちも、わずかな時間だけ無防備に固まってしまった。そういう意味で最初に蹴散らされた魔物は、異様な巨人に圧倒されることなかった勇敢な存在だ。


 そんな状況でオレは冷静に全員の立ち位置を頭に叩き込み、アザナは防御胞体陣を近くの仲間や魔物に貼っていく。


「ザルガラ先輩! まずは安全確保を」


「わかった、みんなを下げよう。オレは、ちょっと時間稼ぎする。【撃て、撃て、撃ちまくれ!】」


 オレたちの考えは一致していた。

 戦える魔物が多くいるとはいえ、一般人も紛れた乱戦は避けるべきである。 


 遅ればせながら、魔物もサロンを訪れていた人間たちも、首なし巨人が害意ある存在と認識し、戦うか、逃げるか、みなそれぞれが判断を始める。

 そんな全ての魔物と人たちの動線を睨みつつ、オレは魔胞体陣を投影した。

 巨人の前方に新式の魔力弾を放つ固定砲台染みた胞体陣が現れる。


 オレが意識を失っても、しばらく投影されつづけこの胞体陣は消えない。オレが離れても、眼を離しても、意識を失っても自動的に攻撃を続ける魔法だ。さらにわざと外した魔力弾が、新たな新式平面陣を描き、再び魔力弾を発射する砲台となる。


 潤沢な魔力と、投影しつづける意志力と、安定させるより正確な投影が要求される高度な魔法だ。もっとも常時魔力を持っていかれるので、燃費はすこぶる悪い。


 しかし、頭なし巨人の進撃も止まる。雨あられと真正面から、散発的な横から、稀に後ろから飛んでくる魔力弾に押され、防御陣に魔力を送るのに精いっぱい……といった様子だ。

 今にも飛びかかろうとしていたサロンの魔物も、この弾雨を見て踏みとどまった。これで彼らが無下に薙ぎ払われることもない。


 アザナでもこの手の魔法は使えないだろう。数日、研究されたら真似されて強化されるだろうが――とりあえず自慢してやろう。


「どうだい、オレの【撃て、撃て、撃ちまくれ!】は?」


「そんな、やってないこと確定フラグの『やったか?』に並ぶ、撃ちまくって一発も当たらないフラグのような魔法名……」


「当たってるじゃん」


 全弾、防御されてるが、しっかり足止めの役目を遂行している。

 まさか魔法の命名に難癖をつけられるとは思わなかった。


 しかし、この魔法で中位種の魔物の群れや、並みの魔法使いの軍団だって沈められると思うのだが…………、やはりこの巨人の侵入者は只者ではない。


 威力の弱い新式とはいえ、すでに何百もの魔力弾を浴びてなお巨人はゆっくり前に進もうとしている。

 防御に回す奴の魔力が、それだけ潤沢ということだ。

 大威力で倒す……のは地下であるここでは難しい。そうなると手が限られてくる。

 防御魔胞体陣を書き換える魔法陣戦か、魔力弾と魔物の攻撃による飽和攻撃か、目くらましなどからめ手か。


「ペランドー、ティエ。オマエたちは避難する人たちを守ってやってくれ」


「アリアンマリ、ヴァリエ。それにフモセ。キミたちもだ」


 護衛はすべてアリアンマリとヴァリエ付きだ。2人が避難についていけば、護衛はみなついていく。


 戦力分散だが、悪い戦力分散ではないと思う。

 返って連携の取れない仲間がいるより、オレとアザナが全力で対処するほうがいい。


「はい、ザルガラ様」

「う……うん、わかった!」

 即答したティエに対し、少し悩んだ様子のペランドーだったが、まわりの様子を見て頷く。


「かしこまりました、アザナ様」

「アザナ様! 私もおそばに」

「一緒に戦う!」


 ヴァリエが詰め寄り、アリアンマリがつま先立ちした。確かに2人は戦力になるだろうが、できれば下がってほしい。


「大丈夫だよ。安心して。一緒に戦う魔物と冒険者もいるからさ」


「なーに、オレにアザナが付けば無傷で倒せるさ」


『はーい、ザルガラさま! アタイもアタイも!』

 

 踊っていたタルピーが合流し、自己主張で飛び跳ねる。

 

「そうだ、タルピーも……上位種様までいる」


 戦力は充分だと、アリアンマリたちに示したら、ディータがふんわりオレに抱き着いてきた。


『……私もいる』


 え?

 お……そうだな。


『……納得できない、その反応』


 いや、だって今のディータは、古来種に身体を乗っ取られた人間相手でもないと、特に役に立たないし。


「さあ、きましたよ!」


 逃げるものは逃げ、戦う者たちは結集した。遅れて巨人が魔力弾の雨を抜け出す。


 と、その時、視界の隅でなにかが動いた!


 子供だ!


 かくれんぼでもしていたのか、サロンの部屋の隅にあるテーブルの陰から小さな女の子が這い出してきた。あれは……オレたちより先に、サロンを訪れていたどこかの富裕商人の娘だ。


 巨人の足がとまり、無いはずの目が足元の子供を捕らえ、邪魔だと払うかのように左足が蹴り出され――――。


「させるかぁっ!」


 近くに倒れていた満身創痍のマンティコアが、最後の力を振り絞って女の子を突き飛ばした。

 獅子の足の肉球に押されて女の子は床の上を転がった。遅れて巨人の足がマンティコアを蹴り飛ばす。


「オレが行く! 【掠め砕けるホウキ星(サングレーザー)】」


 すぐさまオレは転移魔法を使って女の子を回収し、マンティコアは…………立方陣で包んで引きずり戻る。

 【掠め砕ける彗星】という魔法は、目標……この場合は巨人の横へ転移し、背後を周回する軌道で高速移動し、転移で元の場所に戻るという移動魔法を複合した転移魔法だ。ちょっと触れて逃げる魔法、とでも言えばいいか。 


 自らの胞体陣から放たれる【撃て、撃て、撃ちまくれ】の弾幕の合間を抜けてオレが飛び去った後に、巨人の手のひらが振り下ろされ、石の床を激しく叩いた。


「あっぶねーところだった……」

 

 逃げる前のティエに女の子をあずけながら反省した。

 隠れていたとはいえ、完全に女の子を見失っていた。目だけでなく、ちゃんと生命感知魔法など使うべきだった。

 だいたい、このガキの親と護衛はどこだ?

 まさか先に逃げたのか?


「その子、ドッペルゲンガーと遊んでた子ですね」

『……気を失ってた子を連れてった親がいた』


「おい、おまえどっち(・・・)だ?」

 アザナの指摘とディータの報告を聞いて、この女の子が『どっち』なのか気になり尋ねた。

 

 ドッペルゲンガーとは人間に変身できる魔物だ。チームの誰かと入れ替わるなどし、かなり厄介な魔物である。

 マンティコアが命をかけて救ったのは、人間の女の子なのかそれとも変身する魔物なのか?


「おっと、それどころじゃないな」


「アリアンマリ、ヴァリエ。お願い!」

「わかりました、アザナ様」

「……しょ、しょうがないわね!」


 アザナに女の子を託され、ヴァリエは迷わず頷いた。アリアンマリは反応が遅かったが、その分だけ大げさにしっかりと頷く。


 一緒に戦うと言っていた2人だったが、女の子を守るべきだという判断はしっかりできたらしい。


 見回すと残っている魔物はみな中位種ばかりだ。冒険者はもともと数が少なかったので目立たない……。


 あの毒舌ウサギは率先して下がっている。ま、首がない相手に首刎ね特化型の魔物がいてもしかたない。

 デュラハンは残っているが……首がないので、戦力がた落ちじゃないかな。もしあれで戦力変わらずだったら、首の立場がない。……いや、この場合は置き場がないかな? 

 ま、どっちでもいい。


 残った魔物はどれも、戦闘に関して人間よりはるかに長けている奴らだ。オレみたいな子供が残ってるのを見て、何も言いださない。


「子供は下れ、って言わないんだな」

 オレの疑問に、近くにいた岩巨人(トロール)が答える。頭なし巨人ほどではないが、大人の三倍くらいの身長がある筋肉質の魔物だ。


「そっちは勇者だからな」

 アザナをまず信頼しているらしい。ていうかトロールって喋れたんだ。


「その勇者が背をあずける者でしたら、下れとも言えないでしょう」


 デュラハンが言葉足らずのトロールの後に続く。

 それはオレのことか。

 

「いやー、まさか勇者様と肩を並べて戦うなんて思わなかった」

「末代まで誇れる……」

「これを話題に就職先も増えそうだな」


 何人かは悲壮な様子だったが、魔物たちが想像しているような苦戦はないだろう。

 ちらりとアザナを見ると、やはり余裕と好奇心が溢れる顔をしている。

 オレと同じで、未知の存在に興味が尽きないという顔だ。

 その顏を見つめていたら、むこうもオレの気持ちを察した様子で、輝くような笑顔を返してきた。


「よーし、いくぜ、アザナ!」


 アザナとこうして一緒に並んで戦える。オレはこんな二度目の人生に、喜びを感じて震えていた。



   *   *   *


 ……。

 …………。

 ………………あれ?


 さあ、オレたちの戦いはこれからだっ!!


 ――って状態だったのに、なんでオレはターラインの宿にいるんだ?


 しかもなぜ宿の廊下で、男物の靴下を持って立ち尽くしてるんだ?

 誰の靴下か知らないが、綺麗に洗濯された小ぶりの靴下を持ってオレは何をしているんだ?

 学園指定の靴下だが、オレのものではない……いや、靴下はどうでもいい。


 頭なしの巨人は?

 モンスターズサロンはどうなった?


 おかしい……、いやおかしくはないか。


 オレとアザナは巨人と戦った。うん、記憶はある。

 巨人を見事討ち果たして遺跡から帰還し、開発局に報告を済ませて夕食を取り、さっき宿の使用人からこの靴下が入った袋を「私は何も見てませんから」と言われて手渡された。


 そういう記憶はある。

 だが、いつの間にかここにいたような気がする。 

 記憶は定かだか、意識が今まで飛んでいたような感覚……いや、今に意識が飛んできた錯覚というか?


『……どうしたの? ザル様』

 タルピーが近くにいないのか、全裸姿のディータがふよふよと頭上から降りてきた。


 ちょうどいい。外付けメモ帳のディータに聞いてみよう。


「おい、ディータ。これはいったいどういう――」

 そう問いかけようとした瞬間、オレの声を打ち消すアリアンマリの突き刺すような糾弾の声が、背後から飛んできた


「なんで! なんでアンタの靴下がアザナ様の部屋にあったのよ!」


 え?

 何を言ってるんだ、アリアンマリ?


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